第171話 双種蜥蜴のダンジョンでのございます!
「あらよっと…えいっ!」
探知に引っかかったトカゲをリンネちゃんは片っ端から片付けて行く。ぶっちゃけ私は暇だ。
こちらに気がつく前に既に斬られてるだなんて状態のものもいるし。
「敵が空飛んでないから楽だよ」
「今のところはまだほぼ一撃で終わるのですね」
「うん。とうっ!」
リンネちゃんったらすっかり補助魔法付きの素早さ2倍状態に慣れちゃってる。体感したことないけど、あのスピードはどうなってるのかしらね。
「今のところ倒した魔物は、ヒュージリザード8匹とトゥーンリザード6匹ですか…もう少し奥に行ったら別のがいますかね」
「さすがにこの程度の魔物しか出ないんじゃダンジョンとは呼べないよね。見た目はいかにもなのに」
そういえばこのダンジョンの内装は、前に訪れたダンジョンとはまた違う。
天の道のダンジョンがいかにも自然に生成された洞窟のような感じだったのに対し、ここはものすごーく広く作られた炭鉱のような、そんな印象を受ける。
「む、やっとEランクが出てきたね」
「バシャリザードですか」
でかいトカゲが青と水色の鱗になって、水魔法を扱う…それがバシャリザード。まあヒュージリザードに毛が生えたようなものね。
「そーれ!」
「ギャン!」
うん、見事に真っ二つ。
少しグロいかもしれないけど、この世界に居るのもそろそろ長いし慣れちゃった。
「探索はここまでにしておこうか、ロモンと一緒にまた最初から始めようよ」
「そうですね。ケル君のレベル上げも兼ねてそれが良いかもしれません」
今私たちがどんどんと奥に進んでも、次に来た時はケル君はついてくるだけになっちゃう。経験値だけは入るんだけど、それじゃあ意味はないの。
私達はこの場から街の門の前まで転移魔法陣で移動した。
「ぼくはトカゲ達の素材を売ってから帰るから、アイリスちゃん先行っててよ。その方がケルには良いでしょ?」
「了解しました」
私達は街の中に入ってから別れた。
特に何もすることないので部屋に直行する。
「ただいま戻りましたよ」
「おかえり! お姉ちゃんは?」
「倒して来た魔物の素材を売ってくれています」
「そうなんだ、で、どんなダンジョンだったの?」
「どうやらヒュージリザードとリザードマン、2種のトカゲ系列の魔物が出るダンジョンのようですね」
「確か名前、決まってないんだよね、そのダンジョン。じゃあ……双種蜥蜴のダンジョンなんてどうかな? 単純すぎるかな?」
あれ、まさかリンネちゃんと同じ答えが出てくるとは。いや…双子なら当たり前のことなのかな。
二人が双子らしさを見せることは1日最低3回はあるけれど、その都度とても微笑ましい。
「ふふっ」
「…どしたの? なにかおかしい?」
「ええ…リンネちゃんもそう言ってましたので」
「お姉ちゃんも双種蜥蜴のダンジョンって言ったんだ」
「そうです。全く同じですよ」
ちなみにこの双子は今更その程度では騒ぎ立てない。自分たちの中では当たり前なのよね。
「それで移動時間含めて1時間近く行ってたけど…どうかな、私達だけでクリア出来そう?」
「今のところはそうだと言えますね」
「そうかぁ…じゃあケルがもう少し魔法が豊富になったらレベル上げを兼ねていこうね」
「はい!」
そういえばその肝心のケル君はどうしてるのかしら。
ロモンちゃんの腕に抱かれてるわけでもないし。
「ところでロモンちゃん、ケル君は?」
「ケルなら私達の寝室でお昼寝してるよ。もちろん、魔流の気は纏ったままね。様子見る?」
「ええ、見ます」
流石の私も魔流の気を纏ったまま眠ったことはない。
私達の寝室に入ると、カーテンは閉めてあり、昼間だけど薄暗い。
でも、ケル君の居場所はすぐわかった。
毛布も掛けてあるし、普通なら分かりづらいはずなんだけど…ケル君の毛並みが青く輝いているの。
「ほんとに纏ったまま寝てますね…。なにかああいう青色に輝く新種の魔物のようです」
「器用だよねケル。私達もできるかな?」
「私達はもうだいぶ魔流は使ってますし、できるとは思いますよ」
ただこれを習いたてのケル君ができるのがすごい。
もうマスターしちゃってるって言っても過言ではないかな。この様子だと。
「今朝宣言した通り、明日からは魔法を教えても大丈夫そうですね」
「だねっ!」
「ただいまー!」
「あ、お姉ちゃんが帰ってきた!」
私とロモンちゃんは玄関に迎えにいく。
帰ってくるまでにおおごとは特になかったみたいね。
「はい、アイリスちゃん。今日の儲け」
「ありがとうございます…。しかし全てリンネちゃんが倒していたので、丸ごとリンネちゃんのお小遣いでもよろしいのですよ?」
「そうなの? でも今は欲しいものとかないからいいや! なんなら、このお金使って美味しいもの作ってよ」
「了解しました」
そういえば今日はお肉を買う予定だったっけ。
ふむ…この臨時収入の半分を使えば、ロモンちゃんとリンネちゃんにお肉1キロずつ買ってあげられるか…。
よぅし、今日の夕飯はがっつりお肉のソテーにしようかしらね!
◆◆◆
次の日、また私達は森の中に特訓をしに来ていた。
今日はケル君に魔法を教える日。彼自身が覚えたいと言った炎の魔法の初球である『ファイ』をロモンちゃんがみっちり教えてあげるの。
ちなみに『教授の凌駕』を作動させるため、私も近くにいなきゃいけないんだけどね。
【よし、じゃあケル、まず私が炎魔法を出すからよーく見ててね】
【ゾ!】
ケル君にはとりあえず魔流の気は出しっ放しにしてもらってる。ちなみに昨日の記録はお風呂はいる直前まで…およそ10時間だった。
寝ながらでも10時間やりきったから、もう今日は24時間いけると思う。
【とまあ、ファイはこんな感じなんだけど】
【ナルホゾ…! ドウヤッテ ヤッテルカ ナントナク リカイ デキルンダゾ!】
ケル君はもうコツを掴んでしまったみたいだ。まあ、そのために魔流の気を教えたんだけどね。
私の特性と、覚えやすいような特殊技術…この二つが合わさってるから私達は異常な速度で魔法が上達するの。
魔物使いであるロモンちゃんと、剣士であるリンネちゃんが、並みの魔法使いくらいなら軽く超えちゃってるくらい様々な魔法が上手いのはそのためね。
我ながら色々とずるい手を使ってる気がするけれど、私の特性は私の努力の結晶だし、魔流の気も私の努力の結晶。つまり使わなきゃ勿体無いの。
【ゾオオ…ツクリカタガ ワカルゾ…!】
【ほんと? じゃあ一回作ってみる?】
【ゾ! ネンノタメ モウイッカイ ロモンノ マホウヲ ミテカラ ヤッテミルゾ!】
【わかった、じゃあちゃんと見ててね? ファイ!】
言っておくと私達の教え方はなかなか邪道であり、本来なら魔法とはどういう仕組みで形成されるかを教えなきゃ無理らしい。
それも人間の場合で、魔物の場合は相当頭がいいか、元から体に染み付いてる(あるいは進化で手に入る)かだからねー。ゴーレムが本来なら回復魔法ができないのはそのせいで。
つまり、本来なら魔法を目の前でゆっくり作って見せるだけで理解できるなんてのは相当な天才か、しっかりお勉強している人間じゃないと不可能ってことね。
でも、私達ならできる。まあ…他の人から教えてって言われても、企業秘密だからって断るんだけど。
なんかこう言うのって少し快感を感じるのは私だけなのかしら。
【ゾッ…ゾゾ…! ファイ!】
あ、ケル君の口先から初球の炎魔法が飛び出した。
もう覚えちゃったのかケル君。私達の教え方が素晴らしい…だけじゃなく、やっぱり本人の才能も相当なものなのかもしれないわね。
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