第105話 鍛冶屋へゴーでございます!
「本当にアイリスちゃん、今日は一緒に仕事しないの?」
「はい」
ジエダちゃんに仇の身体の一部を渡してから2日。
ロモンちゃんとリンネちゃんが久しぶりに仕事に行こうと言い出したところを、『残る』と、私はワガママを言った。
「どうして?」
「少し単独で行動したいことがございまして…。ごめんなさい」
私は深く頭を下げた。
ロモンちゃんは「顔を上げて」という。
「うーん、アイリスちゃんも人間になったんだし、したい事があるもんね。いいよ!」
「あっ…ありがとうございますっ!」
もう一度頭を下げてから、私は10歳の子供の姿となりロモンちゃんに抱きついた。
首をちょっと傾けて、ロモンちゃんの胸に顔を埋めるように。うは。
「もう…よしよし。まあ、今回だけね、とかは別に言わないからね」
「ずるい、ロモンだけずるい! アイリスちゃん、ぼくのところにもおいで!」
頭を撫でてくれるロモンちゃんと、膝を曲げて私の身長に合わせて手を広げるリンネちゃん。
…む、直立のままだったら胸に顔が埋められるんだけど…仕方ないか、こればっかりは。
私はロモンちゃんから離れ、リンネちゃんに抱きついた。
「えへー、可愛いっ」
「満足したら行こうよ、お姉ちゃん」
「うん…もうちょっと___よし! 満足したよ、行こうか」
リンネちゃんから離れられた私は、玄関まで二人と一緒に移動する。
「じゃあね!」
「行ってきます!」
手を振る二人に私も手を振り返しながら、ドアから出て行くまで見送った。
……よし、もうそろそろ行ったかな?
「ふう」
私は18歳の姿になった。
さて、今日したい事というのは、前々から計画してたアレ。
ロモンちゃんに双剣を、リンネちゃんには杖を、この国で一番大きい都市であるこの街の1番の鍛冶屋さんで作ってもらってプレゼンするという企画!
そう、それの注文なの。
なんでもかなり厳しい人で、人を選ぶ上に素材はほとんど持参じゃなきゃいけないんだとか…。
今まで用意してきた素材は、リトルリペアゴーレム極至種の身体と手、ケルベロス亜種ほぼ丸ごと、サナトスファビド超越種の鱗…それにハードネスレディバとか、お父さんに『娘達の武器を作るなら』と譲ってもらったソードタイガーとハイスピードランナーとかいうそれぞれAランクの魔物の一部……それに、私、エンジェルゴーレム極至種の手。
これだけあれば十分だと私は思う。
十分過ぎて逆に余るんじゃないかな?
ふふふ…よし、行こう!
厳しいおじさんっていうのはちょっと恐いけれど、私ならなんとかなるはず!
◆◆◆
というわけで、お店の前にやってきた。
女騎士の知り合いから教えてもらった、このドワーフの鍛冶屋。
こういう厳しい人の店は目立たないところにあるもんだと思ったんだけど、裏路地に少し入っただけで簡単に見つかった。
チンピラとかも居ない綺麗な路地裏に、ポツンと緑色の戸と『ヨービス』という店名だけが書かれている看板。
うーん、雰囲気があるなぁ…。
さて、戸を開けるかな。
私は戸をトントンと、ノックした。
返事はない。
聞こえなかったかな?
そう考えてもう一度ノック。
やっぱり返事はない。
もしかして、まだやってない?
ううん、でも店の中の灯りはちゃんとついてるし…。
とりあえず、ドアを開けてみるかな。
ドアノブに手をかけ、回そうとした。
けれども鍵がかかってるようで、回らない。
やっぱり…準備中だったかな?
「何しとる?」
「んえっ!?」
突然、私にかけられたお爺さんの声。
慌てて後ろを振り向くと、私の目線より下に、ヒゲをもさっと生やした強面のお爺さんが居た。
ドワーフ…。
別に見るのは初めてじゃないけれど、やっぱりちっちゃいなぁ。100cmは超えてそうだけど…120cmは怪しい。
「あ…あのこのお店に用が…」
「なんだ、客か?」
キッと鋭い目で睨まれる。
なんというか…男の人が私やロモンちゃん達を見るあの目とは違う、品定めでもされるかのような目。
こ、恐いよぅ…。
でも平常心は大切だよね。
えー、コホン。
「その通りです」
「ふん、なら中へ入るがいい。来い」
私が邪魔だというジェスチャーをされたのでそこから退く。ドワーフのお爺さんは鍵で戸を開け、お店の中へ。
私もそれにつられてお店の中へ入り、戸を閉めた。
なんというか、とても質素だ。
質素なんだけども、鍛冶屋兼武器の直売所らしい。
壁に飾られてる剣や盾、杖や弓は全て超一級品だと一目見たらわかるだろう。
仕切り板を外し、お爺さんはカウンターの奥へ。
何かを置く音や、引きずり出す音が聞こえたと思ったら、のそりのそりという擬音がぴったりな感じでお爺さんが何もないカウンターについた。
「さて…まずこの店をどこで知った?」
「知り合いの冒険者さんに教えていただきました」
「ふん、そうか。……じゃあ、この店の決まり。言わばこのオレの武器を売るためのルールは知ってるな?」
「は、はいっ!」
この私が、偉い人と結構対峙してきたこの私が緊張してる! 目が恐い、とにかく恐い。
「…お前、名前はなんだ?」
「私は…アイリスと申します」
「ん…? どっかで聞いた名だな…。まあいい、それで? 何を作って欲しいんだ?」
「双剣と杖です」
お爺さんの太い眉毛がピクリと動くと、その目はより鋭くなった。ひぃ…。
「双剣と…杖? どちらもお前が使うのか?」
「い…いえ、私が普段お世話になっている者二人に、強力な武器をプレゼン…あ、いや、渡したいと前々から考えてまして…」
「ふん…。つまりお前は使わないのか」
「は、はい」
さらにさらに鋭くなっていく目。
バン! と勢いよく机を叩くと、お爺さんは仕切り板を外しカウンターからこちらへやってきた。
机が叩かれた時、ビクッ! ってなっちゃったよ、おっかない。
「オレは武器を良く扱い、武器を愛せる者にしか売らないことにしている。それは本人が買いに来てなくても一緒だ。いくら人に送るといっても、お前が扱えなければオレは作らないし売らない。こっちについて来い」
お爺さんはこの狭い店の壁に向かって数歩だけ進む。
その先にはマンホールのような穴があり、お爺さんはそこを開けて入っていった。
…ついて来いって言われたし、私もついていくことにしよう。
スカートを抑えつつ、私はお爺さんの上からハシゴを下っていった。
こういうタイプの人なら覗くなんてしないと思うけど、念のため。
数秒…ちょっと降りるにしては長い秒数下ると、そこは地下室だった。
と言っても壁にかかってる武器数個しかないから倉庫には見えないし、お母さん達の屋敷同様、アイテムの効果で空間を広げてあるみたい。
「ほれ」
先に下についてたお爺さんが、私に細身の剣を一本渡してきた。
さらにお爺さんはパチリと、指を鳴らす。
するとどうだろう、この部屋の地面から、切るのにちょうどいいくらいの細さの細木がいくらか生えてきたではないか。
一連の動作を済ませたお爺さんは、私に向くとこう言った。
「お前の実力を見せてみろ。剣と魔法、どちらもだ。……まずは剣だ」
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