第91話 飛んで火に入る夏の蛇…でございます!

【ギフト…でしたか。1週間ぶりですね】



 大隠密より上であろう隠密を解き、私の前に姿を現しているサナトスファビドに向かってそう言った。

 そう言っている間に、持ってきていた携帯型連絡装置をONにする。…これは合図。



【ゴーレム、なぜおまえは生きてるんだ? あのとき、ばくはつして死んだはず…】

【私の死体はちゃんと確認しましたか? ともかく、私はいつか貴方がここに戻ってくるだろうと、考え、待ち続けてましたよ…ずっとね】



 まあ、嘘だけど。

 たまたま手に入れた情報で作戦を練ってここに居るだけだし。



【それで、一応訊きましょうか? 貴方はなぜここに戻ってきたのですか?】



 サナトスファビドは舌を出し入れしつつ、正直に答えてくれる。



【オレか? オレはお前のシュジンのもう一人がここにやってくるんじゃないかと踏んだんだ。いたのはお前だったがな。人間は死者をとむらう。かわいがっていたのなら、それが魔物だったとしても。…あのもう一人が死ぬ日あたりにな…それを狙って来たんだがなぁ】



 ロモンちゃんは念話で私に『アイリスちゃんがやられてて、お姉ちゃんが助かってなかったら、私はそうしてた』と言った。

 おお、危ない危ない。



【残念でしたね、美少女が居なくて】

【ああ、残念だ。……それで? お前はなぜオレをまっていたんだ? こたえろ】



 この目の前の蛇みたいに、訊かれたことはほとんど答えてしまったり、失言したりはしたくないけれど、嘘の情報だったらなんら話しても問題ない。



【勿論、貴方に様々な怒りをぶつけるためです。貴方に…私の多数の知り合いがおかしな状態異常にかけられてしまいましたからね】

【くかかかッ! いいねぇ…その怒りもまた、絶望となる…】



 うむむ、まだ話を続けるかな。

 とりあえず、訊けるだけ訊いておこう。



【あの、思ったのですが…。貴方が少女らを苦しめている理由…。まさか魔王の復活に関わるのでは…?】

【…! さすがだ。よくわかったな】



 おお、正直に答えてくれるね、ほんと。

 テキトーに言ってみただけなのに。

 ロモンちゃんも少しびっくりしてる。



【そうですか。なら、それは是非とも止めさせて貰わなければ。……そして貴方を倒したなら、次は他に復活している幹部を見つける旅にでるとしましょう】

【ほかに生き返っているのか…? そうだったのか。まあいい。それも叶わない。……お前なんかじゃぁ、オレを殺すのは無理だろうからなァッ!】



 むむ、他に幹部がいるかどうかは知らない模様。

 引き出したい情報は引き出せた。

 ………時間もいい具合。


 作戦を決行しよう。



【シネッ】



 私に向かってサナトスファビドは突進してくる。

 


【ロモンちゃん、最初から全力でいきますよ!】

【うん!】



 すでに会話をしている最中に、補助魔法はフルでかけ終わっている。魔流の気も一気に全身に行き渡らせた。

 私はスドゴドラ…土の範囲魔法を唱えた。


 まず、私の眼の前に土の突起を作り上げ、迫り来るサナトスファビドへの壁にする。もちろん、1個じゃ足りないからバックしながら数個、隆起させる。


 そして数秒だけできたわずかな時間の間に、この爆心地から半径40mほどに同じ要領で、私達を囲むようにスドゴドラの土壁を作り上げてゆく。

 それに気がついたサナトスファビドは突進をやめた。



【まさか、雷魔法だけでなく土魔法までつかえるとはなぁ…。かこむようにしやがって、なにがもくてきだ?】

【…そうですね、答えられるのは…これで終わりではないということですかね】



 この会話の間に探知であることを確認しながら、次はスバシャラ、水の範囲魔法を唱えた。

 さっき隆起させた岩の上に降るような感じでね。



【おもしろい、水魔法まで……。お前は絶望させるときめていたが…なあ、やはりオレらのなかまに…】

【そうですね…】



 阿呆なこと言ってるその間に、水魔法でぬらした土の隆起に向かって、闇氷範囲魔法を唱える!

 水で濡れた土の柱は、すべて、紫水晶のような色をした、氷で覆われ始めた。


 はい、これで逃げられないっ!



【……! 超越種ていどのゴーレム、少なくとも亜種のゴーレムだとはおもっていたがこれほどとはなぁッ! 闇の氷魔法までつかえるたぁ…おまえは…】

【興奮してるとこすいませんが、先ほどの話は断らせて頂きますよ?】



 そう言い放つと、サナトスファビドはピタリと動きを止め、こちらを睨んできた。ただ、単純に怖い。

 燃えているような赤い舌が、チロチロと出し入れを繰り返している。


 

【………そうか…ならば、死ねよ。ここからでにくい…めんどうくさいまねしやがってナァァァァァァァァッ!!】



 サナトスファビドが私達に先ほどとは段違いの威力だとわかるほどの勢いで突進をしてきた。

 ただ、私はその場で棒立ちをし、言い放つ。



【そうですね。……しかし、これより貴方の相手は私ではありませんので】

【ハァッ!?】



 驚きでサナトスファビドの動きが一瞬止まった。

 _____と、共に横一文字の切傷が現れ、そこから血が噴き出してきた。

 

 サナトスファビドにダメージを与えた本人が、私…私達を庇うように前に立つ。まあ、お父さんなんだけどね。



【クアガッ…! ガァハッ! な…なに…】

「……瞬双剣、グライド見参…」



 お父さん、かっこつけてサナトスファビドに向かってそう言った。瞬双剣っていうのは、冒険者時代の時の二つ名らしいよ。



【お父さん、かっこいい!!】

「はは、そうか?」



 ロモンちゃんに褒められてお父さんは照れる。

 そんなお父さんの目は、水色の靄…魔流の気がかかっているみたいだった。


 ちなみにお父さんは、私達がスドゴドラを唱えると同時にこの範囲内に入ってきたの。無論、連絡した時から超高速でここまで走ってきてね。

 ああ、さっき探知で確認してたのはお父さんね。


 それで、さらに今から続々と、この闇氷の壁をかこむように兵士さん達が準備をしてやってくる。

 私の作戦は、大成功だね!


 サナトスファビドがうろたえている間に、私はお父さんに、全補助魔法をかける。



【ぐ…グライド…? 何者だ、おまえは!】

「私は貴様の毒牙に侵された娘の父親であり、この国の剣術騎士団長だ。…お前は私を怒らせた。タダで済むと思うなよ?」



 お父さんは2本の剣を構える。

 もともと、単独でSランクの魔物を倒せるお方が、さらに私の補助魔法をかけられているんだ…。負けるはずがない。



【……そうか、もう一人の娘ではなく、父親がきたか……! いつのまに来ていたのかしりたいところだが、貴様を殺せば、あの少女はよりなげく! ぜひ、殺させてもらおうかぁぁぁッ!!】



 サナトスファビドがそう言いながら、私達に向かって突進をしてくる。それもただの突進でなく、闇魔法を目に纏って。

 それと同時にお父さんも動いた。

 次元が違うスピード。

 お父さんは私達の目の前から一瞬で消えた。



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