第203話 蜘蛛を捕縛したのでございます!
【くっ……】
【どうあがいてももう無駄です。大人しくしましょうか】
【まだ……まだボクハ…】
足が全て動かなくなったと言うのに、彼女はまだ抵抗しようと足掻いている。
【まだボクはやれるんだ……ッ!!】
【なんです?】
彼女は唐突に光に包まれた。でもなんとなく幼体化などではないことはわかるの。
【まさかこれを使わなきゃいけないとは思わなかったけど……これでなんとかナル!】
その言葉がした次の瞬間に光は晴れ、その場には五体満足になって傷も何もかも全て癒えていたクィーンプリズンスパイダーが私たちを見ていた。
急な完全回復……グラブアも確かやってたわよね。
おそらく、ギフトもあの回復の速さは使った可能性があるし。
脱皮かぁ……確か前に勇者が書いた魔王軍幹部の特徴が書いてある本を読んだ時、その脱皮に関しても書いてあったような気がする。
超越種だからこそ使える高等な特技なのかもしれない。
「アイリスちゃん、私にフェルオールをできるだけかけてくれないか? 一気に決める」
【了解しました】
すでに剣を構えている……。私はお父さんにフェルオールを5回唱えた。そういえばお父さんにフルで補助魔法をかけるのは初めてだっけ。
一体どうなるのかしら。
【といっても、回復はしたけどは形成変わらない。逃げさせてもらウヨ】
「ほう、私から逃げ切れるかな?」
【無理なことはないサ!】
私をとらえた時よりも、さらに多くの糸の海を彼女は発動させた。津波のように糸が襲ってくる。
しかしお父さんはそこに佇んだまま動こうとしない。
「さて、この隙にあの娘は逃げるはずだ。糸の処理は頼んだよ、アイリスちゃん」
【はい、任せてください】
「まってアイリスちゃん……魔人融体しよ、その方が確実だよ」
【じゃあオイラとリンネでロモンを守るゾ】
「ケルの言う通り、任せてよっ!」
「あたいたちも炎技で加勢する!」
「いくら次元が違う戦いだからって、見てるだけだなんて……騎士の恥だものね」
私の中にロモンちゃんの意識と魔力が入った。
魔流の気で腕を6本作り出す。
……ふふ、前よりも2本多く出来た。これらを媒体にして魔法陣を発動させる!
【【リスファイラム!】】
「リスファイラム!」
「「炎斬!」」
【炎を纏って……スファイラ、だゾ!】
森を飲み込んでしまうんじゃないかと言う勢いで、炎は蜘蛛の糸めがけて放たれた。糸の津波が私たちを飲み込む前に、その先から消えてゆく。
まるで指先で溶けてゆく綿あめみたい。
【はぁ……!? どうして巻き込まれずに……っ、な、なんだその速さは!】
「喰らえ、迅神乱舞!」
アルケニスの念話と、お父さんの技名を叫ぶ声が聞こえる。あれは確か彼にとっての必殺技か何かだったかしら。この目でどんな技か見られないのが残念。
【あああああ、や、やめっ……うくぅぅぅ】
「……人型に戻ったか。魔物の時に負った傷も、人型に戻れば一旦治るんだな。……しかし、今のお前は恐るるに足らん」
「も、もう許し……ぐはっ!」
彼女の悲痛な声が聞こえるという共に、糸の波は止んだ。なかなかきつい量だったわ……炎魔法が使えるのが私だけなら、まずアウトだったと思う。
糸の波が消えたその先には、肩から下半身にまで斜め一文字に綺麗に斬られているアルケニス、そして、剣を丁寧にしまうお父さんの姿が見えた。
「終わったな」
「うぐ……に、人間如きで…このボクを……こ、殺せ! 早くっ…グラブアを助けられなかったボクを殺せ!」
「そういうわけにはいかないんだ」
お父さんは私たちの方を見た。
いや、私たちよりさらに向こう側、その後ろ。彼の目線に合わせて後ろを振り向いてみると、いつもの封印セット一式を担いだ騎士団がこちらに向かってきていた。
◆◆◆
「これで良いでしょう」
「今回もいい凍らせっぷりでしたね!」
「いえいえ、それほどでも」
気絶したアルケニスの傷を治し、武器や荷物を取り上げて血を抜き、素早くどちらも闇氷魔法で凍らせるいつもの工程を終わらせた。
もう3回目だからさすがに慣れちゃって、なかなか綺麗に出来た。
魔王軍幹部とはいえ、初めて出会った私と同じ女性型の半魔半人だったから少し丁寧に扱いたかったのよね。
「……これで終わりっすか、団長」
「うん、上に報告したらこれで終わりだ。……みんな、お疲れ様!」
「うおおっ!」
「やっと終わったぁぁぁ……長かった………」
それぞれみんな歓喜の声をあげる。
私も嬉しい。まさかケル君が見つけてしまうなんて思ってなかったから。そしてこんな早い時期に終わるだなんて考えてもなかったし。一ヶ月はこの森で過ごすことを覚悟してたのよね。
「今回一番頑張ったのは……娘の仲魔のケルだ」
【ゾゾッ!】
集まっているみんなの前で、お父さんはケル君を丁寧に抱き上げた。ケル君は尻尾と足をパタパタさせている。
自分を見上げる騎士たちを見て、こう言った。
【えっへんなんだゾ!】
「ケルくーん、こっち向いて!」
【ゾ! 向いたんだゾ、えっへんなんだゾ!】
「きゃー、可愛いっ!」
確かにすごく可愛い。
普段は可愛くて、時にかっこよくて、ランクが低いのに強敵相手にも立ち回れて、嗅覚で補助もしてくれて、なにより大天才の頭脳を持つ。最初に出会った時はここまで完璧な子になるとは思わなかったわ。
「まあ、こういう探しものの時は魔物に頼った方が早いってわかってしまったがな……」
丁寧にケル君を降ろしながらお父さんはそう言った。降ろされたケル君はロモンちゃんのもとに戻ってくる。
「たしかに」
「まあまあ、終わったし良いじゃないの。上層部も報告したらそのことをわかってくれるでしょ」
「適材適所ってやつがな!」
彼らのいう通り、今後は魔物部隊に散策とかは任せるでしょうね。魔王軍幹部が城内に凍らせてしまってあるから、魔物に詳しい魔物使いを非常事態のために残しておきたいのでしょうけど、他のことが疎かになるのも行けないわ。
「さ、みんな。打ち上げをするぞ! 幸いなことに食糧物資は大量に残っている。好きなだけ食べてくれ!」
そういや私たちが来てから食料物資が運ばれてくる回数やその量が増えてたんだっけ。
きっとお母さん辺りからロモンちゃんとリンネちゃんが大食いだってきいてて、全力を出してもらうために増やしたんだと思う。
……でもその増やした数は少なく、大食いモードのロモンちゃんとリンネちゃんにとってはなんの足しにもならない量だっからここ最近ずっと普通に食べてたんだけど。
「「お父さん、お父さん!」」
「どうした、ロモン、リンネ」
「「好きなだけ食べていいってほんと?」」
「あー、うん、いいけど他の皆の分も考えてくれよ」
「「わかった!」」
それから宴が始まった。すっかりロモンちゃんやリンネちゃんは人気者になり、酔った団員の男の人が口説きに来たりする。……もっとも速攻でお父さんにドヤされて逃げて行ったけど。
いや、それより二人の食べっぷりにびっくりしている人がほとんどみたいだったわね。
お父さんの言いつけ通り本調子は出していないみたいだけど、可憐で華奢な二人のイメージを一気に覆すには十分すぎた。
ちなみに私もなぜか男の人に囲まれ、お父さんが追い払うという一連の出来事が同様に起こった。酔った勢いで私まで口説いてくるなんてね。
団の中にもっといい人いるだろうに。
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