第89話 モンゾニ村再びでございます!
「ん、ついたみたい」
ロモンちゃんがそう言った。
モンゾニ村にまたやって来たんだ。
街からこの村に来る6時間の間、お昼寝したり魔法の勉強をしていた私達は、馬車を運転していた御者さんに言われるまま、私とロモンちゃんは馬車から降りた。
降りると同時に、私達を待ってくれていたのか、女性の騎士さんが私達を迎えてくれる。
「えと、何人の兵士さんが毒に?」
ロモンちゃんがその女騎士さんに問う。
「12人です」
そんなに居るの!?
……って、その時はそう思ったんだけだ、後から聞いた話。
なんでも小隊は8方位に12人(私とギフトが対峙した方向にのみもう12人)、人事態は日替わりで捜索してて、そのうちの1隊が全滅したからそんな人数なんだって。
私とロモンちゃんは案内されるままに、あの、リンネちゃんが寝かされていた地下室に来た。
12人の少女…じゃなくて、12人の青年~おっさんが寝かされ、痛みに魘されている。
「もうしばらくしたら、グライド騎士団長…貴女方のお父様がここに来るはず__________」
女騎士さんがそこまで言うと、勢いは普通に、地下室の戸が開かれた。
「おお、ロモン、アイリスちゃん! 来てくれてありがとう」
「____来ましたね。では、私はこれで」
私達を案内してくれた女騎士さんは、お父さんに一礼してから、地下室を出て行った。
こうやって敬われているところを見ると、やっぱりお父さんは偉い人なんだなぁ~って、思うの。
「色々と話したいことがあるが…まずは治療が先だ。ロモン、アイリスちゃん、お願いするよ」
「うん、まかせてね!」
【承知しました】
ロモンちゃんは私と魔人対融をする。
私のステータスが格段に上がったのがわかるね。
そして一人一人、私は回復魔法の連発で毒された人達を一人ずつ治して行った。
それにしてもギフトはなんでこの人達を呪毒にしたんだろ? 美少女だけを付け狙う変態じゃなかったのか…?
それとも、この人達もこうしなきゃいけない理由があるのかな? んー……。
「ん…治し終わっらよ」
私との魔人対融を解き、ヘトヘトになったロモンちゃんは、倒れそうになったところを、お父さんに抱きかかえられる。
「ありがとう、ロモン、アイリスちゃん。じっくり休んでほしい…と、言いたいところだが、今はあまり時間がないんだ。ちょっと、話を聞いてくれ」
「ん…わかった」
お父さんは私達に、この1週間であったことを話し始めた。と、言ってもほとんど何も無かったらしく、今日起きた、今回のこの、隊員さん達が大量に毒を受けちゃったことが初めての大事らしい。
そしてその隊員の一人が、身体に激痛が走っているにもかかわらず、自分達の居場所とサナとスファビドを見たことを耐えながら、遠方に通話ができるアイテムで連絡したらしい。
さらに、その隊員さんは対象が『男でも女でもいいから絶叫が足りない』と言っていたことと『明日、爆心地に行ってみる』などと独り言を言っていたことを聞いたんだって。
前者の方はいままでの行動が何か意味をもってしているということが確実になるし、後者の方はギフトの出現する場所がわかる。
相当、呪毒の痛みは強いらしいけど、その隊員さん、よく頑張ったよね。
正直、昇進ものの大手柄だって、お父さんが言ってた。
私もそう思う。
「じゃあ…明日は、アイリスちゃんがサナトスファビドと戦った場所に行くんだね?」
「ああ、そうなる。問題は、来たときに奴に気が付けるかだ。大隠密なんかよりもさらに強力な隠密を持っているのは確実だから」
小隊の隊長を任されてた人は全員、大探知を持っていたらしい。大探知さえあれば、大隠密をしている場合でもすぐ近く、一定の範囲内に入れば探知できる。
それが効かなかったんだってね。
伊達に魔王の患部じゃないよね、恐ろしい。……独り言とかして重要な情報を漏らしちゃうのは、ちょっと思慮が足りないと思うけどね。
それを聞いたロモンちゃんは、こんな提案をしだした。
「なら…。囮を使えばいいよね? 女の子の囮を使えば、その間に姿をあらわすから。そ…その、私が_____」
ロモンちゃんが話してる途中だったけれど、それをお父さんが遮った。
「囮の作戦、それは考えたが、あまりに危険すぎる。できない。そもそもロモンを囮に使うなど、私には絶対に無理だ」
【私も同感です】
と、お父さんのその言葉に同意しておく。
「で、でも、呪毒されてもアイリスちゃんなら治せて…」「それでも、だ!」
ちょっと怒り気味で、お父さんはロモンちゃんに注意した。だけど、ロモンちゃんは下がらない。
「ありがと、でもね、お父さん。私、冒険者になった時から…ううん、なりたいって思ったときから、痛みとか怪我とか、そういうの全部覚悟できてるから」
いつにもなく覚悟を決めた顔で、ロモンちゃんはお父さんにそう言う。さらに、続けて私の方を向いてこう言ってきた。
「……アイリスちゃんだってそう。魔人対融をするのを嫌がるけれど、痛みがそのまま帰ってくるのなんて平気だよ。もっともっとあれを多用したっていいの」
ロモンちゃんが普段あまり言わないようなことを今、疲れてる身体で言っていることに驚く私とお父さん。
そんなの御構い無しにロモンちゃんは小さな演説と説得を私達に続ける。
「私…ううん、私とお姉ちゃんはもうCランクの冒険者なんだから、心配してくれるのは嬉しいし、大事にしてくれるのは嬉しい、だけど…やれることはやらせて」
静寂な空気が流れる。
しばらくして、お父さんがロモンちゃんを抱き締め、優しく優しく、こう言いだした。
「悪かった。リンネやロモンを少し子供あつかいし過ぎてたかもしれないな、お父さんは。知らないうちにこんなしっかりしたこと言う子になっただなんて…。でもな、ロモン。こればっかりは譲れない。確かにロモンは少し大人になった、だけど、やっぱり私達にとって大事な大事な娘だから。何か別の方法を考えないと____」
その時、地下室の出入口の戸が開いた。
そして、さっき私達をここまで案内してくれた女騎士さんが様子を伺うように入ってくる。
「あの…グライド騎士団長」
「ああ。なんだ? 何かあったのか?」
「あ、いえ…その…」
なんだか震えているように見える彼女の口から、ある提案が発せられた。
「す、すいません、外で話が聞こえまして…」
「…それで?」
「お、囮は私にやらせて頂ければと…。し、少女という歳ではありませんが、ま、まだ20なので、なんとか…」
かなりオドオドしくそう言った彼女は拳を固く握っていた。騎士…というか、そういう兵士としては立派な考えかもしれないけれど、恐怖心が滲み出てる。
「いや、それも却下だ。男を襲った今としては、もはや女性でなくともいい。私が囮となろう。私ならば対応ができるからな」
ふむむ、でももし仮にお父さんが失敗したら、それで終わり。サナトスファビドの討伐、あるいは捕獲が難しくなる。
うーーんっ……考えて…考えたら…なんか良い案が……あるかもしれない!
そう、あるかも!
私はお父さんに提案をしてみる。
【あの、お父様!】
「ん、なんだい?」
【私に良い案があります…!】
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