最終話 私は〈元〉小石でございます!

「白粉はいる?」

「アイリスちゃんって肌白いよね、もともと」

「じゃあ口紅とかチークとかで勝負だね!」

「だね!」



 ロモンちゃんがおしろいや口紅を持ち、リンネちゃんが照明や手鏡を持ってくれている。

 私はこの二人に今まさに、化粧を施されていた。誰かに化粧をしてもらうなんて、習った時以来かもしれない。



「あー、それにしてもアイリスちゃんほんと綺麗!」

「ねー、まるで宝石みたい!」

「そ、そうですか? えへへ……」



 双子から何度も何度も褒められながら、丁寧に丁寧に彩られてゆく。一分一秒がゆっくり流れているような気がしてたまらない。心臓の鼓動が早いのを感じる。

 そして体感で100時間後。正確にはだいたい1時間半後、メイクアップが終わった。



「よし、じゃあお母さん達に確認してもらおう」

「そうしよう。おかあーさーん! ペリドットさーん!」



 二人に呼ばれて、私のための別の作業をしていたお母さんとペリドットさんが私の様子を見に来る。二人とも私を見て、目を輝かせ始めた。



「……完璧ね! すっっっごく綺麗よ、アイリスちゃん!」

「あら~、いいわ~! 本当に素敵!」

「やったね! 頑張った甲斐があったよ!」

「ね! 頑張ったもんね!」

「ふふふ、ありがとうございます」



 胸を張るロモンちゃんとリンネちゃんが微笑ましい。いつか2人が私と同じ立場に立った時は、お返しとしてバッチリ決めてあげないと。



「それにしてもアイリスちゃん、気になってたんだけど、それはいいの? 嫌じゃなかったっけ、胸とか背中とか露出してるの」

「あ、たしかに。どうなの? みんなの前出れる?」

「ウェディングドレスですからね、特別も特別ですよ! 特別なので大丈夫です!」



 こんな晴れやかな衣装にまで、露出を見られたくない云々は持ち込む必要はない。今日はこれが私の正装であり、制服なのだから。


 しかしまさか、密かに憧れていた純白のウェディングドレスに私が身を包むことになろうとは。ただただ従者に徹していた頃の私からは考えられない。私のただの女性である一面が、心底はしゃいでいる。



「これで一段落かな」

「そうだね、式まであと三十分くらい」

「その前に、彼にもこの姿を見せてあげたいわね!」

「そうね~」

「……む、扉の向こうから何人か来る気がする」

「本当だ。未来予知じゃなくてもわかるよ」



 ロモンちゃんとリンネちゃんの言うように、この花嫁側の控え室の出入り口前から何人もの男性の声が聞こえてきた。もちろん、全員聞き知っている声だ。



「さあ、行くんだ! 君が娘の晴れ姿を見なければ意味がないんだぞ!」

「六百年以上生きた僕の先を越すんだ、アイリスちゃんの晴れ姿を責任を持って目に焼き付けるんだよ」

「おらおら、恥ずかしがるなよー!」

「大丈夫だ、もう終わったらしい……そう、声が聞こえた。突入しろ」

【面白そうだからオイラもグイグイ押すんだゾ!】

「ちょ……みなさ……おわぁ!?」



 バン、と大きな音を立てて勢いよく扉が開いた。

 聞こえた通りの声の男性陣が顔をのぞかせ、主役の一人は私の前に転びそうになりながらやってくる。

 そして彼が顔を上げた時、私達の目が合った。



「あ……!」

「あ……え、えと……い、いかがでしょうか……?」



 おそるおそる聞いてみる。すると彼は唾を飲み込んだ後、その瞳に私を写しながら辿々しく言葉を紡ぐ。



「……綺麗だ。すごく。いや、本当に……なんというか、もう言葉が出てこないくらい」

「そ、そうですか……? ありがとうございます……! ガーベラくんこそ……とてもカッコいいです、心の底からそう思います」

「……あ、ありがとうっ」



 事実、彼はこの上なくカッコいい。こんなイケメンと私が結婚なんてしてしまっていいのだろうかと、つい考えてしまうほどに。無論、だからと言って彼を誰かに渡すつもりなんてないけれど。



【これはもう一押しってやつかゾ】

「え……? わっ!?」

「ひゃっ!」



 ケル君が彼の膝に向かってタックルをかました。彼の片膝は『く』の字に折れ曲がり、バランスを保とうと彼の両手が私の肩に置かれた。お互いの顔がより近くなった。



「あ……ごめん」

「いえ、いえ……」

「……」

「……!」



 私の頭上より上から、唇に目掛けて顔が近づいてくる。私はほぼ無意識にそれを受け入れる体制をとった。

 小石視点より、双子は顔を赤らめ自分の口を手で塞ぎ、ケル君はしてやったりの表情を浮かべ、他のみんなは期待するような顔でこちらを見ているのがわかる。

 ……いや、小石視点なんかで目線を逸らしたらダメだ。ちゃんと、彼の気持ちを受け入れなければ。彼は私に、あの時、あの瞬間、ちゃんと気持ちを打ち明けたのだから。




__________

_____

_



 私達、地球から来た魂の全員の答えが出揃い、世界はその望み通りにしてくれた。

 その後、世界はほどなくして自分にとって子供である皆をこれからも延々と見守り続けると宣言し、消えていったのであった。



「「アイリスちゃんっ!!」」

「はいっ……! これからも……よろしくお願いします!」



 間髪入れずに、泣きじゃくりながら飛びついてきたロモンちゃんとリンネちゃんを、私は抱きしめる。これから私はまたこの二人と一緒に……いや、この世界の皆と一緒に、この世界の住人として生きていくんだ。私は、アイリスとして!



「……さてと。そうと決まればやることは沢山ありますのぉ。国王様」



 しばらくして、おじいさんが仕切るように声を上げた。話を振られた国王様はニコニコしながら頷いて答える。



「そうだね! あんな話を聞かされたんだもの。もっと厳重に魔王を封印する計画を練ったり、ここに残ることになった皆の暮らし方を決めたりしなきゃね! 特に勇者のガーベラくんは慎重に。大方、騎士団長みたいな扱いになるとは思うけどね」

【オイラとしては、ガーベラとアイリスの約束がどうなってるか知りたいゾ。あの二人、チキューの記憶が完全に戻ったゾ? となるとまた関係が変わってくるんじゃないかゾ?】

「むむむ、確かに気になるね」



 そう、彼は私と一緒にここに残る選択をした。

 地球でも彼が私のことを異性として好いてくれているのはなんとなくわかってはいたけれど。地球よりも私を選ぶとは流石に予想外だった。

 そして、もしこの世界でのガーベラとアイリスとしての約束を果たすなら、私達はこのあと結婚することになる。ただ。



「えー? 結婚するんじゃないの?」

「お姉ちゃん、実は結構チキューでは関係が進んでなかったんだよ、アイリスちゃん達。友達というか、親友って感じではあったけど恋人じゃなかったの」

「それじゃあ、その記憶が蘇ったってことは、また二人の関係は一からってことだよね……」



 その通りだ。ガーベラとアイリスはともかく、勝負と愛理は付き合っていない。なんとも複雑な話だけれど、それが事実。

 とはいえ、こんなゴタゴタしている時に話すような話でもないだろう。



「さ、流石にそう言った話し合いは後日に……」

「いや、今決めよう」

「え? あっ……ちょ……」



 そう、きっぱりと言い切ったのは彼だった。

 その言葉を聞き、ニヤついた顔を浮かべた双子が抱きていていた私から離れ、さらに腕を引いて彼の元まで近づかせられる。



「はい、どーぞ」

「じゃ、がんばって!」



 私と彼が向き合う形を取らされ、二人はこちら見守る皆の元へ戻っていった。



「い、今決めようって……!」

「ごめん、どうしても俺の今の気持ちを伝えたくて」



 真っ直ぐな視線を私に向ける。なにか、私の内臓の一部が激しく荒れ狂い始めた。



「えっと……あの……ガーベラさん……いや、勝負くん……えーっと……今後はどちらで呼びましょう」

「好きな方でいいよ。……でも俺はこの世界で過ごすと決めた、だから君のことをアイリスと呼ぶ。いいかな?」

「え、ええ。構いません。なら私も貴方のことをガーベラくんと呼びましょう」



 それに関しては、両方呼び慣れているためどっちでも良かった。ガーベラくんが私をアイリスと呼び続けると決めたなら、私も彼をこちらの名前寄りで呼ぼう。敬称だけ変更して。

 ……とりあえず、私はこんなことを話すためにガーベラさんの前に引きずり渡されたわけじゃない。本題を。



「そ、それで! ガーベラくんは私をどうしたいのですか?」

「俺は……アイリスが好きだ」

「それは、承知しております。そうでなければこんな決断しないでしょう。高頻度で、狙ったかのように私とお嬢様の前に姿を現したことといい……この世界でも似たようなことを繰り返して……ここまできたらストーキング行為をしていると言っても過言じゃありませんね! そうでなければ都合良すぎで……あっ」


 

 しまった、恥ずかしさのあまり余計なこと言ってしまった。

 ストーカー呼ばわりされたのに対し、ガーベラさんは意外にも、反論することなくすんなりと頷いた。すごく悲しそうな顔で。



「言いすぎました。ごめんなさい」

「いや。いいんだ。俺は正直、記憶を取り戻したらそう言われるんじゃないかってビクビクしてた。結果だけ見ればストーカーであることを否定できない。こわかった。アイリスはそういうの嫌いだろう?」

「……ええ、そうですね。心を許していない相手が付き纏ってくるのは最悪な気分にしかなりません」



 ガーベラくんは私より先に記憶を取り戻していた。たまに私に対しての発言や行動を慎もうとしていた節があったのは、そのためなのだろうと今更ながらに理解した。こんな相談しにくいこと、ずっと一人で気にしていたんだ。



「そっか」

「ええ」

「じゃあ、俺は問題ないんだ」

「……ええ」



 そう、ああいう言い方をしても私の親友だった彼だから、私が遠回しに言いたいこともこうしてわかるんだ。

 ガーベラさんは一度深呼吸をすると、より私にむかって踏み込んできた。



「それなら……はっきりと、言いたいことがある」

「はい」

「予定通り、約束通り……俺と結婚して欲しい」



 私はその真っ直ぐな瞳を見る。

 今度は私より強いかどうかの手合わせなんて必要ない。


 2度目にして1度目とも言えるプロポーズ。

 予定通りだから、私達はやはりこの騒動が終わってからすぐ結婚するんだろう。


 付き合って一年未満、二十歳も超えずに結婚なんてやっぱり私らしくない。でもいいでしょう、これでも。もう昔の私は、今の私じゃないのだから。


 それにガーベラ君とはもう何年も連れ添ってきた。私の性格を把握しきっている未婚の男性は彼しかいない。その逆も然り。

 私が今みたいに自由の身になって、結婚したいと思える相手は彼しかいないとも言える。その上、イケメンで優しくて勇者だからお金持ちだし……。


 そもそも根本的に言えば私がこの場にいるのは、彼を連れ帰り、結婚を実現させるためで……。とにかく私は。



「はいっ……!」



 返事をした。



-

_____

__________





「そこまでじゃ。少しくらい我慢せぬか。あと少しで始まる本番までそういうのはとっておきなさい」



 男性陣の奥の方から、少しだけ呆れたようなおじいさんの声が聞こえてくる。唇と唇がくっつく本当に直前のことだった。

 私はプロポーズされた一ヶ月と一週間ほど前の記憶の中から我に帰り、正気に戻る。



「え……あ、申し訳ありません!」

「す、すいません!」


 

 キスする寸前にあんなことをフラッシュバックするなんて、随分ロマンチックな性格になったものだと自分で思う。とにかくおじいさんの言う通り、ここでキスしてしまっては勿体無い。

 気持ちを受け入れるとか言って、よく考えたら実際は単に浮かれていただけなのが恥ずかしい。



「まあ、新郎新婦が仲睦まじいのは良いことじゃが。この調子だと二人はノアとグライド君みたいになりそうだな……」

「あらあら」

「お、義父さん………」

「ラブラブってことかな、お姉ちゃん」

「そうだよ多分。ラブラブかー、いいね!」



 お父さんは赤面し、咳払いを一つした。

 私がこの世界での両親みたいになる……私からは想像できないけど、たぶん側から見たらそうなりそうなのだろう。彼と過度なほどにラブラブに過ごすのは正直、悪くない。



「……コホン。そ、そろそろ皆、入場しないか? 時間も迫っているだろう」

「ふっ……。ワシはそれを言いにきたんじゃ。招待客もほぼ集まりきっておる。王様も準備を終えて、お待ちかねじゃ」

【なら、もう行ったほうがいいゾ、ね】

「じゃあね、アイリスちゃん!」

「がんばってね!」



 みんな、ゾロゾロとこの場から去っていった。残されたのはガーベラくんと私だけになる。



「じゃあ、俺もそろそろ最後の準備をするとしよう。またあとで」

「はい、あとで」



 そしてガーベラくんもいなくなった。私も、式を運営するスタッフこと、この世界では教会のシスターさんに手伝ってもらって本番に向けた最終チェックを行う。

 ……十数分後。私の出番が来たと呼ばれ、式場の扉の前に立った。既に列席者や司式者が入場し終え、開式の辞も済み、新郎であるガーベラさんも呼ばれている状態。いよいよだ。

 高鳴る心臓と緊張感を深呼吸で抑えようとしているところに、この中へ隣で一緒に入場してくれる人が、静かに私の横に着いた。



「おめでとう。ふふふ……とても綺麗だよ、お姉ちゃん」

「ありがとうございます、お嬢様」



 その人はお嬢様。

 本来は私の義父であるお父さんこと、グライドさんの役目だけれど、お嬢様がどうしても、せめてこの役はやりたいと私とガーベラくんの結婚が確定してから申し出てきたのだった。



「少し寂しいんだよ? せっかくばぁやが完全に私のお姉ちゃんになると思ったのに。もう勝負さんに貰われていくだなんて。……でもそれ以上に私は嬉しい。今のお姉ちゃん、本当に幸せそうだもの」

「……はい」



 お嬢様は世界から選択を迫られた時、この世界に残ると言った。そして結局、全員がこの世界に残ることとなった。

 彼女自身が述べた、この世界に残る理由は二つ。


 一つは、ケルくんの言った通り地球に居たままでは、あの旧校舎の場を逃れても命を狙われ続けるため。私やガーベラくんなど、安心して命を預けられる相手が居なくなった後で、生き残れる自信がないと言う。


 二つ目は私と一緒に居たかったから。この世界でなら、お嬢様が亡くなる間際に呟いていた私と姉妹になるという夢が、こうして別世界で生きているままに叶えられる。実際、お嬢様もターコイズ家の養子となり私達が総じて四人姉妹になることが決まっている。


 なんだか、私がお嬢様に合わさせたような感じになってしまった。加えて、蛇神家は今後どうなるのか、大財閥の一人娘が欠け私達の世界自体がどう傾くか、わからない。



「もしかして、こんな時期になってもまだ、ばぁやの選択が私を無理にこの世界に残らせたとか考えてないよね?」



 見透かしたような発言に、私は驚くことしかできない。そして、頷いた。お嬢様は少し頬を膨らませる。



「私があの家の当主に早くなりたかったのは、ばぁや……お姉ちゃんを幸せにしたかったからなんだ。だって好きだったでしょ? 勝負さんのこと」

「あ……いや……まあ、はい、そうです。違いありません」

「でもあの世界に居たらそれは難しかった。なのに、この世界にいたらそれが簡単に叶うんだもん。ついでに私まで命の保証もされて、一番大事な人と家族になれて……そうするとね、私まで幸せになるってことに気がついたんだよ」



 お嬢様が目を潤ませ、今にも泣き出しそうな顔で無理をして満面の笑みを浮かべながら私の手を優しくギュと握りしめる。



「だから、行こう! この先に!」

「……はいっ!」



 私の名前が呼ばれ、扉が開かれた。

 扉の先には大勢のこの世界に来て私がお世話になった人たちがいる。ジエダちゃん兄弟を始めとしたギルドのみんな、鍛冶屋のおじさん、宿屋の家族、お城の皆様、騎士団の皆様、ターコイズ家に、王家……。なんだか一瞬、世界そのものも居た気がする。


 とにかく、こんなにたくさんの関係を私は作った。そしてこれからもお世話になっていく。この世界で。

 

 お嬢様に手を引かれ、多くの目線を向けられながら私は祭壇の前に着いた。そこには私の夫となるガーベラくんが緊張した面持ちで立っている。私は彼と対面した。

 彼は小声で言う。



「俺は幸せ者だ」



 私も小声で返事をする。



「私もです」



 司式者が本を開き列席者もそれにならう。讃美歌が歌われる。愛の教えも説かれ、いざ、この式に置いて最重要場面となった。



「じゃあ……次に契約と指輪の交換だよ。いいね、いいね?」

「「はい」」



 尚、私とガーベラくんの挙式にて司式者を買って出てくれたのは教会の司教様ではなく、ルビィ国王そのひとで、いまこうして実際に祭壇に立っていち満面の笑顔で実に嬉しそうにこの式を取り仕切って下さっている。この提案をしてした時は流石に驚いた。



「よーし、では。……二人はこれから夫婦として一生互いに、慕い、敬い、慰め、助け、変わることなく……健やかなる時も病める時も、富める時も貧しい時も、宝石のような命の輝きを失わない限り、互いに対して深く、愛を育むことを誓いますか?」



 ガーベラくんは答える。



「誓います!」



 次に、私も答える。



「誓います」



 王様はにっこりと微笑むと、言葉を続ける。



「……指輪の交換を」



 私はガーベラくんに左手を差し出した。ガーベラくんはその薬指に結婚指輪をはめてくれる。それが済むと、ガーベラくんは左手を差し出した。私はその薬指に結婚指輪をはめる。



「では、誓いのキスを」



 ガーベラくんは私の顔にかかっているベールをそっと持ち上げた。私とガーベラくんの目があった。全身が熱ったように感じる。それと同時に、幸せに包まれている。

 私は目を瞑り、そして_________!




◆◆◆




 私は一冊の分厚い本を閉じた。

 そして、膝に乗る我が子の頭を撫でる。



「以上が直近の勇者と、その仲間たちの伝記となります。いかがでしたか?」

「うーん……」



 私と同じ銀髪の髪と共に、彼と同じ青い瞳が揺れた。幼い彼女はわざとらしく腕を組み、少なくない疑問を浮かべていることを態度で示している。



「おかあしゃまとおとーしゃまのナレショメはわかりました」

「はい」

「おかあしゃまとおとーしゃまが、しゅごくしゅごいのもわかりました」

「ふふ、ありがとうございます」

「でも……でも、わたしにはまだリカイ……? が、できないことがあるのでしゅ」

「おや、なんでしょう」



 我が子は私に抱きつき、胸に顔を埋めた。そして甘えるように可愛らしく顔を擦り付けてくる。それが済むと再び顔を上げ、私の顔をジーッと見つめた。



「こんなにポカポカしてて、いいにおいするやさしーおかあさまが、もともとそこらへんのコイシみたいだったなんて、しんじられないのでしゅ! おかあさまはどーみたって、ニンゲンでしゅよ?」



 あまりの必死な表情に思わず笑みが溢れる。

 私は彼女を優しく抱きしめ、再び頭を撫でてこう言った。今ある幸せを噛み締めながら。



「いいえ、それでいいのです。間違いなく私は_______」

























私は〈元〉小石です!

~癒し系ゴーレムと魔物使い~


- Fin -




























#####



これにて本作、『私は〈元〉小石です! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~』本編が完結となります。閲覧、誠にありがとうございました。


本作はアルファポリス及び小説家になろうにて2016年の5月から投稿を開始しました。以降、今日(2021年3月)に至るまでおよそ四年と十ヶ月の月日を要し、合計約120万文字の連載が続きました。


途中、投稿期間を毎日から隔日、隔日から週二日、周二日から週一日にしたり、だいたい毎回投稿予定時刻から25時間ほどずれたり、私の心的状況から数ヶ月の救済をしたりしてしまいました。


しかし、このようにさまざまなことがあったとはいえ、今日まで投稿を続けられ、最終的に完結と至れたのは、ひとえに皆さまの愛読と応援のおかげであります。本当にありがとうございました。


あとは後日談を2~3話投稿しまして、本作は完全完結となります。

もう少しだけどうか、お付き合いくださいませ。


後日談の最初の投稿は3/23です。

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