清澄階物語 白水編

南 夕星 (みなみ ゆうせい)

第1話 再会

春の陽気がしている。

桜が舞い、ピカピカのランドセルを背負った小学生達が楽しそうに登校する。

まさに春、という感じだ。


春は新しい環境のスタートの季節になることが多い。

私もこの春から社会人となり、新しい環境に少しでもはやく馴染もうとしている最中だ。



そしてこの春、幼馴染との再会が決まった。



その幼馴染というのが、少なくとも私の記憶の中ではいい別れをしなかった、気になる相手。

久しぶりの再会に胸が踊る。


きっかけは、SNSだった。


就活を機に、会社から詮索されるという話もあったので、しばらく避けていたSNSだが、新しい職場が決まるなり、職場に馴染む方法として役立つツールとなった。


同期とは、メールアドレスやSNSのIDの交換をする。

先輩上司に対しては、名前が登録されてないか検索して、見つかれば友達申請をし、翌日以降はそこから話題を切り出す。

今度一緒にどこか行こうか、なんてことにも繋がったりして、話題作りにも最適だ。



なんともこの世の中は便利、おおっぴらになったものである。

昔はメールアドレスの交換も勇気がいるものだったし、探り探りに趣味を聞き出してなんとか話題を作り上げるのが常だった。


かく言う私も、このSNSの機能にはそういった理由で助けられているので、大いに活用している。


ところが、この機能にはいやらしさがある。

’メールアドレスはお互い知っているので連絡を取ろうと思えば取れるが、

もう何年も会っていないのでいきなり連絡を取ろうにも切り出しにくい友達’

に「元気そうだね!そのうち会おうよ!」などと、最近アップロードされた記事へコメントをつけるだけで、’たまたま記事を見て、たまたま声をかけただけ’という風を装って声をかけたり、誘い出せたりするのである。



これを、最近まさに、使われたのである。





「就職したんだね!俺はまだ学生だけど、就活の話とかいろいろ近状聞きたいな(笑)」


そんななんとも差し障りないような内容で

7年ぶりに連絡を寄こしてきたのが、相楽という男だ。


相楽は、私立の医学科に通う大学生で、幼馴染だ。

学校でもほとんど活動を共にし、友達たちからは「両思い」とからかわれながらも中学時代を共に過ごした仲だ。

高校から進路が異なり疎遠になり、連絡も取り合わなくなっていた。


「久しぶり!そう、K庁に就職したの。相楽はお医者さんになるんだから、就活の話なんかいらないでしょ。でも、近状報告はしたいね!」


返信してから、アップロードされている相楽の写真を眺める、顔はのせていないようだ。


当時の相楽は私よりまだ背が小さかった。

声変わりもまだで、体つきも子どもだった。


サッカーの日焼けで茶色くなった肌と髪、子犬のような目と、ハーフ風の顔立ちをした眼鏡のよく似合う男子。笑ったときに見えるえくぼと目の皺が可愛らしいのに、たまに眼鏡を外した時は、ちょっと大人っぽくてドキドキしたものだ。


そんな相楽がどう成長したのか、純粋に興味があった。


それに、相楽と私の間には忘れられない思い出が多くあった。心残りのまま終わってしまった話題もあるし、一緒に過ごした思い出も語り合いたい。

そのためか、切り出された誘いを断る気は全くなかった。



昔あった、たくさんの思い出。

それにしても、その思い出で成り立った、私達の気まずい関係が、SNSによってこうも簡単に打破されてしまうとは。

そして、その気まずい関係を断ち切れなかったことが、まさかあんな結果に繋がってしまうとは、思いもしなかった。



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