第135話 縁深き神社で血縁者と出会う

 三十三間堂から出て、ようやく謎の威圧感から解放された護たちは安どのため息をつき、次なる目的地である二条の方面へとむかっていた。

 向かったのだが、途中で腹の虫がなり始め、昼食をとることにした。

 が、近くに食堂やレストランの類はなく、結局、パワースポットとして有名な神泉苑まで歩くことになった。


 「……暑い、疲れた、腹減った……」

 「言うな。神泉苑は水辺だ。ちったぁ涼しくなる」

 「だといいんだけど……」

 「りょ、料亭とまではいかなくても、お料理屋はあるから」


 空腹と暑さで疲労がたまり、ストレスが限界に到達しようとしていた明美の愚痴に、護と月美が返し、どうにか爆発しないようになだめながら、一行は神泉苑に到着した。

 神泉苑に入るとすぐに目に入るのは、善女竜王と呼ばれる、空海が祈雨を行った際に召喚した龍神を祭る社だった。

 その社の目の前には、恵方社と呼ばれる小さな社がある。

 その入り口は、その年の恵方に合わせて方向が変わるようになっており、常に縁起のいい方向から運気を呼び寄せていると言われている。

 また、平安時代のころから、夏にはこの場所で夕涼みの宴が行われるなど、由緒ある場所でもある。


 そんな神泉苑のほど近くに、こじんまりとした料理屋があった。

 敷地内にはなかったが、隣接している場所にあるため、窓からは神泉苑の池を一望できる席もあり、見た目にも涼しく、静かでいい場所だと感じられた。

 五人は従業員から差し出されたメニューの中で比較的安い昼膳を注文し、しばらく、窓から見える神泉苑の様子を楽しんでいた。


 「しっかしでっかい池だよなぁ……」

 「平安時代、ここでは夕涼みの宴が行なわれていたらしい」

 「もしかして、船を浮かべてたとか?」

 「らしいな……ガイドブック見る限りだけどな」


 そんなことを話していると、重箱のような漆塗りの箱が運ばれてきた。箱にはいくつか仕切りがあり、その区画一つ一つに、刺身や天ぷらなどの料理が収められていた。

 さらに、茶碗が三つと漬物が盛られた小皿と塩が盛られた小皿、天つゆが入った器と醤油さしが運ばれてきた。


 「すっげぇ……」

 「ザ・和食って感じね……このお値段も頷けるわ……」

 「わたし、こんなの初めてだよ……」


 清と明美、佳代の三人はそんな感想を漏らしながら、恐る恐るといった様子でお膳に手をつけていた。

 一方、護と月美は慣れているのか、おっかなびっくりという様子はまったく見せずに料理を口にしていた。


------------


 昼食を終えて、神泉苑を少し散策した一行はそこから二条城へとむかった。だが、目的地は二条城ではないため、その前を通り過ぎ、少し歩いていくと、五芒星が書かれた鳥居をくぐっていった。

 そこは、平安時代において稀代の大陰陽師と謳われ、天皇の食事を管理する役職にまで上り詰めた一人の男が祀られる神社、晴明神社の鳥居であった。

 護にとって多少どころか濃厚な縁がある神社の鳥居をくぐると、小学生くらいの子供たちが一人の子供を取り囲んでいた。

 取り囲まれている子の顔は今にも泣きそうであったことから、その子がいじめられていることを察するまで、それほど時間はかからなかった。


 「人ん家の境内で……」

 「うちの先祖の前で……」


 苛立ちを覚えた護は、子どもたちのほうへ声を荒げながら向かっていき、足を上げていた。

 するともう一人、目の前でふざけている子どもたちと同い年ぐらいの子どもの声が響いてきた。

 見ると、巫女服を着た一人の少女が足を振り上げている姿があった。

 少女もまた、護と同様、袴であるにも関わらず足を大きく振り上げていた。


 「何してんねや!このあほんだらどもがぁ!!」

 「何してやがんだ、この悪ガキどもがぁっ!!」


 二人の怒号とともに、どげしっ、という大きな音が響いた。

 それから数拍遅れて、蹴られた子どもたちの大泣きする声が響いた。

 だが、ここにいる鬼二人は泣いた子どもに容赦はしなかった。


 「自分らがなにしとんのか、わかっとるんやろな?あぁんっ?!」

 「寄ってたかって大勢で一人いじめるたぁ、いい度胸やんか?自分らがやられることを覚悟のうえでやっとんのやろな?おぉんっ?!」


 なぜか護まで関西弁になりながら少女とともにいじめっ子どもを怒鳴りつけていた。

 二人の威圧感にいじめっ子たちは、鬼が出た、と泣き叫びながら鳥居の外へと出ていった。

 そんな子どもたちにも容赦なく殺気の混じった鋭い視線を送りながら、護は少女とともにいじめられていた子の方へ歩み寄った。


 「自分、大丈夫か?」

 「ったく、神聖な神社で何してくれてんだか……ほれ、立てるか?」

 「……あ、ありがとう、ございます……」


 差し出された護の手を取りながら、いじめられていた子は立ち上がった。

 お礼を言われたことに少し照れくさくなったのか、護はいじめられっ子から視線を外していた。


 「気にすんな。ご先祖の目の前であんな胸糞悪いことされて腹立っただけだから」

 「ご先祖の前て……兄ちゃん、うちの親戚かなんかか?」


 巫女服を着た少女の問いかけに、護は頷いて返した。


 「あぁ、土御門のものだ」

 「土御門ゆうたら、東京の皇族守護役か?なんや、ほならはよ言っゆうてくれたら……」

 「ま、そのあたりはまた今度……」


 そう言いながら、護はいじめられっ子の頭を撫でた。

 どう考えても一般人が目の前にいるのに、自分たちの裏事情をわざわざ教えてやる必要はない、ということを暗に伝えたかったようだ。

 その意図を察したのか、少女もうなずいて返した。


 「まぁ、えぇわ。というか、兄ちゃんのお連れさん、呆然としとるけど、大丈夫なんか?」

 「大丈夫じゃないな……てか、そろそろ晴明様にあいさつしたいんだけど、いいか?」

 「あぁ、かまへんかまへん……わかっとる思うけど、お清めは忘れたらあきまへんえ?」


 少女に指摘され、ようやく月美たちと合流した護は、奥にあるもう一つの鳥居をくぐり、五芒星が描かれた石板でふたがされている井戸の隣にある手水舎でお清めをしてから本殿を参拝した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る