第229話 村に帰って報告するのでございます!

 ダンジョンをクリアし、ケル君の集中特訓を始めてから11日間の日にちが過ぎた。

 ケル君は宣言通りに自分の覚えていた特技をそれぞれ現段階で習得できるだけの段階まで上げてしまった。それだけじゃなく、空歩や魔法を使わないで戦う時の体の動きなども研ぎ澄まされている。

 今のケル君は間違いなくDランク最強。もしかしたら今より一つ前の私と一対一で戦っても、私が負けてしまう可能性だってある。



「よーし、準備できた?」

「バッチリですとも」

「今日から3日間はおじいちゃん家泊まるからね! ガーベラさんにちゃんと言っておいたよね?」

「ええ、もちろん」



 まだ付き合い始めて一ヶ月経つか経たないかくらいだけど、すでにデートをした回数は5回に登る。お互いにお互いの扱いは慣れてきた。デートをすればするたびにあの人はいい人で、付き合ってよかったって思ったりする。



【ゾー! 行くんだゾ、行くんだゾ!】

「そうだね、そろそろ行こうか! ちゃんとぼくに捕まっててね」



 おじいさんが居て、ロモンちゃんとリンネちゃんの故郷である村への魔法陣はリンネちゃんが貼っている。

 私はリンネちゃんの肩を掴み、ロモンちゃんは手を握り、ケル君は抱きあげられ村に転移した。



「とうちゃーく!」

「んー、こうして久しぶりに来てみるとこの村って美味しい空気だってわかるよね!」

「住んでたうちは気がつかなかったけどねー」



 二人はほぼ同時に伸びをした。確かに二人の言う通り、街中より断然空気が澄んでいる。

 私たちの元に、一人の男性が近づいてきた。



「あっ……ロモンと………リンネッ……! とアイリス……」

「……ん、だぁれ?」

「えっ……」



 リンネちゃんに誰かと言われ、その男性はとても寂しそうな顔をした。リンネちゃんはちょっと首を傾げジーッと彼の顔をよく見たのち、ハッと気がついたように顔を明るくした。



「ヘマ!! ああ、ヘマか! ごめんごめん、なんかちょっと大きくなってて気がつかなかったよー」

「久しぶりヘマ!」

「いや、大丈夫だよリンネ。久しぶりロモン。俺だけじゃなくて二人も少し大きくなった?」



 ヘマ、つまり双子のことが好きな男の子二人のうちの、リンネちゃんに告白した方ね。

 彼は二人の顔を見て、足を見て、顔を見て、胸を見て、足を見て、胸を見て、顔を見た。

 珍しく二人はその視線の移動に気がついてないみたいだけど……側から見るとバレバレ。まあ思春期だから仕方ないか。二人とも胸もしっかり成長してるしね。



「ちょっとだけね! ヘマのがぼくらより身長伸びたよー」

「二人が出て行ってからまだそれほど時間たってないはずなんだけど」

「それは成長期だからですね」

「成長期……? 成長しやすい時期ってことかな? たしかにタイトの身長も伸びたし、そう言う時期なのかもな……リンネ何してるの?」

「んー、どのくらい差が開いたか見てるんだよー」



 リンネちゃんは自分とかなり身長差が開いた幼馴染にむかって手のひらでその差を図っている。

 それをなんだか嬉しそうな顔をしながら彼は受け入れていた。この様子を見てると何度か彼はリンネちゃんに殴られたり蹴られたりしても喜びそう。

 まあ実際やったらリンネちゃんのステータスが高すぎて骨折どころじゃ済まないと思うけど。



「むむむ……村を出る前よりだいたい2センチくらい差がついてる……」

「そっ……そうか。そうだリンネ、あとでお話とかできる? 二人で」

「二人っきりで? いいけど……?」



 ヘマ君が軽くガッツポーズした。恐ろしく早いガッツポーズ……私でなきゃ見逃しちゃうね。

 普段は私がいつも言い聞かせているため、その様なことを言ってくる男性には用心深い対応をしているリンネちゃんだけど、相手が幼馴染だからかあまり警戒はしてない様子。



「じゃあいつにする?」

「んー、午後3時くらいがいいかな。ぼくがヘマの家に行くよ」

「わ……わかった! 約束だからな!」



 そう言って彼はとても嬉しそうにどこか行ってしまった。リンネちゃんは肩をすくめる。



「なんであんなに嬉しそうなのかな?」

「…………やはり親友と近況を話し合えると言うのは、楽しみの一つだったりするかもですよ」

「そっかー」



 この二人は告白されてもそれに言い返すほど鈍感だから、もう私が下手に色々促しても意味をなさないだろうと判断し、仲をおちょくる様なことは言わないでおいた。

 そもそも私が手助けするのではなく、あの二人がロモンちゃんとリンネちゃんに自力で告白して100%の気持ちを伝えるべきなのよ! ガーベラさんみたいに……ふふふ。


 ともかく彼からおじいさんが今は家にいると聞けた私たちは家に直行した。家の前ですぐにおじいさんに遭遇。白蛇の魔物であるガーナさんと一緒にお庭の雑草取りをしていた。



「おじいちゃーん! たっだいまー!」

「おお!? お帰りなさい。何か報告が……ああ、その腕輪に抱いてる白い犬の魔物はケルか!」

【そうなんだゾ、ジーゼフ! オイラなんだゾ!】

「おほぉ……その姿は新種! それに言葉もアイリスみたいにスラスラと話せる様になっておるな」




 おじいさんは嬉しそうにしている。突然訪ねてきて迷惑だとかってことはないみたい。ロモンちゃんは抱き上げていたケル君を地面に下ろした。ケル君はまっすぐ一人と一匹の元に駆けてゆく。幼体化を解き、体を大きくしながら。



【ゾー! これがいまのオイラなんだゾ!】

【キミ、ホントウニ ケル? スゴイ セイチョウ シタワネ】

「おおぉぉ……こりゃあ…スゴイな。よーく見せておくれ」

【ゾ!】



 おじいさんは今していた作業を中断し、すぐに幼体化してだきやすくなったケルを抱き上げ、家の中に入った。

 続いて私達も家の中に入る。



「まだまだ新種がみつかる……これだから魔物の研究はやめられんの」

「あの……おじいちゃん、ちょっと謝らなきゃいけないことがあるんだけど」

「ん? なにかね? 長くなりそうなら一旦家の中に入ろう」



 お茶をすすりながら、ロモンちゃんとリンネちゃんと私の3人で、最後に村を訪れてからの近況を1時間かけて話した。

 そしてケル君が進化目前だと言うことと、進化してすぐに見せるのを忘れていたということをあやまった。



「おお、そうかそうか……ここに三日滞在するんじゃろ? それぞれの詳しい話はまた明日にでも聞くとして……ケルの話をしよう。色々と調べたいことや聞きたいことはあるが……とりあえずロモン、ケルのステータスを見ても良いか?」

「うん、いいよ」



 おじいさんの手からオレンジ色の光が溢れる。ロモンちゃん以外でステータスの確認をしている人は私はあまり見ない。あとお母さんくらいか。

 魔物使いの間では人前であまりステータスの確認をしたりしないらしい。



「なるほど……いや、おどろいた。レベルが35にまで達しているのか! それ以外にもステータス、覚えている技……全て進化の準備ができていると言う感じだな! 普通の進化ではあるまい」

「うん、予定通り亜種だよ」

「計算間違いしてないか? Dランクでレベル35の進化は超越種になるんじゃぞ?」

「あっ……」



 ロモンちゃんはきょとんとした顔でおじいさんを見た。

 ケル君のちゃんとしたレベル、あまり聞いてこなかったけど……35だったなんて。

 ロモンちゃんはかなり絶望した様な顔で、その場にへたり込んだ。



「わ、私としたことが……勘違いしちゃうなんて……」

「まあアイリスで感覚が狂うのも仕方がないわ。……さて、じゃあそろそろ色々と聞こうかの」



 おじいさんはまだしょげているロモンちゃんをよそに、ニコニコしながら大きな本と羽ペンを取り出し、ケル君について記す準備を終えた。



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