第221話 今後の方針

「なら、どうするの?」


 これから対峙する存在の対策を立てるため、その存在についてまず知らなければいけない。

 だが現在、土御門神社で保管している辞典の類が信頼できるものかどうかがわからない以上、その資料が正しい解釈をしているかは未知数。

 そんなことを言ってしまっては、身動きすることができなくなってしまう。

 月美はそう思い、護に問いかける。


「だから、自分で原典を紐解いて、どうすればいいのか考えるんだ」


 その問いかけに、護はそう返した。

 それらの存在が記された書物を自分で紐解くのなら、話は変わってくる。

 自分も同じように考え、結論を導き出せるならそれでよし。

 仮に、違う結論を導いたのならば、自分の直感が正しいと信じて対策を練る。

 護は、いや土御門家の術者は今までそうやって未知の存在と対峙してきた。

 もっとも。


「けど、それもそれで時間かかるよね?」


 辞典の必要となる箇所を読み、その上で原点を読み、自分で解釈する。

 それは確かに、時間がかかることだ。

 だが、護に言わせれば。


「そいつに関わる全部を読む必要はないから、そうでもない」


 ということらしい。


「ごめん、言ってる意味がわからない」

「要は、そいつが出てくる部分の前後を読み解くんだよ。そうすれば全部を読む必要はない」


 要するに、必要となる場所を見つけてその部分だけを紐解くことで時間を大幅に節約するつもりらしい。

 確かに、それならある程度、時間も労力も節約できるだろうが、果たしてそれで正しい対応ができるのだろうか。


「けど、ジョンさんの話しだと、今回相手にするのは悪魔なんだよね?それで大丈夫なの?」

「最後の最後は……まぁ、力押しになるかな」


 月美が不安そうにしながら問いかける言葉に、護はあっけらかんと返す。

 アジア圏とヨーロッパ圏では、妖に通用する理が異なる。

 いくら自分の知る範囲の存在と同等のものという解釈をこじつけて、同一化したとしても、どうしても根本の部分が異なることに違いはない。

 そのため、最後はどうしても力押しになってしまう。

 もっとも、月美はそのことにどこか納得できないらしく。


「なんというか、意外と強引なところもあるんだね?」

「結局、最後に物を言うのは力の強弱ってことで納得してくれ」

「そういうことにしておきます」


 結局のところ、どれだけ対策を練ったとしても、力押しされてしまっては意味がない。

 それは月美もなんとなくわかるので、苦笑を浮かべながら、納得することにした。


「なら、早く取り掛かった方がいいんじゃない?」

「そうだな。けど、その前に調査局に聞かなきゃいけないことがある」

「光さんに何か確認しないといけないことでもあるの?」

「より正確には、悪魔祓いのジョンさんに、だけどな」


 護がこれからやろうとしていることは、相手の名前を事前に知っていなければならない。

 だが困ったことに、護も月美も、ジョンが追いかけている悪魔の特徴も名前も知らないのだ。

 こんな状態では、旧約聖書を最初から最後まで紐解かなければならなくなってしまう。

 そんなことをしていられる時間も労力もないため、情報を持っているであろうジョンから情報を提供してもらうつもりのようだ。


「でも、今から電話して大丈夫かな?」


 もう間もなく、日付が変わろうとしている時刻。

 普通なら、電話することをためらう時刻だが、自分たちには時間がない。

 それは向こうもわかっているし、この時間でもあっても、まだ仕事をしているはずであるため、電話しても問題はないだろう。

 だが、仕事をしている時間だから、電話をしても大丈夫というわけでもない。


「今からだとあいつの機嫌が悪いかもしれないから、明日にするさ」

「……それもそうね」


 うまく話ができるかどうかは、電話を受ける本人の機嫌の良しあしにも左右されることがある。

 この時間でであれば大丈夫と考えて電話したら、相手は休憩中だったというような事態になってはこちらが申し訳ない。

 普通ならそう思う程度で済むのだが、光は感情の起伏が激しい時がある。

 もしいま電話をかけて、休憩中あるいは仮眠を取っている最中であった場合、彼女の機嫌が最悪な状態になり、今後の活動に支障が出てくるかもしれない。

 それを避けるためにも、そして何より護たちが自分の睡眠時間を確保するためにも、連絡を取るのは明日にするようだ。

 そう結論を出すと。


「ふぁふぅ……」


 月美が突然、あくびをこぼした。

 そんな月美の様子に、護は微笑みを浮かべるが、気づかれたことを悟った本人は、顔を真っ赤にする。

 いつもはそろそろ布団に入り、就寝している時間だ。

 それに、この数十分で様々な情報が入ってきたため、少しばかり頭が疲れてしまっている。

 眠くなってしまうのも、仕方がないだろう。


「今日だけで色々ありすぎたし、そろそろ寝ようか。俺も眠いし」

「そ、そだね……おやすみ、護」

「あぁ、おやすみ」


 恥ずかしさから、月美は顔を赤くしながら護と言葉を交わし、そのまま自分の部屋に戻っていく。

 その姿を見送り、護もまた自分の部屋へと戻っていった。

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