第169話 お偉いさんからの連絡でござきます!

【ではケル君。魔流の気がどれくらい操れるようになったか私たちにしっかりと見せつけてください!】

【リョーカイ ナンダゾ!】



 私が久しぶりに夜中のギルドに遊びに行ってから3日が経った。ケル君の魔流の気の扱いは1日ごとにメキメキと伸びて行き…今この場で、ほぼ完璧にマスターしたかどうかを見るの。



【ゾオオオオ!】



 ケル君の毛が輝き出す。やっぱり私みたいに身体全体に纏っちゃうんじゃなくて、体の隅々…毛の一本一本までに反映させるような感じの発動の仕方。



【では、ここからあそこまで走ってみてください】

【ウン、ダゾ!】



 指定した樹木の下までケル君は走る。

 走ると同時に毛の一本一本から青い粒子が流れ、それが残像のように本体の後を追う。

 また、口内や目にも魔流の気を纏っているため、その三点が光の線を描きながら移動して行くのも、本当にそのように加工したかっこいい映像でもみているかのようだ。



「完璧、ですね!」

「やーったね!」

「いえーい!」



 ロモンちゃんとリンネちゃんはハイタッチをした。

 この様子だとケル君はMP、もとい、魔力の消費も抑えられているでしょう。半日はずっと発動してても大丈夫なはずだ。



【スゴインダゾ! サイショハ タクサン マリョク ガ ナクナッテタンダゾ! イマハ スコシズツシカ ナクナラナインダゾ!】

【そうでしょう? 何故かはわかりませんけどね。今日はそれをどのくらい維持できるのか見るため、ずっとそのままで過ごしてもらいますが…よろしいですか?】

【オッケーナンダゾ】



 コクリと元気よくケル君は頷いてくれた。

 今日は確認のためだけだから依頼は何も受けていない。自由に過ごしてもらうのもありだけど…。



「どうします? まだなにか訓練続けますか」

「そういえばまだ魔法撃たせてないんじゃないかな?」

「そうだね、お姉ちゃんのいう通り。まだ魔法がどうなったかみてあげて無かったよ」

「ではゴロゴを撃たせてみますか」



 威力が上がったかどうかは、ケル君が実戦でゴロゴを使ったのを間近で見た私ならすぐにわかるだろう。見せてもらおうじゃないか。



【ケル君、魔法を…ゴロゴを撃ってみてくれませんか? 的はどこでもいいです】

【ワカッタ、ウツンダゾ! ゴロゴ!】



 口から粒子、小さな魔法陣共に黄色い魔弾が放たれた。よし、確かに気によってゴロゴが威力アップされてる。こっちの方面もしっかりと成功してるみたいだ。

 


【ゾ? ナンダカ、マホウヲ ウツノガ カンタンニ ナッタキガスルン ダゾ!】

【おや、その感覚まで掴めましたか。明日から新しい魔法の習得ができそうですね】

【ホント? ヤッタンダゾ!】



 となると、しっかり全機能稼働してるみたいね。

 新しい魔法を覚えられると聞いて嬉しくなったのか、私達の周りをケル君はぴょんぴょんと飛び跳ねていてとても可愛い。



「一通り見ましたが、魔流の気をしっかりと使いこなせているようです」

「でも思ったより習得早かったね!」

「まあ魔流の気一本でずっと特訓してましたからね」



 魔法の扱いに慣れていなかった私という存在が偶然編み出したこの魔流の気。しかもそんなに早く習得するには私自身の存在と、すでに魔流の気を覚えている者から魔流の気を当ててもらうしかない。

 だから早いんだけど、それでも本人が優秀でないと私が居ても覚えるスピードに差はできるわ。

 ケル君もかなり優秀ってことよ、つまりはね。



「それでどうする? 今日はもう特訓終わりにしようか」

「そうですね。今日はこれで引き上げるのも良いかもしれませんね」

「じゃ、今日はもうおーわり!」


 

 ケル君にもその旨をしっかり伝えると、何かを聞きたそうに首をかしげたの。



【デモ、アイリス、キョウ イチニチ キヲ マトエッテ サッキ イッテタンダゾ! ダカラ キ ハ、コノママダゾ?】

【ええ、気はそのままでお願いします】

【リョーカイナンダゾ!】



 つまり実質ケル君にとってはお休みじゃないわね、残念だけれども。まあこれも本人のためだし、ケル君自身文句はないもないみたいだけど。 

 ふふふ、今日はいいお肉を買ってきてあげようかしらね。



「街の中入ります! はい、冒険者カードです!」

「ああ、いつもの嬢ちゃん達だね。お疲れ様」


 

 いつも修行している森の中は城の外なわけだから、無論私達は冒険者カードを見せてから街の中に入るの。

 これをするたびに、初のダンジョンを単独で攻略してた頃は特技の力で気配を消し、手の効果で空を飛んでゆくという中々めんどくさい方法を取っていたのを思い出すの。

 あれは結構無理してたわよね…。


 今となっては、私も半魔半人用の住民票を市役所でもらったため、自由に出入りできるんだけどね。


 ちなみに毎日こうして何かしら街の外に出てる上に、双子(な上にどちらも美少女)が珍しいのか門兵さん達に顔を覚えられてるの。



「ん? 君たちって名前、ロモンとリンネ…苗字はターコイズだったっけ?」

「あ、はい、そうです!」

「それならさっきね、すごい上役の直属の部下の人から青髪の双子と銀髪の女の子のパーティにこれを渡して欲しいって頼まれたんだよ! いやー、さすがは大会を優勝しただけあるね、あんなお偉いさんと知り合いだなんて」



 そう言うと今、私たちを相手してくれている門兵さんは懐から一枚の封筒を取り出した。

 すごい上役…おそらくオーニキスさんだろう。

 封筒の中身からして手紙なわけだけど、一体どんな内容なのかしら。

 まさか、例の滅ぼされた村を作り上げた魔物が魔王幹部と判明したから討伐協力してほしい…とか?

 可能性としてはありえなくない。

 

 それだったら嫌だな…だって魔王幹部倒してまだ1ヶ月も経ってないわけだし。

 たしかに引き受けたけども、さすがにもう少し休みたいというか。



「なにか直接の依頼かなにかかな?」

「わ、わかりません…」



 ロモンちゃんも私と考えてることは同じのようで、いぶかしげな表情をしながら門兵さんから封筒を受けとり、まじまじと見つめた。



「まあ、こんなところで見るのはなんだから、帰ってから読みなよ。とりあえず入りなね」

「あ、はい…そうですね。行きましょうか」



 私達は街の中へと入り、そのままどこにも寄らずに宿屋へと直行した。ロモンちゃんは部屋に入ってからすぐさま例の封筒を取り出す。



「中身見てみようよ」

「う、うん」



 ロモンちゃんが封筒を開けた。

 そこに入っていたのは2枚の紙。一方はどうやら地図のようだ。



「で…また魔王の幹部が現れたのかな?」

「いや…違うみたいだよ。なんかね、ダンジョンの場所を教える…だって」

「ダンジョン…? あ、確かに言ってたもんね! ダンジョンが見つかったら根回ししてくれるって!」



 リンネちゃんの言う通り、たしかにオーニキスさんはダンジョンが見つかり次第、優先的に教えてくれると言っていた。

 冒険者にとってダンジョンはクリアしてもしなくても、中の魔物を倒せるだけの実力があるならメリットしかない。



「てことは、これがそうかー」

「最近見つかったダンジョンなんだって! クリアしちゃってもいいし、無理そうだったら出てくる魔物やダンジョンの構造をオーニキスさん達に報告したら報酬がもらえるってさ!」



 なるほど見つかったばかりのを回してきたか。

 国が管理しようにも中身を調べ、それが管理する上でどのようなメリットがあるか調べ上げるにも人員やお金、労力がかかるし…見つかったばかりなのだからクリアされても痛手はそんなにないことになる。



「へえ…じゃあ今度行ってみる?」

「そうね、この街から馬車で40分くらいのところにあるって。アイリスちゃん、空飛んでったらどれくらいで着くかな?」

「地図を見る限りではこの場合、森を通るので時間がかかるようですね。ですので空を飛べば20分くらいですかね」



 ふむむ、とリンネちゃんは少しだけ考える仕草をすると、何か決めたのか一人で頷いた。



「じゃあぼくとアイリスちゃんでここの様子を今から見てくるよ! ロモンはケルの様子をそのまま見てて」

「えー…まあ、仕方ないか…」

「もし良さそうな場所だったらケルの特訓場所として使おうよ!」

「そうだね!」

「よし、決まり! じゃあお昼ご飯食べたら行こうよ、アイリスちゃん」



 私とリンネちゃんだけでお昼にダンジョンを見に行くのか…つまりデートかな? いや、違うか。

 とにかく。



「わかりました。行きましょう」

「うん!」



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