第155話 準備は大忙し~すべての準備が終わり……~
準備がいよいよ大詰めとなり、放課後だけでなく、休み時間や昼休みも消費しなければならないほどになっていた。
だが、コスチューム作成班の熱意はすさまじく、作成中のコスチュームを持ち帰り、自宅で遅くまで作成作業を行っていたため、文化祭開催日の三日前には試着し、調整を行うだけとなっていた。
その調整も一日かかることなく終了し、いよいよ、クラスメイトのほぼ全員で内装作業に取り掛かることになった。
しかし、内装作業といっても、準備していた段ボールを養生テープで壁に貼り付け、テーブルを並べ直し、テーブルクロスを上に敷き、メニューと申し訳程度の造花で飾り付けをするくらいなもので、人海戦術が功を奏したため、それほど時間はかからなかった。
そのため、護たちは時間を持て余してしまっていた。
「で、どうすんだ?」
「何が?」
「文化祭。空いてる時間、どこ回るんだよ?」
ほかにしなければならない作業もないし、委員会や部活動に参加もしていない護は、清に引っ張られる形で強制的に清の手伝いをさせられていた。
その中で、突然、清は文化祭の当日をどうするのか問いかけてきた。
むろん、文化祭中はクラスのシフト以外にも調査局からの頼まれごともあるため、あまり自由にまわることはできない。
とはいえ、一応、仕事の話でもあるため、清に事細かく説明するわけにもいかず。
「まぁ、適当にぶらぶらする予定だ」
としか返答することがなかった。
もはやお約束となっているその返し方に、清は何の疑問も持たず、即座に一つの提案をしてきた。
「なら、一緒に回るか!」
「……お前のことだから断っても付きまとうつもりだろ?」
「はっはっは!わかってるじゃねぇか!!さすが親友」
「俺はお前の親友になった覚えはない」
清の調子のいい言葉に、護は半眼で睨みながら返した。
護からすれば、確かに清はほかの男子たちと比べて気を許せる生徒ではある。
だが、最後には手のひらを返してくると思っているためか、あるいは人間は手のひらを返してくるものだということを経験で知っているためか。
いずれにしても、清のことは友人と思ってはいても、親友とは思っていないようだ。
むろん、返されたその言葉に清は口をすぼめて文句を言っていた。
「え~?一緒に旅行に行ったじゃんかよ~」
「関係ない」
「ぶ~ぶ~!」
「……お前は豚か?」
清が飛ばしてきたブーイングに白い目を向けながら、護はそう返した。
むろん、清はその返答に対して反論してきた。
が、護はその反論に返す様子はまったくなく、無視していた。
こうなると何を言っても無駄であるとわかっている清は、それ以上の文句は言わなかった。
言っても無駄だということを悟っているのか、それとも単純にこのやりとりに飽きたのか。どちらにしても、これ以上、文句を言うことはなく、清は無理矢理話題を切り替えた。
「まぁ、それはともかくとしてさ。お前、だったら何やるんだよ?」
「月美と時間が合えば月美と一緒に適当に回る。それまでは……適当に一人で回るさ」
清のその問いかけに、護はあっけらかんと返した。
予測できていたその答えに、清はため息をついていた。
「お前さ、風森以外と回ろうとか考えないの?」
「恋人を優先して何が悪い?」
「いやいや、時間が合うまでの間に一人で回るとかそっちの方が考えられないわ!!」
「だったらお前と回った方がまだましだ。回る気はこれっぽっちもないけどな」
清と二人で回る、という誘導を避けるためなのか、護はそう返していた。
護から返された言葉に、清は残念そうな表情で舌打ちをした。
「ちっ、誘導を避けやがったな」
「知らん」
「ちっ、こやつめ……まぁいいや」
「随分とあっさりと引くな」
いままで経験から清は、ここからさらに追撃するかのように詰め寄ってくるのだが、あっさりと諦めたことに護は目を見開いた。
だが、そんな表情に気づくことなく、清はあっけらかんと返してきた。
「だってあとで合流しても同じことだろ?」
「前言撤回、お前、全然諦めたないだろ」
「当ったり前よ!ここで引いたら男が廃らぁな」
清のそのセリフに護は、どこの時代の人間だ、とツッコミを入れたい気持ちを抑えていた。
とはいえ、護自身も何を言っても付きまとってくるであろうことは、いやというほど経験していたため、ここで文句を言っても当日には素知らぬ顔で付きまとってくることは簡単に予測できていた。
ならばもういっそのこと、黙ってついてこさせて、適当なところで逃げればいいのではないか、という考えに至り、護はため息交じりで答えを返していた。
「……はぁ……もう勝手にしろ」
「おう、勝手にさせてもらうぞ」
勝った、と言わんばかりの晴れやかな笑顔を浮かべながら、清はそう返してきた。
その笑顔に若干の苛立ちを覚えると同時に、当日に自分がやらなければならないことが増えたことに護は頭を抱えたくなっていた。
そんな護の心中など知ったことではない、とでも言うかのように、時は流れ、ついに護たちは文化祭当日を迎えることとなった。
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