第57話 不快感とさらなる襲撃
「木気招来!」
「火気招来!」
「「急々如律令!!」」
光と護が同時に用意していた呪符を引き抜いて臨戦態勢に入り、すでに交戦してい月美と職員たちと合流し、戦闘に突入する。
二人が同時に呪符を投げ、呪符に込められた霊気を解放すると、木の根が呪符から伸び、その根に炎が燃え移った。
一瞬で炎の蛇と化した木の根は、その牙を男たちと犬型特殊生物にむけた瞬間、護の声が再び響く。
「ノウマク、サラバ、タタギャテイビャク、サラバ、ボッケイビャク、サラバタ、タラタ、センダ、マカロシャダ……」
護の声に応じるかのように、蛇はその身体を大きく膨らませていき、まるで大蛇のような姿になった。
だが、大蛇は自分の背後にいる護や月美、あるいは光たち調査局の人間に目を向けることなく、まっすぐに男たちと特殊生物に向かっていき、呑みこんだ。
「……ウンタラタ、カンマン!」
真言が終わると同時に、蛇は消え去り、その場に残ったのは蛇が飲みこんだものの残骸と思われる、黒い塊だけとなる。
その光景に、月美と蛇を呼び出した張本人である護以外、そして一度、術比べをしたことがある光以外の全員が唖然としていた。
「か、
「さ、祭壇もなしにあれほどの炎を?!」
「隊長もすごいが……なんなんだ、あの少年は?!」
自分たちも、一応はそれなりの鍛錬を積んできたつもりだし、実戦経験も積んできた。
それこそ幾度となく術比べをし、自分の未熟さを教え、教えられ、研鑽を積んできたし、今でもそれは継続している。
なのに目の前にいるこの少年は、ここにいる調査局の職員全員が同時に行ったとしてもできるかどうかわからないことをやってのけた。
それも、自分たちの隊長と対して変わらない年齢でありながら、調査局には属していない民間人の少年が、だ。
いくら術者の名門の出身とはいえ、ここまでのことが果たしてできるのだろうか。
そう考えた瞬間、職員たちの脳裏によぎった言葉は。
「……化け物……」
その一言だった。
「……なっ?! おい、ばか!!」
運悪く、脳裏に浮かんだその単語が口に出てしまったようだが、光は職員に鋭い視線と怒気を向ける。
口に出してしまった瞬間、その言葉は言霊となり、自身を、そして相手を縛りつけてしまう。
いまここで、護が化け物であるという認識に縛られることは、自分たちにとって得策ではないことくらい、光にもわかっていた。
いや、そもそも光の脳裏には、護が化け物であるという認識はない。
光は、護が土御門であるということだけでなく、今もなおその名を轟かせる陰陽師、安倍晴明の直系であることを知っている。
名門の人間には、周囲の期待と同時に、相応の責任が常について回るものだ。
――それは私も同じだ。倉橋や土御門ほどではないが、名門の出だから、研鑽を積んできた。だが……
ただでさえ荒々しくなりやすい火気に木気が加わったことで烈火となった。
コントロールが難しくなったというのに、自分たちだけでなく、この部屋にあるものを一切傷つけることなく、男と特殊生物だけを焼き払ったのだ。
――あれだけの炎をコントロールできるだけの力量を得るために、どれほどの鍛錬を積んだのか……私にも想像もつかない
だからこそ、護を化け物であるという認識をしたくはないし、してほしくはない。
気に入らないのは確かだが、そこだけは譲るつもりはなかった。
だが、時すでに遅かったようだ。
「……俺が化け物どうか、そんな小さいことがいま重要か?」
護の方から、不快感たっぷりの声が聞こえてきた。
見れば、護の顔は感情というものが一切読み取れない状態だ。
だが、瞳だけは憎悪や怒りではなく、これでもかというほどの不快感がたたえられている。
「もっと重要なのは他にあるだろが。それとも何か? いつ牙を剝くともわからない化け物と共同戦線を張るのは怖いってか?」
「なっ?!」
まるで図星を指されたかのような職員たちの反応に、護はおもおもしくため息をついた。
「その程度ってことか、調査局の一般職員ってのは。これなら賀茂のお嬢のほうがまだましだ」
「な……い、言わせておけば!!」
「君がどれほどの実力者かはしらないが、あまり調子に乗るな!」
「井の中の蛙だということを思い知らせてやる!」
「やめないか!!」
いまにも飛び掛かっていきそうな職員たちを、光が鋭い声を上げて止めた。
「……土御門。挑発するような物言いはやめてくれ。それから、みんなも。土御門の挑発にやすやすと乗るな!」
「で、ですが!!」
「いいから!……土御門一族を敵に回すつもりか?!」
光のその一言に、職員たちは口を噤んだ。
日本に根を下ろしている術者の一族の中でも、古い血脈にあたり、かつ数多くの伝承を残した陰陽師である安倍晴明の末裔を敵に回すことがどれほど危険であるか。
――それは、彼らも十分わかっているはずだ……いや、わかっているかどうか、今回は話が違うか
素性もよくわからない上に、自分たちよりもはるかに高い実力を持っている術者を近くに置いておくほど、彼らはおめでたくはない。
それくらいのことは、光もわかるが、あえて行動を共にすることを選んだ。
それは、自分たちだけでは護に太刀打ちできないことをわかっているから、というだけではない。
できることなら、いまここで無用な戦いをすることを避けたいという想いがあったためだ。
――そのためにも、部下の失礼な態度を謝罪して、こちらから協力を……
そう考え、口を開こうとした瞬間。
「護!」
月美の突然の叫び声に、全員が月美の向いている方向へ視線を向けた。
その先には、十人以上の人間が控えている。
だが、彼らの目は、先ほどまで戦っていた狼男たちと同じ目をしていた。
「……そうこうしているうちに襲撃か!」
「無駄話が過ぎたようね!!」
突然の襲撃ではあったものの、護と光は冷静だったが次の瞬間、二人の顔に、いやその部屋にいた全員が驚愕する事態が発生した。
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