異世界派遣~就活失敗したせいで命がけで美少女を救うことになった~
折口 平
第一章
第1話 「おたくは金髪巨乳天然エルフと巨尻セクシー吸血鬼どっちが好み?」なんて聞かれても
会社を半年でクビになった。
我ながら、随分とろくでもないことをしでかしたもんである。
四月の初め、親元を離れて過ごした四年間に無価値の烙印を押されたおれは、何を血迷ったのか地元で就職活動を始めた。
片田舎であっても、探せば働き口はあるもので滑り込んだ会社でおれは社会人となった。
ここまでは何も問題はない。
問題だったのは、配属された部署が営業でおれが車の運転に慣れていなかったこと。
何より、自分の運の悪さを見くびっていたことだ。
三度。
半年の間に三度も交通事故を起こした。
一度目は、物損。二度目も物損。三度目も物損。
人身事故は一度も起こしていない。だが、致命的に長距離運転が向いていなかった。
それを社長直々に言い渡され、そのまま自主退社を薦められた。陽気な笑顔が印象的なじいさんだった。話しているとこちらまで笑顔になる不思議な男だった。
そんな男が神妙な顔をして伝えてきたのだ。文句を言う気力もなくなってしまった。
結局、三度目の事故の直後におれは会社を辞めた。
半年という時間は短いようで長い。
新卒なんて言うことはできなかったし、前の会社でのことを隠すつもりは毛頭なかった。
結果は軒並み全滅。
半年前の再現にくじけそうになるかと思ったが、そうでもなかった。短いながら社会人としての経験で忍耐力をそこそこ鍛えられていたらしい。
断られたら次に行けばいい。
そんな当たり前のことを、おれはまるで理解していなかったのだ。
というわけで今日も今日とて面接に来たわけなのだが、
「んで、おたくは金髪巨乳天然エルフと巨尻セクシー吸血鬼どっちが好み?」
この質問。
おれは社会人の奥深さを改めて思い知らされた。
*
エルフ、吸血鬼。
ある意味時代錯誤ながらいつも変わらぬファンタジーの王道的キャラクターである。そのどちらが好みかと聞かれても、正直どっちでもいいとしか答えられない。
ただ条件が巨乳と巨尻であるならば答えは明確だ。そんなことより、巨尻と言う言葉を初めて聞いた。
「巨尻吸血鬼の方が好みですね」
「おっと、趣味がいいねえ。俺と気が合いそうだ。んじゃ、次の質問。気弱な癒し系お姫様と気の強すぎるツンデレお姫様。どっちがいい」
「気が強過ぎるんですか」
「ああ。具体的に言うと惚れた男を監禁しちゃうくらい」
「それもう病んでるじゃないですか」
他愛のない会話と質問が続く。
この時点で、採用は諦めた。
この会社はアニメ関係のグッズを扱うのでもなければそういう関係の会社ではない。製薬関係の販売と開発を行う会社で地元でも有数の優良企業。書類を送って面接にこぎつけた時は驚いたが、どうやら向こうも数合わせのつもりだったらしい。
ならば、と思考を切り替える。
いくら芽がないからといって捨て鉢になるのは損である。人間というのはどこでどうつながるのかわからない。なにより会話は重ねれば重ねるほど磨かれていくものだ。
なにより、この手の話に抵抗を覚える性質じゃない。
おれは出来る限り質問に答え、面接官との雑談を楽しむことにした。
「いや、最近さぁ。スマホで流行ってるんじゃん? 基本無料とかって言ってるけど課金しなきゃ良いの手に入んないってやつ。あれうまいことやってるよね。人気さえあれば儲け出るとかマジで上手いよなぁ」
「やってみると実際面白いですよ。シンプルなゲームが多いのでやり方を覚えればさくさく進めることも出来る。難易度やスキルを使ってダメージを上昇させたり、ダンジョン特有のトラップを乗り込えるための編成を考えたりなんてシステムのゲームもあってなかなか奥が深い」
「けどさぁ、対戦するわけでもないのに金つぎ込んで強くなってもしょうがなくないか?」
「確かに競争相手はいませんが、凝り性の人間だと止まらなくなるでしょうね。自分の中で全てが完結するからこそハマるんじゃないでしょうか」
「詳しいね。黒崎君も結構やり込んでる?」
「いや、人並みですよ」
「またまたぁ。ほんとはウン十万もつぎ込んじゃったんじゃないの?」
「そんなにつぎ込んだらスーツも買えませんよ。今日のために革靴新調したんですから。ほら、ぴかぴかでしょ」
「あはは、気合入りすぎじゃないかぁ?」
冗談で革靴を見せると快活な笑いを返された。
随分と親しみやすい人だ。面接官としてではなく居酒屋なんかで会った方が楽しいかったかもしれない。
そんなことを考えていると、
「んじゃ、志望動機をきかせてくれる?」
ごく当たり前の質問がキラーパスのような鋭さで飛び込んできた。
今更それを聞くのかと思わないでもなかったが、言葉を淀みなく発することが出来た。
「御社の事業である製薬の開発、それに伴う販売業に貢献したいと思ったからです。なにより、御社のキャッチコピーである『誰かのための未来のために』に感銘を受けました」
「キャッチコピーに惹かれた理由は?」
「誰かのためにという点です。営業であれば、その誰かと接することが出来る。そして、まだ知らない誰かともつながることも出来る。そういう風にどこかの誰かの力になりたいんです」
「なるほど」
面接官は手元の資料に目を落とした。
…何となくだが、感触が悪かったような気がした。当たり前だ、おれが言ったことはあまりに当然のことなのだから。
誰でも考えられる志望動機。
だから、どうしたというのか。
おれは実際にこの会社の業務内容や業績についても調べたし、業界についても多少の勉強をした。その上で、一番印象に残ったのがこのキャッチコピーなのだ。
個性がない。
大学のキャリアサポートの職員から言われた言葉だった。いや、もっと別な言い方だったと思うが、内容に大差はない。
それではだめだ、といろいろな変化を加えてみても、結局は書類選考でふるい落とされた。大手ではない、中小だろうとどんなところでも門前払いに近い扱いを受けた。
結局、自分を偽っても仕方がないのだと悟った。
どれだけ無個性と言われようとも、そう思ったことは決して間違いじゃない。問題なのは、それを信じることが出来ないことだ。
自分のことを信じて物事を行えば、自ずと結果は付いてくる。
きれいごとではない。短い期間でも社会人として過ごして得た教訓なのだ。
…と考えてはいるものの、内心の不安はちっとも消えてくれないのであった。
「んー、最後の質問いい?」
「はい」
「もしもの話なんだけど」
「とある国でとある少女がとある事情で困っていました。君はその国に出張を命じられていて、偶然その少女と出会う。君の仕事は人助けをすることだ。その場合、君は彼女のために働くことは出来るかな?」
「ええ。仕事でなくても、力になれることがあれば」
「それで銃をとることになっても?」
「その時は逃げます。もちろん、その子を連れて」
なるほど、と面接官はまた手元の資料に目を向ける。
間もなく面接の終了と退室を促された。
採用は追って知らせるとのこと。
外に出て、時計を見れば正午を指している。面接時間は三十分。可もなく不可もなく。
話した内容を鑑みれば結果を察するには十分である。
「あー、腹減った」
ため息を一つ。
牛丼でも食って、リクナビを見よう。
*
その二日後、メールで採用通知が来た。
喜びもつかの間、おれは理不尽というものをその身で実感することになる。
*
目の前には異国の少女。
煌びやかな調度品も厳かな内装も月が二つなんてこともなく。
薄汚れていても整理整頓の行き届いた室内。
居間と思しき場所で、木製のテーブルと椅子が隅に追いやられている。床に描かれた模様はよくわからない。くにゃくにゃまがっていてお世辞にも上等な出来ではない。
「あなたが、私の勇者様?」
つぶらな瞳が暴力的なまで輝いている。
幼くも期待に満ちた表情。
おれは深く息を吐いて、精一杯強がることにした。
「はい、そうでしゅ」
噛んだ。
*
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