第202話 蜘蛛との決着でございます!

 こんな寒い時期なのに、冷や汗が流れたのが見える。

 彼女は自分に喝を入れたのか、自分の頬を叩くと、こちらを一瞥してきた。



「もうこうなったら……仕方ないよね。いいよ、可愛くないからあまり元に戻りたくなかったけど、ボクをここまで追い詰めたんだ、お前たちには見せてあげる」



 アルケニスはお父さんに飛ばされてから取り出していた得物をもう一度鞄にしまい直すと、体が発光し始めた。人から魔物へと戻るみたいね。



「これがボクの本当の姿だ!」



 現れたのは巨大な蜘蛛、まあ図鑑で見て知ってたけど。

 クィーンプリズンスパイダーの姿そのままね。ギフト以上グラブア未満、3メートルと少しの大きめな体。

 背部にはまるで何かを閉じ込めるかのように鳥籠のような飾りが付いている。



【お前ら全員、ボクに捕らわれて餌になれ!】



 彼女は糸を吐き出してきた。

 でもそれがとんでもない量。私が想定していた3倍はある。まるで白い波。

 これを食らってしまえばまた、まともに魔法は撃てなくなるでしょう。これが彼女の強みというか、固有の特技かしらね。

 さっきと同じように操作もできるんだったら確かに普通は苦戦なんてものじゃなく、一方的に蹂躙されると思うわ。



「ふっ…!」

「とおっ!」

【ゾ……ゾォォ!】

「よっ……あれ、アイリスちゃん!?」



 お父さんとリンネちゃんは空を駆け上がり、ケル君は全身に炎をまとい、ロモンちゃんは盾のバリアーで自分とお姉さん二人を守った。

 そして私は、ゴーレムに戻ったの。

 あ、まって体に糸がたくさん絡んでくる。人間体のままだったらちょっといけないところにも色々と。

 


【なんだ、なんか糸の感触がおかしいぞ! あの白髪のやつは今、ボクが…。とりあえず引きげ……オモッ!】

【失礼ですね……】



 わ、私は重くなんてないもん。

 ゴーレムの時の姿の私が重いんだもん。

 いえ、そんなことよりついに糸は私をぐるぐる巻きにしてしまった。最初から狙いは私だったようで、小石視点で糸ぐるみの中から見る限り、全て私に向かって糸が操作されているみたい。



【オカシイ……明らかに鋼鉄のカンカクだ。でも今捕らえたのはあの女、それは変わらない!】

「アイリスちゃん、アイリスちゃんっ!?」

【あー、そんなに驚かなくても大丈夫ですよ】



 小石視点で見る限り私は持ち上げられ、そしてクィーンプリズンスパイダーの、空いたカゴの中に上から放り込まれた。

 たしかクィーンプリズンスパイダーは糸で捉えたものを自分の体で拘束しておく習性がある。

 この檻だけならあのグラブアの背中より頑丈でしょう。



【はぁ……ツカマエタ。あとはこの女を連れて帰って拷問して、洗脳して、二人を生き返らせるだけだ! ……思わない収穫だぞ……最初はピンチだと思ってたけど! きっとグラブアもボクを好きになってくれるはず!】

「……ど、どうすんだよ……」

「ろ、ロモンちゃん、なにかあの子は考えていたりするの? だってあの子がやられたら……」

【ははは、どうだ! 仲間がこの中に入ってるんだゾ、手も足も出せないだろう! ねぇ、騎士団長さん、お前にとっては娘みたいな女をさっ、攻撃できないよネッ!!】



 お父さんは……なんかなんとも言えない顔をしてるわね。何かまた私が企んでるのをわかってるみたい。

 ロモンちゃんも少し落ち着いて、わざと取り込まれた私がやりたいことを理解したみたいだし。

 リンネちゃんもロモンちゃんと同様に。



「くそぉっ…返せ、返せよ! アイリスちゃんを返せ!」

【ムリダヨ、ボクの檻はとおーっても硬いんだ。グラブアより硬いからね! 檻だけなら】

【……ねぇ、アイリス、そろそろもういいんじゃないかなゾ?】



 ケル君がこちらをみながらそう言った。

 ロモンちゃんとリンネちゃんは頷く。よし、ならそろそろやってしまおうか。

 私は頭から魔法を発した。まずはフェルオール。そして右手と左手に回復魔法を仕込んでおく。

 準備は完璧ね。



【皆さん、少しだけ離れてください】



 味方にだけ、そう念話を送る。



【【わかったよ!】】

【ゾー!】

【やったあとは任せてくれ】

「え、なになに?」

「ど、どうさたのさ、みんな退いて……だ、団長! アイリスちゃんが離れろって……」

「うん、離れたほうがいい」



 5人と一匹はクィーンプリズンスパイダーから……いえ、私から遠ざかるようなジリジリと後ろに下がっていった。

 その状況に、アルケニスは首を傾げる。



【ん? アイリスって子は諦めたのかな? ははは、この子を助けなかったらボクは一気に……!】

【あの、爆発するので気をつけてくださいね】

【え?】



 響く爆音、いつも爆心である私は鼓膜が破けそうな音が耳元で鳴り響くことになってるわ。まあゴーレムだから大丈夫だけど。

 五人と一匹が私から十分な距離を稼いだところを見計らって、ドカン!

 それが私のよく使う必殺技の一つ、自爆。

 もうこれ幹部と戦う時に毎回使ってる気がする。



「なっ……!?」

「あ、アイリスは一体なにを……?」

「自爆だって言ってました」

「じ、自爆ぅ?」

「……魔力の暴発による爆発を威力や範囲を定めてわざと行っているんだろう」



 まあ、魔流の気を極めてこの身体だからこそできる荒技なのは確か。



「じゃああの子は……?」

「心配は要りませんよ、アイリスちゃんはすごいので!」

【すごいんだゾ!】


 

 そんなにすごいって言われたら照れる。もう私の身体は治っちゃってるし、無事なことを見せましょうかね。

 ……にしても、煙のせいで周りがどうなってるかわかりにくいのはこの特技の難点かも。

 空気の流れ的に、私は檻から出られてるみたいだけど……。



【なん……なん……?】

【おや、生きてましたか】



 足元から声がするし、なにやらモゾモゾ動いてる。

 まあ、Sランクの超越種がこの程度で死んじゃうはずないか。



「アイリスちゃん、煙が邪魔だ、風魔法とかでどこかにやれないか?」

【多分いけますよ】



 周りの煙を全て風魔法で吹き飛ばす。一気にモヤが晴れ、現状を視認することができるようになった。

 まず、私は当たり前だけど無傷。

 それで私の足元には全身ボロボロになったクィーンプリズンスパイダーが頑張って立とうとしていた。

 足が2本ほど千切れちゃってる。


 なくなったと思っていた檻は、感じた時とは違いへしゃげているだけであり、完全には壊れていない。

 この至近距離で超爆発をしたのに壊れないなんて、なんて頑丈なのかしら。

 エンジェルゴーレムの姿のままだとここから出られないけれど、トゥーンゴーレムになったらいけそう。

 そういうわけで、私はそこから脱出させてもらった。



【どうです? やりましたよ】

「さすがだね、アイリスちゃん」

【……おい、まて、ちょっと待てよ!】



 強く念話を送ってきた彼女。私の姿を見て驚いてるみたい。たくさんの赤い目が私だけを見ている。なんか気持ち悪い。



【どういうこと……? お前は、人間じゃなかったのか!?】

【あら、私が人間だなんて今まで一言も言ってないじゃないですか。……私はゴーレムの半魔半人ですよ】

【そ、そそそ、そんなことって……!】



 私に近づこうとしているのか、彼女は立とうとするが、足が言うことをきかないようで、何度もすっ転んでいる。

 


【今がチャンスでしょう、お父さん、残りの足もお願いします】

【わかった】

【なっ、や、やめ……やめろおぉ…うあぁ…ぁ…】



 蜘蛛は完全に地べたに這いつくばった。



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