第237話 紹介した後でございます……!
「ほう……記憶がな」
「そうなんですよ」
あれからおじいさんに身の上話をせがまれたガーベラさんは、昔の記憶が曖昧で、一部消えてすらいると説明していた。やっぱり生まれた場所とかもまだ思い出せていないみたい。
「記憶、ねぇ」
「ナイト? 俺が記憶を消失していることに心当たりがあったりするのか……?」
「いやないよ。ないない」
手をひらひらと振りながらナイトさんは否定する。でも結構なにか意味を含んでいるような言い方だったのは確か。
「人生経験長いじゃろ、わからんのか?」
「いきてる時間が長いからって何もかもわかるわけじゃないよ」
たしかに。でもいい加減ナイトさんの年齢を知りたくなってきた。やっぱりどうにも見た目通りの年齢じゃないっぽいし。
「あの、ナイトさんっておいくつですか?」
「いくつに見える?」
「20代前半から、行ってても30歳より前ですかね」
「そう見えるならそうだよ」
「えぇ……?」
ますますわからなくなった。おじいさんはきた時より顔を赤くしてカラカラと笑っている。
「でもさっき、ジーゼフさんは自分より歳上だと……」
「気のせい気のせい。それにさ、仮に見た目さえ若ければそれでよくないかな? アイリスちゃんだって本当は20歳近い年齢なんかじゃないんだろ?」
「ワシの見立てじゃと、あの頃のアイリスちゃんは生後3週間程度のトゥーンゴーレムじゃった。加えてロモンの仲魔になってから10ヶ月以上経つが、まだ1つも歳はとってないの」
「ね? 実年齢なんて気にする必要はないんだよ」
「そう、です……ね?」
たしかにそうかもしれないけれど、どう考えてもこれは言いくるめられたわよね? まあこれ以上年齢のことに突っ込むのも失礼だし、深追いするのはやめておこうかな。
でもナイトさんは若く見積もっても60代前半であろうおじいさんより歳上かもしれないというのは流石にびっくりだけど。やっぱり謎が多い人ね。
おじいさんは相当親しいみたいだしナイトさんが何者か分かってるみたいだけど。
「そろそろ行こうかな」
「うん、そうだね」
お酒を飲み干したであろうおじいさんとナイトさんは席から立ち上がった。まだ来てから30分ぐらいしか経ってない。
「もう行かれるのですか?」
「もうすこしゆっくりしていけばいいじゃないですか」
「いや、さっきから大体30分ほどで1つの店を回ってるからな。これでいいんじゃよ二人とも」
「そういうわけだ」
おじいさんはギルドマスターを呼び寄せてお酒の代金を直接渡すと、そのまま二人でギルドを出て行ってしまった。でもやっぱり来た時より足取りが酔っ払っている。
「嵐のように過ぎていったな……もうすこし話をしたかったんだが」
ギルドマスターはおじいさん達が飲んでいた酒瓶を片手にポツリとそう言った。他の冒険者の人たちも同じような感想を抱いたみたいで、キョトンとした顔をしていたり、ギルドの入り口をじーっとみ続けていたり、名残惜しそうにしている。
「きっ……緊張したぁ……」
しばらくした後、ガーベラさんは深呼吸をしながらそう言った。
「ご挨拶ご苦労様でした。そしてありがとうございます」
「俺としては付き合うことを許されて嬉しいよ」
「そ、そうですか……!」
そう言ってくれると私も嬉しい。もうすっかり彼氏と彼女の関係になれてると思う。このままお互い呼び捨てで名前を呼びあったりして……関係を進めていけば、ガーベラさんが私の……。
◆◆◆
「しかし、本当に驚いたよ」
「ワシもじゃよ」
ジーゼフとナイトはギルドを出てから、また別の店で酒を飲みながら話していた。
ジーゼフは普段こんなにも酒は飲まないが、旧友と出会ったことで話をするたびについ飲んでしまっている。
「君の孫なら本当に言うことはない。アイリスちゃんのこともよく知ってくれていてよかった」
「そりゃあ、ロモンに契約を促したのはワシじゃからな……ところで」
ジーゼフは飲んでいたグラスを静かに机の上に置き、酔っ払って高揚していた表情とは打って変わって、鋭い目をナイトに向けた。
ナイトはこれからなにを言われるか察したように目を瞑る。
「お主、わざとあのギルドに誘導したな……アイリスに合わせるためか?」
「その通りだジーゼフ」
「昔っからお主は回りくどいんじゃよ。どうせ久しぶりに飲もうと言ってきたのもこのためじゃろ?」
「そうだよ。ここで本題を話そう」
ナイトも真剣な顔を上げ、ガーベラはこれからナイトが口にすることの重大さを読み取った。
ため息を一つつき、どんな内容でも受け入れる準備をする。
「結論から言おう。……協力してほしい」
「内容によるが……言いたいことはわかる。しかしワシの力を、正確にはワシの仲魔を召喚するには国に許可を取らなければならんということはこの前話したはず」
「国だってすぐに許可を出してくれるさ。事態が事態だしね」
「やっぱりあいつらのことか」
ナイトは黙って軽く頷いた。
ジーゼフは自分の予想が当たったことが内心複雑に思い、気休めにワイングラスに酒を再び注ぐも、飲まずにそのまま置いておいた。
「まだどれだけ幹部が残ってるか分からんが、そうじゃな、ワシやお主、そしてワシの愛娘とその夫が出ればだいぶおさまるじゃろうて。それに実はアイリスも孫達もほぼ全ての幹部討伐に貢献しておるしな、なにも心配はいらん」
「……ジーゼフ違うんだ、心配しかないんだよ、すでに」
「勝ち越しているこの状況で心配じゃと? となると、まさかだとは思うが……」
「僕のランクと種族を忘れたわけじゃないだろうジーゼフ。もうわかるんだ。僕だって実際に会ったわけじゃない。でも魔力を感じる。すぐそこまで完全復活が近づいている」
ジーゼフは目を見開き一粒だけ汗を流す。
彼にとって動揺はリンネがサナトスファビドの死毒を食らったと聞いた時以来だった。
その際はすでにアイリスが治療済みであり、なにも心配することはなかったが、今回はそうもいかない。
「どれだけ近いんじゃ?」
「本当にもうすぐだ。1ヶ月か……2ヶ月か」
「そんなに……!? ワシはなにも感じんぞ?」
「君は純粋な人間だし仕方ないよ。ここ半年の間に一度でも君の相棒を出して上げたかい? 彼ぐらいになれば感じ取れると思うよ。ジーゼフが魔物使いとしての力を全力で発揮して僕に敵う強さを持つ彼なら」
ナイトはジーゼフの鞄を見た。その鞄の中に「彼」の封書が入っていることを知っているためだ。
ジーゼフは冷や汗をやっとハンカチでふき取ると、慌てた様子でナイトとの話を再開させた。
「わかった。それほどの事態じゃ、ワシと一緒に城に来てくれ」
「そう、それがお願いだ。飲みに誘った理由の一つだね」
「まだあるのか?」
「君にアイリスちゃんを会わせたかった理由をまだ話していない」
この時点でアイリスの名前を出した理由をジーゼフはすぐに感づいた。手が震える。
「ま、まさか……」
「魔王種が現れる場合、必ず魔王種に対抗できる力を持つ存在も現れる。人はそれを勇者という。彼女は僕と同じ極至種なんだろ? 1年にも満たない期間で、君の孫の手腕が優秀だったとしても……僕が反応できるほどの実力を持つのはありえない。それもゴーレムが、だ」
ジーゼフの顔色をみて、なにも言ってこないだろと考え、ナイトはそのまま話を続ける。
「君も勇者と魔王に関する書物の内容は頭に入ってるだろ? 特に国の重役だったんだから。……勇者の特徴はさっき言った通り驚異的な成長速度だけじゃない」
きちんとジーゼフも知っているのか、彼の顔色はさらに青くなる。ナイトは心中を察しながら話を進めて行く。
「まずどこかよく分からない場所の記憶を持っている。これは魔王種を封印した先代の勇者も、先ゝ代も、その前もそうだったらしい。その様子だと心当たりがあるね。次に自力で特技を開発する。今やそれなりの人が覚えている「エクスプロージョン」……あれは先代勇者が編み出したものだ。このことについての心当たりも……あるようだね」
ジーゼフはしばらく間をおいて、ようやく頷いた。
ハァ、とナイトはため息をつき彼の背中をさする。
「君がそこまで心配なのもわかるよ。魔王が現れ、勇者がアイリスちゃんだったとしたら……つまり君の家族全員が戦闘に巻き込まれることになるんだから」
「……なんとかすることはできぬか?」
「僕もまさかアイリスちゃんが君の家族だとは思わなかったから覚悟は軽かったけど……決心はしている。きちんとこの戦闘に参加しよう」
「助かる……!」
そういうと共にジーゼフは青くしていた顔を自分の頬を叩いて気合を入れ直した。行動に移すことに全力をだす、そう彼の気迫が物語っている。
「でもジーゼフ、慌てるなよ? こうは言ったけど、勇者を示すアイテムはまだ見つかってない。歴史書によれば勇者となるべき者が親しい人の中の誰かが最後に潜ったダンジョンから、1セットでてくるらしい。だからそれが見つかり勇者が示されるまで、一応まだアイリスちゃんが勇者と決まったわけじゃない」
「そうじゃな。とりあえず…….明日は城に乗り込む。ついて来てくれるんじゃろ?」
「もちろん。それがSSランク極至種である僕の仕事の一つ目だ」
「期待しておるぞ、アイリスが現れるまで最後の極至種と言われておった……ボーンナイトブレイブ」
◆◆◆
(余談)
「ところで」
「なんだい?」
「どうして今日、アイリスを口説いたんじゃ?」
「だってすごく可愛いじゃないか。容姿だけじゃなく、純粋で清楚で……あ、一つ言い忘れてたことがあるんだけど」
「ん?」
なぜガーベラがアイリスに告白したかの経緯をナイト改めボーンナイトブレイブはガーベラに話した。
「……まさか勇者候補だから口説いたんじゃなくて、本気でか。それもまあ……年の差を考えてくれ」
「いいじゃないか! 見た目の年齢ならお似合いだよ! あと容姿もね!」
「お主なら、ワシは反対しておったな。よく知ってる分だけ余計に」
「ぇええええぇぇええええっ!!」
二人は酒を残し、店を出た。
そのあとはもう、どこも店には寄ることがなかった。
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