第39話 ギルドに単独依頼するのでございます

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【では、お願いしますよ。売ったら一度、戻ってきてくださいね】

「うん、任せてよ」



 そう言って、男の子は私がもたせた袋を握り、『冒険の店』へと入っていった。


 数分後、男の子が札束を持って戻ってくる。



「はい、ゴーレムさん。これだけ売れました」



 そう、男の子から手渡してもらった金額は112600ストン。

 思ったより高く売れたみたいだね。

 私はその中から5630ストンを抜き取り、そのお金を男の子に見せる。



【この額が、貴方への報酬です。次に、私が言う物を買ってきて頂けたら渡しましょう】

「んと……いくら?」

【5630ストンですね】

「え!? いいんですか、そんなに」



 男の子は目を丸くして喜んでいる。

 まぁ、確かにFランクの魔物2〜3匹分の値段だから、子供には多い額かもしれない。



【ええ、では買ってきてほしい物をいまから言うので、覚えてくださいね】

「うん!」



 男の子は元気よく頷いた。

 そんな男の子に、転移魔法陣1セットと、スペーカウの袋40000ストン分買ってきて欲しいと頼む。



【以上です、念のためもう一度言いましょうか?】

「ううん、大丈夫です。じゃあ買ってきます」



 再度、冒険の店に入った男の子は、先程より若干遅めに私のところに戻ってきた。

 手には袋と羊皮紙になにかが書かれてる物を二枚キチンと持っている。



「はい、転移魔法陣とスペーカウの袋……40000ストン分です、あ、あとこれはお釣りです」



 お釣り5970ストンと、頼んだ通りの品物を渡される。

 うん、ちゃんとできてえらい子だ。

 よしよししてあげたい気分だけど、私は魔物だからその衝動は抑えておく。

 お釣りの5970ストンの内、970ストンをチップとして渡すのも良いかもしれない。

 この世界にチップという概念があるかどうかは知らないけどね。



【ありがとうございます。思ったよりも良く仕事をして下さったので、個人的な謝礼金を渡しましょう。970ストン、御受け取り下さい】

「えっ……でも」

【良いんですよ、遠慮しないで。受け取って下さい】

「あ、ありがとうございます!」



 男の子は私の手から970ストン分の硬貨を受けとり、深々と頭を下げた。



【では、依頼内容は以上です。助かりました】

「は、はい!」



 私が依頼内容は以上だと言うと、彼は私に手を振りながらギルドへと戻っていった。

 子供だし、なにかミスがあるんじゃないかと不安になったけど、仕事は十分にこなしてくれたみたいだ。

 ヘタな大人に頼むよりはよっぽど良い。


 ところでまだ午前1時くらいだろうね。

 ……あのダンジョンにもうひと潜りしてくるかな。



◆◆◆



「おい、坊主! あの魔物に何かされたりしなかったか!?」



 レンガ色の髪をした冒険者が、今、異端なる依頼者から受けたお使いを終えた少年に、他の冒険者達と共に駆け寄った。



「はい、良い…人? ううん、良い方だでした。お金も今までうけたお使いの中で、一番もらいったの!」



 その言葉を聞いて、駆け寄ってきた数名の冒険者はみんな安堵し、胸をなでおろした。

 


「しっかし、あのゴーレムはなんなんだろうな」

「さぁな、だが頭に輪っかが生えてるゴーレムなんて今まで居なかったし、新種だろうな」

「いや、そっちじゃなくてよ」



 各々の冒険者は互いにかのゴーレムについて考察し始める。



「本当に魔物か疑いたくなるくらい、やけに流暢に念話してたよな。それも頭が悪いはずのゴーレム属が……だ」

「あぁ、それに人の言葉も、文字も分かるとくる。……そんなのが普通種や亜種程度な訳ねぇよな」

「確かにな、超越種は確実だろ。俺、初めて超越種なんて見たぜ? 新種のゴーレム超越種ってすごいな」



 誰かが言ったその言葉に、皆は首を縦に振った。



「小生、あのゴーレムが言っていた"ブ"という単位が妙に気になるのだが……」

「ああ、あれな。あれもよくわかんなかったな」

「それ、私、ちょっと聞き覚えあるかもしれません」



 そう言いながら手を挙げたのは、白い鎧に身をまとった女剣士だ。



「おう、あれに心当たりあんのか?」

「はい、私の兄が数術学者をしているのですが……その兄が"分"という単位について話してるのを聞いたことがあって……」


 

 そのことを聞いた冒険者達は互いに顔を見合わせた。



「つーことはあれか、あのゴーレムは俺達より頭が良いってか?」

「はっはっはっ! そうなるな」

「でも、一体ゴーレムなんかに誰が言葉と数術を教えたんだろ〜な?」

「そういや、あのゴーレムの腕に仲魔のマークが付いてたな」

「じゃあ、あのゴーレムのマスターが教えたってか?」

「………そうなるな」



 彼等の間では、アイリスの謎が深まるばかりである。



◆◆◆



 今、朝の5時30分程。

 私はダンジョンを2時間ほど特技による素早上昇こみで全力疾走した場所に居る。

 

 移動の間だけでもヒュージレディバを大量に討伐し、Eランクのヒュージレディバ属とも奥に行けば奥に行くほど遭遇した。

 もちろん全部回収しておいたよ。


 ダンジョン全力疾走して1時間と40分ぐらい経ち初めてからDランクのヒュージレディバである、アイアンレディバやスファイレディバ、それとスゴロゴレディバとエンカウントした。

 それぞれDランクの下の魔物で、高さはおよそ私と同じくらい。


 アイアンレディバは防御力が恐ろしく高いらしい。

 だけど、羽の部分が硬いだけであって腹部はそんなことないから、どうにかしてひっくり返してあげればなんの問題もなく倒せるんだよね。


 スファイレディバとスゴロゴレディバはその名の通りの魔法をつかう。

 でも、私の身体はミスリルでできていて、魔法耐性はものすごく高いから、魔法を当たられてもなんの問題もなかった。


 やはりこの3種も全種、売却した時の値段はそこそこ高めなんだって。

 ほんとうに、ウォルクおじいさんの魔物図鑑とか全部覚えておいて正解だったよ。


 ちなみに、私はこんなにさっくりとDランクの魔物を倒してるわけだけど、普通ならこうもいかないよ。

 まず、一般人が勝てるような強さじゃないの。

 Fランクの中程度なら、武器を持てば戦闘経験のない素人の大人でもなんとか勝てるけれど、Fランクの上〜Eランクの中の間の魔物は無理。

 素人の大人3人が相手をしてやっと勝てるぐらいかな?

 そんなんだから、普通の人間がDランクなんかに近づいちゃダメ。

 私は魔法耐性が強いから良いけれど、もし仮に一般人が『スファイ』なんてくらったら、大火傷なんかじゃ済まない。


 だから、Dランクからは素材売却値が一気に高くなるの。

 EランクがFランクの魔物の値段の1.5倍なら、Dランクの魔物の値段は10倍くらいに。

 さらに、亜種や超越種は値段が釣り上がる。

 なにせ、それぞれ強さで言ったら該当ランクの1〜2段階上の強さだもんね。

 例えば、Dランクの下の魔物の亜種なら、その魔物の実質的な強さはDランクの中か上。超越種ならばCランクの下か中って言ったところかな。


 だから希少価値とその強さが重なり値段が釣り上がるの。

 まあ、私はこのダンジョンに入ってから、まだ1匹も見てないんだけどねー。


 袋から転移魔法陣の2枚目を取り出して、私が今いる地点の壁に貼り付けた。

 こうすれば、次のダンジョン攻略の時に、ここから始められる。


 もう一つの転移魔法陣は入り口にすでに張っていて、入り口に戻る時にまた2時間全力疾走する必要がない。

 ちょっと予定より1時間くらい早いけれど、袋も3/4は埋まったし、もう帰っても良いかな。


 ちなみに、城下町の中では転移魔法陣は貼れないし、貼った場所に転移することもできない。

 妨害電波的なものが流れてるんだ。

 まぁ、当然といえば当然なんだよね。


 こうして、私は誰にも見つかることなく城下町町内に帰ってきた。

 宿屋の鍵を開け、自分達が借りている部屋の鍵を開け中に入る。

 

 ベットでは、リンネちゃんがロモンちゃんに抱きついて眠っていた。

 そういえば、リンネちゃんって人形抱いて寝てたんだっけ?

 それの癖が残ってるんだね。

 ……そっか、あのままベットに居たら、抱きつかれてたのは私か。

 明日は少し遅めにでても良いかも。


 それにしても二人とも、寝間着や布団がはだけてお腹を出して寝てる。

 私は二人がお腹を下さぬように、布団を掛け直してから、自分の娯楽の一つであるお掃除を始めた。

 

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