第2話 幼き傀儡でございます

 


 ぐりぐりぐりぐりぐり……。


 私はゴーレムの傷口に無理矢理ねじ込まれ、サイズがぴったりだったのか、すっぽりとはまってしまった。


 あー、わかる。

 自分がこの子の体の一部として吸収されてく感じがよくわかる。

 まるで指の上でアイスクリームが溶けているような、吸い込まれるようなこの感覚。


 思ったより早く小石の人生という、地獄のような孤独な一生を終えられることができたのかもしれない。

 よかった…本当によかった。

 さっき感じた運命って、このことだったんだね!


 幼いゴーレムちゃん、ありがとう。

 私はこのまま死ぬけれど、もう転んだりせずにうまくゴーレムとして生きていってね。


 あぁ、神様、どうか私の次の輪廻転生先は、超美少女で将来的に大金持ちで優しいイケメンと結婚できる人生か、超イケメンでどっかの可愛いお嬢様と結婚して逆玉の輿する人生にしてくださいな。



◆◆◆



 あれ? おかしいな、意識がある。

 目の前はまるで明かりの灯ってない真夜中のように真っ暗だけど。

 おかしいな、私はゴーレムちゃんに体の一部として吸収されながら、玉の輿美少女か逆玉の輿イケメンになることを望んで死んだはず。


 あ! もしかしてもう目を開けたら、玉のように可愛くて可憐な赤ちゃんとして生まれ変わっていて、美貌溢れる玉の輿の素晴らしい人生を歩むのかも……。


 そんな淡い期待を込めつつ私はそっと目を開け_____られなかった。

 そもそも瞼なんてなくて、最初から目は空いてたみたい。

 じゃあなんでさっきは暗かったの?


 私はその原因に割と悩むことなく気づけた。

 数日間も居続けた岩壁に顔が驚くほど密着していたから暗かったんだ。


 チッ……なーんだ、死ななかったのか。


 だけどおかしいなぁ。

 小石の時と比べて、ものすごく目線が高いよ。

 さらに、身体含め手足の感覚がある感じがする。

 どうにも、私がなんらかの方法でいきなり身体を手に入れたとしか思えな……!?


 まさか……まさか私が吸収されたんじゃなくて、逆に私がゴーレムちゃんを吸収して、今の私はあの幼いゴーレムちゃんになってたり?

 

 私は自分の、さっきまでなかったはずの"手"を慌てて見てみた。

 その手は岩と土でできていて、子供用手袋のように、親指以外全部くっついる上に、なんかすごく、でかい気がする。

 その上、腕が地面につきそうなくらいに長い。


 これは完全にあれだね、私はゴーレムちゃんになっちゃったか、あるいは吸収されたはずが逆にあの子を吸収しちゃったんだね。

 どういう原理かまったくこれっぽっちもわかんないけどさ。

 うぅ…美少女になれなかった…イケメンにもなれなかった……わたしの玉の輿が____


 まぁ、道端の小石なんかよりも何十倍もマシだし、これはこれでいいかな? 幼ゴーレムちゃんには悪いけど。

 ちゃんと身体はあるし、手足それぞれ細かく動かして試運転してみたけれど、なんら過ごすには支障ないみたいだし。


 さて、これからどうするかな? 特に生きる以外の目的もない私は何をしたら良いんだろうね。


 とりあえず、何かを求めて歩いとけばいいかな?


 私は今まで見ていることしかできなかった、土と岩でできた、車二台分はありそうなこの広い道を自分の…いや、他者から奪ったこの足でえっちらおっちらと歩き始めた。


 注意することがあるとすれば、転ぶとか、ぶつかるとかの強い衝撃には気をつけないといけないよね。 

 さっきの、幼ゴーレムちゃんが転ぶところを見ていた限りでは、この身体はすごく脆いもの。


 慎重に慎重に、足元と前方、それと上からの落下物がないか、気をつけながら私は広いこの道をまっすぐすすむ。

 歩くスピードは決して早くはないけれど、イライラして、周りへの注意力が散漫になるほど遅くもない。

 小さな子供がほふく前進で進むぐらいのスピードはあるんじゃないかな?


 えっちらおっちら、えっちらおっちらと私は一歩一歩噛み締めてとにかく歩き続ける。

 

 一体何時間歩いたんだろう、かなり歩いてるはずなのに全く疲れるような様子がない。

 ご飯も水分もいらない、そもそも口がない。

 その上、眠気も来ない。

 なんというパーフェクトバディ。

 まるで動き続けるためにだけに生まれてきたような、変なところで頑丈な身体だよ…。

 

 それにしても、これから本当にどうしよう。

 馬車が通ってきているから、人間がいるってことはわかってる。

 ファンタジーであろうこの世界では、つまり私は魔物とか怪物とかモンスターとかクリーチャーとかエネミーとかスペクターとかなんだよね、多分。

 家畜みたいに共同生活してる線もなくはないけれど、人にはそう簡単に私のこの姿は見せない方がいいかもしれないね。

 そもそもこの子、こんなに転びやすそうな体型で、さらに簡単に欠けるほど脆いんだし、きっと子供にすらあっという間に殺されると思う。

 やっぱり気をつけなきゃね。


 私は再び周りに細心の注意を払って気を引き締めて歩く、とにかく歩く。

 それにしてもこの岩の道はどこまで続いてるのかな?

 もうかなり歩いたんだよ? つかれることはないけど。。


 私は時たまに、そこらへんに落ちている小石を身体のどこか、主に腹部にくっつけて吸収して暇つぶししてるの。

 石は食べられるんだよね…口がないのに。

 これ、共食いにならないよね?


 ……と、こんなにつまみ食いしてたからかな?

 もう辺りが夕方と終わりに近づいてきて、かなり暗くなっちゃった。

 どうしよう、夜の間も動き続けた方がいいかな? うん、完全に見えなくなったら休んじゃおうっと。

 眠気はないんだけれど、これまた不思議なことに、寝ることはできるみたいだしね。


 夜月の明かりがなかったら、もはやなにも見えないと予測できるくらいには暗くなった頃、岩の影からピョンとブヨブヨとした何かが勢いよく飛び出してきた。


 不意打ちのつもりなのかな? なかなか派手な登場をしたそのブヨブヨ何かは私に向かってジャンプしながら、体当たりをかましてきた。


 そこでなぜかはわからないけれど、私の身体が今までの幼ゴーレムの遅さでは考えられないような速さで咄嗟に動く。

 これは"ゴーレム"という本能が動かしてるんじゃなくて、私の元人間、元小石としての脳の機能が"反射"で動いているんだ。


 その不意打ちしてきた何かを、改めて歩く時とでは考えられないような反射神経で右手でいなし、そのまますかさずその何かに左肘の鉄槌をいれた。


 その何かは勢いよく吹っ飛んだようだ。

 ふむふむ、中々に手応えがあったみたいだけど、このブヨブヨした奴、まるで少し柔らかめのゼリーを殴ったようなバシャッとした音がしたよ?


 ほんの少し辺りを照らしてくれている月と星の光のおかげで、吹っ飛んばした先に居るその、ブヨブヨとした何かの正体をよく見れた。

 

 それはアンノウン、液体生物、丸い。

 地球にはこんなの存在しないけど、ゲームには存在してる、まさにファンタジーのテンプレ生物。

 そう、そいつの名前はスライムだ。

 まさに、スライムとしか言いようがないような薄黄緑色の生物が少し弱った感じで、私が肘鉄のカウンターで吹っ飛ばした場所に居た。


 ほう、攻撃してきたということは、スライム(仮)よ、貴様は私と敵対するということでいいんだね?

 私はまだ動けずにいるスライムに近寄り、頭部であろうとみれる部位を行動を抑えるために左手で引っ掴み、勢いよく右手の拳を振り下ろす。



ブショーーー!



 うむ、かなり手応えありだね。

 私はプルプル震えているスライムを一旦手から放してやる。

 相当、右手の私の振り下ろしが効いたんだろうね。石で殴られたら痛いもんね。


 そう考えつつもう一度、殴るためにスライム(仮)をみてみると、下部がずりずりと後ずさりしていて、私から少しずつ遠ざかろうとしているのがわかった。

 残念、先に攻撃してきたのは君だよ。逃がさん。


 私はファイティングポースのごとく、その長い腕を、無理のないような形で顔の前に構える。

 そして、スライムに向かって左のパンチ…左ジャブを2回入れた後に右のストレート。


 

ピシャーーーー! ピシャ………



 スライムは断末魔らしきものをあげながら弾けたよ!

 やったね! 大勝利!

 

 でも倒したはいいんだけど、なんでかすこし身体がムズムズする。


 小石を食べたから排泄しなきゃいけないとか?

 スライムは実は毒を持ってたとか?

 いや、そんな感じじゃないんだよね、少し癖になりそうな気持ち良さがあるし、どうしても悪い影響のものだとは思えない。

 スライムを倒した瞬間にムズムズして……ここはファンタジーで……あ、これもしかして?



【スライムを倒した! 経験値5を取得】

【レベルが1上がり、レベル2になった! 詳細はステータスを見ましょう】



 うん! やっぱりね。

 そんなことじゃないかと思ってたんだ。


 でも、ステータスの見方がわからん。

 ステータスみたいなー?

 どうすればいいのかなー?

 

 そう考えていたら、ステータスが表示された。

 成る程ね、見たかったら、見たいと思えば見れるんだ。

 やっぱり、地球ではありえない、かなりファンタジックだね。



==============

トゥーンゴーレム

Lv.2


HP: 15/15

MP: 7/7

攻撃:15

魔力:7

防御:15

器用:7

素早:5

==============

 

 

 やっぱり私が吸収したこの身体はゴーレムだったんだ。

 それにしても地球のゲームのようにいかにもゴーレムって感じの、攻撃と防御基準のステータスしてる。

 個人的にそこまで素早さ低くないと思うんだけどね。


 ところで、さっきの私の格闘技のフルコンボはなんだったんだろう? 

 前世、私はなにか格闘技でもやってたのかな?

 まぁ、いまはそんなこと、幸運程度に捉えればいいかな。

 つまりこれでもう、何者かに襲われて、無抵抗のままいきなり死んじゃうようなことはないわけだよね。

 格闘技と高い反射神経がなんとかしてくれる。


 勝てそうな魔物…いやモンスターかな? 

 まぁ、とにかくなんかファンタジーっぽい生き物がいたら、経験値の肥やしとして殴り飛ばせばいいよね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る