第157話 文化祭初日~来客三人組のお目当ては~
『それでは、皆さん、準備は万端でしょうか?万端でなくても、無慈悲に宣言させていただきます。これより、月華学園の文化祭の開催を宣言いたします!どうか、生徒の皆さん、先生方、そして来校くださったお客様方も、楽しんでください!!』
マイクを渡された生徒会長は、開会を宣言した。
その宣言と同時に、文化祭の受付は金券と現金の交換などの手続きでてんやわんやの大騒ぎになっていた。
受付を終わった来客たちは、次々に目的の場所へと向かっていった。
その客人の中には光を含めた、数名の調査局の職員もいた。
「場所はわかっているな?」
「えぇ。事前にパンフレットをもらえたことが幸いしました」
「よし、急行するぞ」
彼女たちの目的はただ一つ。
文化祭の催しとして行われるバザーで出品されると噂されている『呪いの人形』を購入、回収することだ。
バザーが開催される教室は、すでに協力要請をしている護から連絡が来ていた。
風変わりな品が出品される、というおまけの情報もついてきていた。
「その『風変わりな品』が目当てのものだといいんですがね」
「そうでなかったら困る。このあたり一帯の学校で、文化祭を行う予定になっている学校はここだけだからな」
部下の一人の言葉に、光は顔をしかめながらそう返していた。
現在、調査局が調査に赴いた学校の中に、『呪いの人形』があったという報告はおろか、確保の成功ないし失敗の報告も上がっていない。
となれば、ここ月華学園に置かれている可能性が濃厚、ということになる。
だが、もしこれでここのバザーにも『呪いの人形』がなければ、バザーに出品される前の段階で誰かの手にわたってしまっているか、掴んだ情報がインチキであったかのどちらかだ。
前者ならばともかく、後者であったなら、自分たちの情報を精査する能力を疑われることになる。
そうなれば、間違いなく査定が行われることとなる。結果次第ではどうなるかはわからないが、処罰としてはよくても減俸、悪いければ免職という事態にもなりかねない。
最悪の事態が思い浮かんできたのか、もう一人の部下が、顔を少しばかり青くしながらそう口にしていた。
その気配を感じ取ってか、光はそう言ってきた部下の肩に手を置いた。
「目当ての品であることを祈りましょう」
「なに、別班から発見したとか誰かに買い取られたとか、そもそも情報がガセだったという報告も上がっていない。なら、ここにあれがあるということがほぼ確定しているはずだ」
「そ、そうですよね!がんばって探して、あとの時間は楽しんでしまいましょう!!」
光の励ましからか、顔を青くしていた部下は沈んだ表情から浮上し、再び仕事に向かう気力を得たようだ。
もっとも、その気力を得た理由が、文化祭を楽しみたい、という欲望から来ているもののように思えてならなかった。
だが、光はそれに同意するようにうなずいていた。
「そうだ。どうせなら、さっさと標的を見つけ出して、あいつの面白おかしい姿を拝んでやろう」
「あいつ、ですか?」
「誰のことですか?もしかして、この学校にお知り合いが?」
光の口から出てきた「あいつ」という単語に部下二人が反応を示した。
光自身は小声で言ったつもりだったらしく、聞かれていたことを知り、若干、顔を赤らめていた。
だが、わざとらしく咳をして、自分が口にした「あいつ」について説明を始めた。
「この学校で今日文化祭があることを情報提供してくれた人間だ。ここの学生らしい」
「へぇ……」
「男ですか?」
「あぁ、男だ。だが、お前たちが期待しているようなことはないと断言できるぞ」
部下たちが期待していることとは、光が「あいつ」と呼んでいる男との色恋沙汰であった。
光は基本的にまじめ一本の仕事人間であり、恋愛が絡むような噂はおろか、男といる現場を目撃したという話もまったく聞いたことがない。
プライベートのことでまったく隙を見せたことがない彼女の、唯一にして最大のスキャンダルなのではないか、と勝手に期待しているのだ。
だが、その可能性はとうの本人からばっさりと否定されてしまった。
それも、何か汚らしいものでも見たかのような、蔑むような表情のおまけつきで。
「念のために行っておくが、そいつは土御門家の嫡男だ。下手な夢想はやめておけ」
光の口から出てきた「土御門家」という名に、部下の二人は体を震わせた。
調査局の内部で、土御門家といえば外部協力者としてもっとも有力な術者の家であり、かの稀代の大陰陽師とまで呼ばれた安倍晴明に連なる家系だ。
その嫡男と言えば、晴明の再来と噂されるほどの実力を有し、つい数か月前には調査局の監視対象となっている怨霊「芦屋道満」を退けたという噂もある。
確かに、下手なことを言って不興を買ってしまったら、何をされるかわかったものではない。
「わ、わかりました。そうします」
「よろしい。さ、行動するぞ」
光の言葉に、部下二人はうなずき、目的地であるバザーを催している教室へと向かった。
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