第230話 村に帰って報告するのだございます! 2

「ふむふむ……となると、ヘルドックとそう大差はないのか。耐性や得意な魔法、見た目が違うだけで……ヘルドックの属性違いと考えたら早いの」



 でっかい本に超スピードでスケッチを書き込みながらおじいさんはそう言った。

 かなり再現できている。おじいさんのスケッチってこんなに上手だったんだ。数多くの新種を発見してきた人だし、当然なのかもしれないけど。

 というか筆記具って使ってるの羽根ペンだけよね? どうしてあそこまで精巧に描けるんだろう。


 ちなみにケル君は机の上に乗せられ、ピタッと動きを止めている。保存してある干し肉を大量に食べて良いと言われたから頑張っているの。



「この赤い首回りと目の淵にある柄は亜種によるものだと考えて良いな。通常なら真っ白じゃろう」

「そういえばアイリスちゃんの時は大変そうにしてたね」

「そりゃなぁ、新種なのに極至種で……通常がどういうものか考察するのは大変じゃったよ」



 ちなみに私が普通種だった場合、天使の輪っかも羽根もなく身体は白銀ではなく普通に白色であり、手足のつなぎ目や目と口が緑色に発光しているだけだったかもしれないという。

 想像してみるとだいぶ地味かもしれない。逆に私自身はごちゃごちゃしすぎだけど。



「よし、ケル。もう動いて良いぞ」

【ゾー。干し肉!】

「それは明日、進化して後に一度調べさせてくれたらじゃよ」

【ゾォ……】



 ケル君はしょんぼりとうなだれた。そのまま無言で机の上から降りてこの家に住んでいた頃にずっと眠っていた犬用ベッドまで行き、幼体化してそこで丸くなる。



「話を聞く限りじゃ相当な天才らしいが、ああいうところは変わってないの。まだ子供っぽい」

「干し肉あげても良かったんじゃない?」

「それには買ってこなきゃいかんからな。ケルがいなくなってからワシとガーナで干し肉は食い尽くしてしまったわい。まあまあ、約束通り明日にはあげるから問題なかろう」



 ははは、とおじいさんは笑う。

 なるほど、ないものを報酬にして先延ばしにしたわけだ。隙を見て街にでも行って買って来るつもりなのかも。

 ちらりと時計を見たおじいさんは、私を見て口を開いた。



「さて、と。用事は一段落済んだから……! ちょっとアイリスに色々聞きたいことが……!」

「あ、おじいちゃん!」

「む、どうしたリンネ」



 ちょっと鬼気迫る勢いで私になにか聞こうとしていたけど、リンネちゃんが割って入ってきた。どうやらロモンちゃんとリンネちゃんはおじいさんの鬼気迫るものに気がつかなかった様子。

 そしていま知ったけど、いつのまにか時間は午後三時にさしかかっていたの。



「ヘマに呼ばれてるからさ、ぼく、ちょっと行ってくるね!」

「…………なんじゃ、デートか」

「ちっ、違うよ! ぼくにはその気はないもの。久しぶりお話ししたいっていうから遊びに行くだけだよ」

「そうか、いってらっしゃい」



 リンネちゃんは軽く髪と身だしなみを整えてから家を飛び出して行ってしまった。

 


「うーん、じゃあ私もタイトとお話しでもしようかな。もちろんデートなんかじゃなくね。おじいちゃん、私も行ってくるね」

「ほぅ、いってらっしゃい」



 続いてロモンちゃんも。なんやかんやいって幼馴染とお話しできるというのは楽しいことなんでしょう、性別関係なくね。私にはよくわかる。でもなんでわかるんだろ?

 ……ま、どうせ前世の記憶か何かね。



「さて、アイリスや」

「は、はい」



 ケル君は寝て、双子は外に遊びに行った。ガーナさんもいつのまにか外に出ている。多分、お庭のお手入れの続きでしょう。おじいさんの気迫がすべて私に向けられた。

 なんだかものすごいプレッシャーを放っている。



「ここにきてからの近況報告で、彼氏ができた……と、行っていたの?」

「え、ええ! 私自身驚いてますが、私のことを好いてくれる人がいたんです。その人といまお付き合いしてますよ」



 口に出すと小恥ずかしい。私はどうやら彼氏がいるということを自認すると恥ずかしくなってしまうみたいだ。

 おじいさんはなぜか顔をしかめる。



「どんなやつだ?」

「とても優しい方です! 私にはもったいないくらい……。私が危ない目にあった時、全力で助けてくれた人なんです」



 そういうとおじいさんの表情は和らいだ。そして軽く首を揺らしながら質問を続けてくる。



「そうかそうか、名前は?」

「ガーベラと言います。そういえば私と同じ花の名前ですね、えへへ」

「ふむふむ……とりあえず悪い男ではなさそうで良かったわい。じゃが、なにか嫌なことをされたらすぐに離れるんじゃぞ? いいな?」

「はい、それは肝に命じております」



 そういうと、おじいさんはさらに満足そうなものへと表情を変え、家の奥に本と共に消えていった。

 あのすごい気迫はなんだったんだろう。



【ジーゼフ、イッタカシラ?】

【あ、ガーナさん……お庭に行ってたんじゃないんですか?】

【ジーゼフ 二 キガ ツカレ ナイヨウニ マド カラ ヨウスヲ ミテタノ】

【そうなんですか。なんでまた?】



 ガーナさんはため息(?)をした。蛇だから本当にため息かどうかはわからないけど。とにかくそんな感じのものを一つすると、私の足元をぐるぐると回り始めた。



【コレハ ワタシ イガイノ ジーゼフノ ナカマ カラ キイタ ハナシ ナンダケド】

【は、はい……】

【ジツハネ……】



 ガーナさんの話によるとジーゼフさんは自分の身内に恋人ができた時、あんな態度になるらしい。

 それがわかったのはお母さんがお父さんと付き合い始めの頃。とにかくお父さんを表面では肯定しながらも、結婚するまで様子を伺っていたのだとか。

 ロモンちゃんとリンネちゃんがいなくなってからも、双子に告白してきた二人を気にかけるような素振りを見せていた……とのこと。


 そっか、まあ父親や祖父ってそういう人結構いるからわかる。でもなんで実の娘じゃない私のことも気にかけてくれるのかしら? ガーナさんに聞いてみた。



【ソリャ、タブン、アナタ ノコトヲ マゴ ノ ヨウニ オモッテルンジャ ナイ?】

【そうなんですかね】

【ウン。マゴ ガ フエテ ウレシイッテ アナタガ イナイトキデモ タマニ イウシネ】



 そ、それはなんだか照れるなぁ。私ってばやっぱりいろんな人から愛されてる。元はただの小石なのにね。

 


「おう? どうしたんじゃ」

「おじいさん! おかえりなさい。……その袋は?」

「王都まで行きつけの店に干し肉を買いにな」

「本を置きに家の奥に行ったのではなかったのですか?」

「それにしては戻るのが遅すぎじゃろうて」



 たしかにあれから15分は経っている。いつのまに。

 修行の日々から気が抜けて、時間が経つのが早くなってるのかもしれない。

 おじいさんは干し肉が大量にはいった袋を台所の棚に仕舞うと、ロモンちゃんがさっきやっていたのと同じ順序で身だしなみを整え始めた。



「ちょっとまた王都まで行ってくるわい」

「おや、そうですか」

「せっかく孫たちがきているが……何分、王都でついさっきばったりと旧友に出会ってな。リンネとロモンと同じ、ワシも昔馴染みの友人と夕飯時まで話をしてくるよ。二人と違って男同士じゃがな! すまんが、二人とも留守を頼んだぞ」



 おじいさんはそう言うと転移魔法陣で王都まで行ってしまった。今日はみなさん旧友と出会う日みたい。

 私は前世の記憶以外では旧友なんていないから、ガーナさんと一緒に大人しくお留守番しておこうと思う。

 



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