第134話 舞台と古都の街並み、そして仏像に圧倒される
奈良から京都のホステルに戻り、夕食と入浴を済ませた翌日。
この日の夜に東京へ戻る予定であるため、護たちは荷物をまとめ、チェックアウトを済ませてから、まず京都駅へとむかった。
駅にあるコインロッカーにスーツケースを預け、まず最初の目的地である清水寺へ向かうバスの停留所へむかった。
「清水寺と言えば、あれだよな?舞台」
「飛び下りの?」
「……あれ、下には木があるから案外死なないらしいぞ」
清水寺にまつわる有名な話をしたり、清水寺付近にある産寧坂にある古都の街並みが残る通りのことを話しながらバスを待った。
十分とせずにやってきたバスに乗り込み、清水寺へと向かった。
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清水寺に到着した一行は、拝観料を支払い、清水寺の中を散策した。
寺に身を置く僧が修行のために使うという、ろうそく以外の明かりがまったくない、真っ暗な空間を通り抜けると、おそらく誰もが一度は見たことがあるであろう、清水の舞台が視界に飛び込んできた。
夏の時期ということもあり、舞台の下には青々とした葉を茂らせた木が何本もあり、普段ならば見ることのない姿にほんの少し、感動を覚えていた。
「いやぁ、まさに絶景だな……」
「ほんと。山に登らないとこんな風景、見れないかも」
「今は夏だから一面緑だが、秋になると紅葉で赤いじゅうたんが出来るらしい」
「秋の京都かぁ……」
「ま、それは大学生とか修学旅行の特権だな」
季節が季節であれば、紅葉の京都を楽しむこともできたが、あいにくと今は夏真っ盛り。
眼下に広がっている色は緑ばかりだった。
もっとも、秋に京都を訪れることが出来るのは大学生か修学旅行の生徒、でなければツアー客ぐらいなものだろう。
「けど、京都の水で冷やされた冷奴を食べることができるのは、この時期だけだな」
「食い気かよ……否定はしないが」
なお、清水寺の境内には季節限定メニューとして冷奴を扱う食堂があるらしい。
事前に清がリサーチしていたようだが、昼時ではないため、即座に却下された。
却下されたことに対して、少しばかり不満そうな表情を浮かべる清だったが、そうなることは織り込み済みであったらしく、その表情は長続きしなかった。
その後、舞台を降りた五人は、境内を少しばかり散策してから産寧坂のほうへと向かっていった。
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産寧坂に到着すると、目の前にはまるで時代劇の世界に迷い込んだかのような雰囲気の街並みが広がっていた。
「う~ん、これぞまさに京都の風景……」
「ビバ京都」
「いや、なぜそこでそれ……」
「あははは……」
「でも、テレビで見る京都の風景っていえばこれだよねぇ」
まさに日本の古都と言われて連想する風景に、五人は口々にそんな感想を漏らしながら散策を始めた。
が、夏とはいえかなりの数の観光客が訪れているようで、少しばかり道が混雑していた。
とはいえ、本当に少しばかりであり、気になるかと聞かれればそうでもない、と答える程度のものだったが。
「いまは清水寺の方とか御山のほうに人が流れてるからこの程度で済んでるのかもな」
「御山?」
「比叡山とか高野山のこと。まぁ、比叡山のほうが多いのかな?精進料理とか出してるみたいだし」
突然、護の口から出てきた言葉に首をかしげる明美に、佳代が解説を加えた。
なお、今回の旅程にはそのどちらも加わっていない。
理由は単純で、距離があるため移動と体験で一日を費やしてしまうためだ。
決して、女人禁制であることが理由ではない。
「機会があれば行ってみたいね」
「……だな。色々といい経験が出来そうだ」
何気なく出てきた月美の言葉に、護は遠い目をしながら返した。
なぜそんな態度をとっているのか、不思議に思い、首をかしげる月美だったが、おそらくいまは答えてくれないだろう、と判断してそれ以上は追及しなかった。
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その後、京都の街並みを楽しみながら散策していた護たちだったが、その独特の街並みを楽しめる産寧坂と二寧坂を抜けて、京都美術館へと向かい、三十三間堂に到着した。
三十三間堂は千手観音像で有名なのだが、もう一つ、年始のころに行われる「楊枝加持」と江戸時代に行なわれていた通し矢にちなんだ「大的大会」という弓道の大会が行われることでも知られている。
特に、大的大会は京都の冬の風物詩として地元で愛されている。
だが、今回、護たちが歩いているのはお堂の中であり、目的は三十三間堂に鎮座する千手観音像である。
順路で通った際に展示されている資料に目は通したが、その程度の興味しかない。
ほかにも免震構造についてや毎年行われる行事についての掲示もあったが流し読みする程度で、熟読はしていない。
そんな風に歩いているうちに、目的である千手観音像がある本堂にたどり着いた。
「……うわぁ……」
「……なぜだろうな、俺、悪いこと何もしてないはずなのにすっげぇ怖いって思ってる」
「あははは……」
「笑うしかないよね、これは……」
目の前に広がっているのは、千体はあるのではないかと疑ってしまうほどの数が並んでいる千手観音像だった。
その千本の手であらゆる魂を余すことなく救う、と言われている観音様ではあるが、護たちはどうやら、かなりの数が並ぶことで生まれる圧倒的な気配に威圧されてしまったようだ。
いわゆる、雰囲気に呑まれる、という状態だ。
だが、呑まれているのは護と月美、そして一時的とはいえ呪詛で鬼となっていた佳代と、薄いながらもかつては安倍家と並び陰陽寮の権力を独占した一族、賀茂家の血を引く清だけで、一般人である明美は仏像が放つ威圧感よりも、その荘厳さに驚いていたようだった。
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