第168話 ケル君との修行続行でございます!
「食べ過ぎちゃった……あはは」
普段あまり言わない独り言を口走る。お腹いっぱいなんだもん。……ついつい、ね。
どうやらあの戦闘に参加した人がこの飲み会に3、4人は居たみたいで、そのうち負傷して瞬時に私が回復してあげた人があれからもう一人でてきたの。
二人して奢らせてくれだなんて言うもんだから、パフェとかパンケーキとかついつい頼ませてしまった。お酒は飲まないから代わりに高めのジュースを注文してもらったり。
となると私の回復魔法はそんなにすごいのか、だなんて話になってそこでジエダちゃんも絶死毒を回復してもらった過去をついにみんなに言ってしまったの。
となるとさすがは冒険者、なんでも試してみるという精神で、背中に大きな古傷があるBランクの冒険者が『この傷を回復させられないか』なんて言ってくる。
……断るわけにはいかないから即座に回復してあげたら綺麗さっぱり消え去って、本人も『傷の疼きまで止まった…!』なんて言うもんだから……まあ大変。
生傷や古傷を少しでも今のうちに消しておこうと、その場にいたほとんどの冒険者が私に回復魔法をするように頼んできたの。
……回復魔法使いやこの世界の回復魔法を使った医者みたいな人たちの仕事を奪いたくないからほんとは断りたかったのだけれど、そういうわけにもいかないからつい全員回復させてしまった。
そんなこんなで、私はこれから夜に遊びに行くたび、何か奢ってもらえるかもしれないという状況になった。
……そのうち回復魔法使いや医者が私に殴り込みにきたりしないかな?
ぶっちゃけあの人達は足元を見てかなり高いお金を要求してくるから少しの傷くらい諦めたり、毒も解毒薬をがぶ飲みしてなんとか凌いでる…だなんて人が多いのよね。
つまり私がでしゃばりすぎるとあの人達のお仕事が減る。今後は自重しようと思う。
……まあ、あれだけの冒険者に実演してしまったんだから無駄でしょうけれど。もしそうなったらオーニキスさんあたりがこう…うまいこと法で守ってくれたりしないかしら。
「ただいまー……よし、寝てる」
私はそのまま洗面台の前まで行き、歯磨きをする。
そして自分に回復魔法をかけ(地味だけど汚物を綺麗に落とす効果もあるの。お掃除のとき便利)、ベッドに入ってリンネちゃんの腕に抱かれてる状態に無理やり戻るの。
腕に入った瞬間にきゅっと少し力を入れたのがわかる。
ふふ、暖かくていい気持ち……よく寝れそう…。
◆◆◆
【今日も特訓だよ!】
【ガンバルゾ!】
次の日、またまた森の中に私たちはやってきた。
今回も簡単な依頼を受けている。またゴブリン数匹の討伐ね。でもゴブリンってほんとすぐ湧いてくるわ……1匹見たら10匹はいるだなんて言葉もあるくらいだし。
いくらでも自由に討伐してもいい対象になってるね。
【マズハ キ ヲ ダスンダゾ! ゾオオオオオ!】
口からあふれ出るような形を催してケル君の気は流出する。何回見ても強そう。
【うんうん、うまくできてるね!】
【ミッカメ ナンダゾ! ナレテ キタンダゾ! ……トコロデ】
【どうかしましたか?】
【アタラシイ マホウ ハ イツ オボエルンダゾ? コノ キ ノ ハッタツテイド ハ…】
発達程度なんて言い出した。たまにこの子、難しい言葉を軽くいうわね…。まあいいや、質問に答えてあげましょう。
【そうですね、とりあえずそれが全身から出せるようになった上で、かなり長い間コントロールできるようになったらですね】
【ゼンシン…ムズカシインダゾ】
しょぼんと少しだけうなだれる。可愛い。
でもそんなに心配することはないの。
【全身にできるようになるのはすぐですよ。ヘタしたら今日だけでできちゃいます。あとはMP消費の無駄を極限まで削ることですね】
【ゾ! ソレハ デキテキテルンダゾ! ワカッタゾ、コノママガンバルゾ!】
キリッとした顔をしながらケル君はそう答える。
上達度合い的には本当に、今日には全身ができてしまいそう。よし、それにはまず現状全力でどこまでできるか見てあげようじゃないの。
【ではとりあえず今の進捗を見て見ましょうか。今度はMPの消費量は考えず、できるだけ魔流の気を体に張り巡らせてください】
【ワカッタゾ! ゾ…ゾゾ…ゾオオオオオ!】
さっきの口だけの発動からどのくらい変わったのか。前は前脚まで覆うことができてたけど、今回は…?
【フーッ、フーッ…….ドウ?】
【いつも通り口…それと目の2点を主に集中し、両前脚……胴体っと、もしかしてこれ、尻尾と後脚以外全てですか】
【ハー……ゾー? ホントカゾ? フーッ】
【ええ!】
それにしてもかっこよすぎる、何かしらこれは。
リンネちゃんみたいに目に重く発動させて、水色に爛々と輝いてるように見えるし、口もいつもの通り青い粒子のような、はたまた煙のようなものを少しずつ出して獣的な格好良さが強調されている。
爪、そう爪もそこに集中させているわけではないように見えるのに、青く輝いているし。
なによりケル君の魔流の気は私の、漫画見たいに全身に覆いかぶさるようにモヤモヤが出るわけでなく、体全体に粘着するような感じみたいで、毛先一本一本が光の加減で青く輝くって感じのタイプみたい。
【ケル君、少しきついかもしれませんが、ちょっと走り気味に動いてくれませんか?】
【ハーッ……リョーカイシタゾ!】
ケル君が犬っぽく、獣っぽく疲れ気味に走り回り始めてくれた。そのあとを青い粒子が追うように輝く。それはまるで青い残像。なにかのカッコいいCG映像でもみてる気分。…ん? あれ、CG映像ってなんだっけ?
それはともかくほんとにかっこいい。
そういえばリンネちゃんも目に使ってる間は移動するたびに目の光が線になって追ってきたり、剣に使ったら振るたびにこれまた光が追ってきてた。
ぐぅ……私もこんなかっこよく魔流の気を扱ってみたいものだわ。
まあ、リンネちゃんやケル君みたいな(どっちかというと)スピードタイプだからこそ似合うのかもしれないけどね。
【ドウダゾ?】
【カッコいいですね】
【ゾ? オイラ、カッコイインダゾ?】
【うん、すごいよなんかキラキラしてて!】
【キラキラゾ? オイラ、キラキラナンダゾ!】
ケル君は魔流の気を引っ込めずに反復横跳びをし始めた。青い残像が共に飛び交う。
あ、もしかしてこれ…。
【魔力切れにご注意……】
【ゾー! キラキラ……ゾォォ……ゾッ…】
「あー……」
「あちゃー」
「あらま」
ちょっと注意するのが遅すぎたわね。
魔力切れでケル君はパタリと倒れてしまった。
「どうする?」
「まだ始まったばかりですしねぇ、1時間半ほどこのまま眠らせたら再開しましょうか」
「そうだね」
「じゃあ一回街に部屋にもどって軽くお昼寝しようか」
「全員寝て、気がついたら夕方…だなんてことになってしまわないようにしないといけませんね」
「あはは、ありえる……」
私達はケル君を抱っこしながら宿屋の部屋へと戻る。今日はとても早く魔力切れしちゃったとは言え、ケル君の魔流の気がしっかりと上達してるのは確か。
寝る前にもいつも始業している介ってのがあるんじゃないかしら。
私の見立てだと、魔力のコントロールまで完璧にこなすのにあと二日で大丈夫な気がする。
ほんとにこの魔流の気さえ使えちゃえば中級魔法だって、他の種類の魔法だって簡単に覚えられるものね。
……よし、私たちも頑張ってこのまま教え続けなきゃ!
と言っても、計画的にはロモンちゃんが表立ってやるんだけどね。
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