第226話 ガーベラさんの自宅に訪問です!

「ごめん、俺の数日分の食材も買っちゃった」

「いいですよ、一緒に選ぶの楽しかったですし」



 本当に普段は一人で作って一人で食べてるのだろう。買い物の仕方などもかなり慣れている様子だった。

 もし機会があったら、逆に私がガーベラさんに料理を食べさせてもらうのもアリかもしれない。



「でも、今日の分の野菜は買わなくていいって言ったのはなんで?」

「まあ、ちょっと色々ありまして。口で説明したら長くなるんですがね」

「そっか。あ、家に着いたよ」



 ちょっと古い感じはするけど、手入れはよくされてるのがわかるレンガ製の小さな一軒家。いつも通ってるギルドから15分ほど歩いた場所にあった。

 いつもギルドの宴会に遅めに来るのって、そのくらいちょっと時間がかかるからなのかも。



「いやぁ、いい物件が偶然見つかってね。家族単位で住むには狭いけど一人暮らしには広い、そんな家だよ。借家だけどね」

「お家賃が一軒家は高そうなイメージがあるのですが」

「うーん、たしかに一つの建物から部屋を借りるよりは少しだけ高いかも。でも、本当に少しだけだしお金もちゃんとあるから大丈夫」



 もし今の宿屋から退いたらこういう一軒家を探すのがいいかもしれないわね。もうそろそろ契約期間過ぎるし。

 でも、ギルドと街の出入り口に近くていい物件ってあるかしら。



「鍵開けたよ。中に入って」

「お邪魔します」



 お、男の人の家にその持ち主と私だけで入る……! 普段の私なら考えられないような行動。

 何かされてもわかりにくい……って、やっぱりガーベラさんはそんな人じゃないから心配はいらないのに、つい考えちゃう。

 これだからロモンちゃんとリンネちゃんに男嫌いだなんて言われるのね。


 中はとっても綺麗にしており、余計なものはほとんど置いてなくとても質素。花瓶とか絵画の一枚すらない。唯一インテリアっぽく見えるのは槍・防具立てかしら。

 ただガーベラさんもお金がないわけじゃないから、これが彼の趣味だということはわかる。実際ソファやカーペットでセンス良く見せているし。

 どこもかしこも掃除が行き届いててピッカピカ。私と気の合いそうな部屋ね。


 

「すごい……綺麗な部屋ですね」

「悪く言えば何もない、ってのが正解だけど。でももしかしたらアイリス好みかもしれない」

「ええ、こういう必要最低限のもので美しく見せているのはとても好きです!」



 見れば見るほど、綺麗。家具の色彩が男の人好みってことを除いたら女の人の部屋と間違うかもしれないほど。

 リビングからチラリと見える台所も、毎日掃除しているんでしょうね。光ってる。



「ガーベラさん、綺麗好きなんですね! そういえば汚れることのない私の身体を使った武器以外、鎧などもいつもピカピカでしたね」

「幼い頃に親しくしてた人が綺麗好きでね。その人と一緒にいたら趣味がうつっちゃって」

「なるほど……」



 私好みの趣味をしているその人と、いいお話ができそう。



「こんなに綺麗な台所、使っちゃって大丈夫なんですか?」

「いいよ、どう使ってくれても」

「わかりました」

「あ、料理作ってくれる前にお茶を出そうか」

「いえ、もうお昼時ですし作っちゃいますよ」

「そっか」



 ガーベラさんはそれ以上家のことについては言わなかった。こうなると風呂場とか寝室も見てみたい気がするけれど、見られて困るものがあるかもしれないからやめておこう。

 ……18歳の男性だもの、女の人に言えないようなものがあったってしかたない。どうせ部屋が綺麗なのはわかりきってることだし。

 さて、そろそろ料理作っちゃいましょうかね。

 今回分の野菜を買わなかった理由も教えてあげましょう。



「それでですね、今日の分の野菜を買わなかったのは私にはこの植木鉢があるからなんです。一日10回しか使えませんが」

「これは?」

「植物の一部を入れたら、その植物が複製されるというアーティファクトです。成長段階までいじることができるんですよ。入れるのは種子はもちろん、葉っぱでもいいですし、この植木鉢に収まるなら一気に一度で植物を育てることも可能なんです」



 それで一回だけ大量にイチゴを作って三人で食べたことかある。収穫を仕切って1回とカウントされるから、何十個分一度にイチゴを植えて、それを10回。



「なるほど、だから買わなかったんだね」

「そしてここに、この街で手に入る限り一番高級なキャベツ、玉ねぎなどがあります。これを増やすのです。……ロールキャベツという料理は知ってますか?」

「知ってるよ。俺、好きなんだロールキャベツ。さっき言ってた趣味の人の得意料理で」

「奇遇ですね、私もなんですよ」



 本当にその人とはかなり気が合いそう。会って見たいけど、ガーベラさんの幼少期とか全然知らないし。 

 とりあえず作り始めちゃおうかな。



「調味料、使わせてもらってもよろしいですか?」

「もちろん」



 そういえば前世で、男の人は胃袋で掴むべし、という言葉があったような気がする。……だったら本気で作らないと。といってもいつも作るのと全く同じで、特別なことなんてしないけど。



「そういえば……あー、料理中に話しかけても大丈夫?」

「余裕です! 慣れてますので」

「そっか、じゃあ。そういえばあの双子も料理作れるんだったよね。どっちの方が上手いとかってある?」

「いえ、同じですね。双子ですから」

「そうか」



 あの子達は髪の長さとか、剣が好きか魔物が好きかっていう違いはあるけど、それ以外はだいたい一緒。身長も、胸の大きさも、それらの成長速度も一緒。

 今度は私から質問しようかしら。



「聞いた話では、私の身体で作った装備品とても大切にしてくれてるそうですね」

「ああ、もちろん。でもその言い方だとなんかすごい意味合いを含んでそうに聞こえるね」

「確かにそうかもしれませんね。正確にいうならば魔物形態の私の身体の一部と言うべきでしょうか」



 もちろん、大切に使ってくれてるのはとっても嬉しい。もしかして普通の魔物も、素材で自分の身体が使われてる装備品が大切にされてるのをみたら喜ぶのかしら?

 きっと一部だけよね、それ。

 


「……何か手伝うことはある?」

「今のところ大丈夫です」

「そうか。いつでも手が欲しいときは言ってよ」



 手が欲しかったらいつでも増やせるんだけどね。

 ……さて、キャベツで巻いて……と。



◆◆◆



「できました、ご賞味下さい」

「いただきます」



 ロールキャベツ。お昼ご飯にロールキャベツってチョイスは間違ってたかもしれない。少し時間かかっちゃった。

 でも出来栄えは完璧。最近作ったロールキャベツの中でも最高だと思う。

 

 ガーベラさんはナイフとフォークでロールキャベツを大きめに切り取り、口に運んだ。熱々だからあんな大きい塊口に入れたら熱いと思うんだけど、彼は大丈夫みたい。

 咀嚼し、飲み込むと動きが止まる。



「……どうですか?」

「とっても美味しいよ。お世辞とかじゃなくて、毎日作って欲しいくらいには」

「やですね、毎日ロールキャベツなんて飽きちゃいますよ」

「ははは、それもそうか」


 

 顔の表情からお世辞じゃないことがわかる。そんなに喜んでもらえるなんて、とっても嬉しい!!

 それにしても毎日ロールキャベツだなんて……ん? 毎日私にロールキャベツを作って欲しい?

 なんか別の汁物で同じような言葉を聞いたことがあるような。それもプロポーズとして。

 まさかね。まだ付き合い始めたばっかりだし。

 


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