第106話 鍛冶屋へゴーでございます! -2-
「あの、質問をいくつか宜しいですか?」
「なんだ?」
いきなり剣を渡されて…細木が出てきて…剣の腕を見せろということまではわかるんだけどなぁ。
「この剣で細木を斬ってみて、その腕を見るんですよね? あの…補助魔法と剣術特技を使ってもいいですか?」
「どちらも使えるのか? ……なら、特技だけだ」
「承知しました」
とりあえず、使う特技はなんでもいいかな。
ふふ、リンネちゃんと剣の特訓を日頃からしてて正解だったね! 特技の数は少ないけど、技術は上がってるもの。
「水鏡一線」
私はそう技名をつぶやいてから剣を振るった。
光る一筋の線。
と同時に、真っ二つに斬られた数本の細木が現れる。
「どうですか? ちなみに、私が渡そうとしてる子はもっと上手いんですけど…」
「ふん………なるほど、とりあえずいいだろう。次に魔法を見せてみろ」
やった!
お爺さんは私に剣を返却させ、それを元の場所に戻すと、今度はまた壁にかけてあった杖を持ち出してきた。
「……お前が渡そうとしている者は回復魔法と攻撃魔法、どちらを使う?」
「えっと、どっちもです」
「そうか。ならお前はどちらもやってみろ。まずは攻撃魔法からだ」
お爺さんが再びパチリと指を鳴らすと、細木は一旦地面に潜った。潜ったと思ったらまた生えてきた。
なにこれ、本当にここ面白い。
「やれ」
「は、はあ」
こんな狭い場所で魔法を放つとなると…何が一番被害が出ないかな?
水魔法を圧縮すれば、威力は高けれど大きな被害は産まないか。
「リスバシャラム」
杖を的に向かって振るう。
野球ボールぐらいの大きさの水の塊が勢いよく噴出され、まるで大砲のように飛んで行って_________全てを貫通し、壁に穴を開けた。
……やってしった。
「ああっ…! ごめんなさい」
私は慌てて頭を下げる。
「リスバシャラム…ふむ、そこまでの魔法を使えるのに、お前は剣術も…。ああ、壁のことは気にしなくていい。自然に治る、そういう部屋だ」
頭を下げる私に対してお爺さんの目が優しくなったような気がする。
とにかく治るなら良かった。ふう。
杖は使い慣れてないから、力の制御が難しかったよ。
「次に回復魔法だが…。補助魔法でいいだろう。オレに補助魔法をかけてみろ」
「し、承知しました」
お爺さんに向かってフェルオールをかけた。
お爺さんは一度、驚いたように目を見開いた後、うんうんと頷く。
「今ので十分わかった。これほど実力があるお前が認めた相手に渡す武器か…よし、引き受けてやろう」
「ありがとうございます!」
杖をしまうとお爺さんは再びハシゴを登り始めたので、私もその後ろについて行く。
程なくして、普通の店内へと戻ってきた。
「素材を用意しているんだろ? 用意しているものをみせろ。ついて来い」
「は、はい!」
カウンター奥へとまた部屋を移動したお爺さん。
慌ててついて行ったその先は、魔物の身体を売るお店に備え付けてあるルームのようなところだった。
ここのお店は外見では狭いのに、いろいろあるもんだ。
「ここら辺におけ」
「わかりました、では全てここに」
私はありとあらゆる素材を、その部屋の床に並べていった__________
◆◆◆
「一体、お前はなんなんだ?」
全ての素材の確認をし終わったお爺さんから、そう言われてしまった。うん…やっぱり説明せずにただ拡げるだけじゃまずかったか。
「あ…あはは。悪者ではないです」
「どうだかな。例えばこれだ」
お爺さんは私の身体だったものを指す。
「オレはこの魔物と全く同じ魔物を、魔物武闘大会で見た! あんな魔物、そんじゃそこらにいるもんじゃない! …それに鑑定してみた結果、この魔物はほぼ唯一無二の存在! それにも驚いたが…。それよりお前は、あのロモンという冒険者の、仲魔を、どうしたんだ!」
ものすごい剣幕でまくしたてられた私。
恐い恐い。
それにしてもまさか、この人も武闘大会を観てたとは…。あれって本当に大きいイベントなんだね。
そんなことより、さっさと魔物に戻らないと、変な疑いをかけられたままだよ。
私はすぐにゴーレム…それも2段階目に戻った。
お爺さんはまた驚いたように目を見開く。
「………………なんと。そういうことか」
【わかって頂けました?】
念話で一言喋ってから、すぐに私は元の姿に戻った。
今のが幻だとか思われないように、天使の輪っかは頭に残したままで。
「ふ…ふは…ふははははは!! ということは双剣と杖はグライド団長の娘達に贈るものだったのか! いや…ドワーフながら…長生きはしてみるものだな。まさか、魔物使いの仲魔が自分の身体を使って主人の武器を作れと依頼しに来るとは、夢にも思わなかったぞ!」
先程とは打って変わって、お爺さんは大声で笑い出した。あの二人の武器だって今までの話から分かるのは、やっぱりお父さんが有名だからか、それとも、この人がきちんと大会全部を観ていたからか。
「となると…アイリスと言ったか?」
「はい」
「他の素材もいくつか説明してもらっていいか? 例えば…これとか」
お爺さんはベスさんの素材を指して言った。
「それはグライド様と奥様の仲魔のケルベロス亜種のベス様に協力して得たものです。私の回復魔法は効果が高く、損傷部位もすぐに治してしまうので、それを応用して御二方に」
「ふん…それで、この鱗は?」
今度はサナトスファビドの鱗を指してる。
「それは、偶然遭遇したSランクの蛇の魔物から鱗を毟ったんです。それから色々あって逃げました。ちなみに、その魔物はグライド様が葬りになられましたよ」
「なるほど…。で、このゴーレムの手は…」
「今の私です。先程の身体は進化前のものですので」
そう言ったら、お爺さんは考えるように腕を組んだ後、しばらくしてこんな提案をしてきた。
「となると、お前は人間になったばかりなんだな? なら、ロクな武器を持ってないだろう。伝説的なお前は武器を持つべきだ! ……どうだ、杖剣ならオレが作ってやるよ」
「えっ…いいんですか?」
頼んでもないのに。
杖剣って、剣と杖が一緒になったような奴。
見た目は違うけど、早く言えば銃剣みたいなもの。
そんなにおかしいのか、お爺さんったら、最初に会ったときなんかよりよっぽどフレンドリーに笑っている。
「いいぞ。こんな貴重な機会だし…お前は賢そうだ、武器4本分のお金もちゃんと用意してあるんだろう? 払える値段はいくらまでかとりあえず訊いとくぞ」
「6億ストンです。自分で小金を貯めて、それを協力者を募って大会でかけて増やしたんですよ」
「どうせ自分にかけさせたんだろう? ふはははは! だが6億もかからないさ。精々1本、高くて3500万ストンだな」
ニコニコと満足そうに笑うお爺さん。
私はもう一回だけ頭を下げる。
「なら…よろしくお願いします!」
「ああ。グライド団長の娘達の武器だ。腕によりをかけて作ってやる。…それなりに時間がかかると思うが……まあ、とりあえずは2週間後に見に来てくれ」
「わ、わかりました!」
その部屋を出て、私は店を後にする。
お爺さんはなんだかとっても嬉しそうに見送ってくれた。
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