第16話 閑話休題 優しさとは

私には悩みがあるのだろう。

その悩みが何であるのかは分からない。

悩みがあるということだけは気付かされた。

目の前に、あの湖があるからだ。


この湖は、憂いている者だけを呼び寄せる。

その憂いを、養分としているらしい。


さくさくと、草木を踏みしめながら湖の周りを、ゆっくりと歩く。

月明かり星空の下、静かな水音と、草木が風になびく音しかここにはない。

明かりはないが、足元に困らないのは湖の水が僅かに光をたたえているからだ。

水打ち際だけ、ガラスの破片でも混ざっているかのように煌めいている。


少し歩いたところで、腰掛ける。

さて、私は何に悩んでいるのだろうか。




昔、これは席替えの後、相楽が私に関わらなくなってからの話。

学校への通学は、親に送り迎えをしてもらっていた。

私の学校は通学区で決められた学校ではなかったため、家から学校までの距離が遠くても自力で通えれば問題ない学校だった。

卒業して知ったが、本当に、とても優秀な子たちが遠くから通っていたものだ。


車の中から通学路を眺めていると、マザコン男の家が道沿いにはあって、彼が歩いている様子を見かけることがあった。

これから学校で会うのに、見かけると嬉しくなった。

すれ違う際に車から手を振ると、彼は嬉しそうに手を振り返す。

それだけのやり取りなのに、とても幸せな気分になった。

誰かから好かれる、ということは、幸せなことだった。相楽と接することが少なくなっても、この気持ちがあるおかげで、寂しさは感じなかった。


車から降りて、玄関に向かうところから私の生徒会長としての一日が始まる。


この学校は全国でも有数の教育校で、月に何回か全国の先生方が私達生徒を研究対象として見に来るような変わった環境の学校だった。

そのためか、ここに通わせようとする親達の意識も高く、子どもたちもそれに肖って意識が高い。

頭のいい子は人気者になり、運動ができることが理想とされ、生徒会に入って学校を統率し、全校の前に立つことは憧れとされていた。


そんな中で私は生徒会長をしていて、運動も良くできて、壮行会にも選手として出ていたし、張り出される成績も2位か3位に名前があったので、全校生徒に知名度があったから、学校内では学年を問わず話しかけられることが多かった。

自分が勉強の得意な体質であることは自覚していたし、運動は相楽に自慢したくて意識してできるようにしていたから、目立ちたいとかいい高校に行きたいという考えがなかった私でも、先生たちには一目おかれ、友人たちから期待され、後輩たちからは尊敬される自分でいることができていた。



教室に入れば、普段から仲がいい友達に囲まれ、朝はとても賑やかだ。

自分を中心にそういう環境ができることを誇らしく思っていた。


毎朝、ホールで隣のクラスと合同で朝礼をし、歌を歌う。

朝礼は床に座って行うので皆それぞれに好きなスペースへ散らばるのだが、私の周りは決まって仲のいいメンバーで固められていた。


先生の話を上の空で聞きながら、目線を生徒たちに向けると、何人かと目が合う。

女子、男子で様々だが、たいてい女子からは嫉妬の眼差しを受けているが、男子からは好意の眼差しも受ける。


私は容姿こそ平凡だったが、目立っていたし愛嬌もあったせいか自分が異性の興味を集めることは自覚していた。

小学校から今まで、両手では数えられないほどの男子からアプローチを受けたから、私に好意を寄せていると思われる男子を見つけても特別に何か感情は生まれなかったし、嬉しさも無かった、当たり前というか、そういうものだと考えていた。



相楽の眼差し。

相楽は私の顔、おそらく目を見ている。

私が何を見ているか知りたいのだろう。

目が合うと悲しげな顔をして目をそらす。

いかにも、俺は傷ついています、と言わんばかり。声をかけて欲しいのだろう。どうしたの、なんて。そんな様子にいつも女々しさを感じる。思っていることは言って欲しい。思いやって欲しいなんて思っている女子みたいな男は面倒くさい。



マザコン男の眼差し。

体全体を舐め回すように見る。

下心も隠さないような奴だから、いやらしいことでも考えているのだろう。

目が合うと、口元を隠して照れ笑いする。私もつられて笑ってしまう。

相楽と違って素直な所が良かった。けれど、マザコン男は他の子にも同じ事をする。主に西澤ちゃん。

それが、苦しいところでもある。

マザコン男は身長こそ高かったが、容姿はド近眼の丸眼鏡で細身。漫画の主人公のような分かりやすい男性的像を期待している自分にとって好みと言えるような相手ではないが、自分の独占欲が他の女子に興味を向けることを許さず、なんとなく気にしてしまう。


IT君の眼差し。

私の方をぼーっと見つめている。

目が合うと大きな瞳を見開いて、とても優しくゆっくりと微笑む。彼は不思議君だが、名家のご子息で情報通。会話すると知れることが多いし彼の世界観は魅力的でかつ人当たりがいいのでつい優しくしてしまう。



バスケ男の眼差し。

横目でチラチラと私の方を見る。

目があったことはない。

合わないように、気配を感じたらそらしているのだろう。合わない方がいいことを彼は知っている。

バスケ男は「分かっている女子」にはモテた。兄貴肌でスポーツ万能、猿顔ではあるが高身長で意思の強そうな横顔は好青年そのもの。精神年齢も高く、学校で唯一、私と同じ「子ども演じている子ども」。そんな仲間意識からかかなり信頼していた。



そして、本間君の眼差し。

本間君は副生徒会長だ。

学校一のイケメンで、水泳部のキャプテン。一人で全国大会に出ているほどで、中学生とは思えないしっかりとした体をしていた。日焼けした肌と茶色い大きな目、塩素で焼けた茶色い髪にモデルのような背の高さ、清潔なみなりに背伸びした大人のような制汗剤。恐らく、だいたいの女子は彼に恋をしていた。

そんな彼も、バスケ男と一緒で私の方をチラチラ見るが、目があったときは堂々と会釈する。私が、所謂完璧なイケメンのことを苦手と思うようになったのは彼の印象がつよいからだろう。



そんな今日も、床に体育座りをしていると、制汗剤とプールの匂いを纏ったあたたかい腕が私の腕に密着した。隣に本間君が腰掛けてきたのだ。

恋人のような距離感で横に腰掛ける彼だが、彼は他の女子に対しても同じような態度をとるのだ、と思う。見たことはない。


「おはよ。」


私が声をかけると、泣きぼくろをかきながら、なんてこともないように答える。


「あ、おはようごさいます。」


「今日も距離近いね。」


「そうっすか?」



本間君は私にはいつも敬語を使う。理由は、敬っているかららしい。

本間君の匂いと体温を間近に感じながら朝礼を聞く。

半袖から覗く鍛えられた腕とキレイにきりそろえられた大きい爪と節くれだった長い指を横目に、先生の話に適度に反応しながら、今日の生徒会の予定を話す。


「明日の集会のリハ、昼にやるっすよね?」


「ん。で、放課後楽器運びとセッティングね。明日はダンスクラブの発表があるから、位置取りしないと。」


「じゃあ、ドラムとひな壇、ピアノを動かさないとっすね。俺、リハ前に職員室で先生たちに声かけとくっす。」


「じゃあ、お願いしていい?」


ピッタリ横にくっついていても、話す内容は至って健全。

本間君からはいやらしい感じが全くしなかった。どこか鈍感というか、抜けているというか。

それを知ってか、マザコン男も相楽も彼に嫉妬心は無いようで、女子たちもそのようだった。



朝礼が終わり、教室に戻る。

席につくと隣の席のマザコン男が机をコンコンと叩いた。こいつは私を名前で滅多に呼ばない。気を引きたいときは肩を指でつついたり、音をならしたりする。


「なに?」


「今日のことなんすけど。」


しかも、マザコン男は私と話すのが照れるのか、だいたい目線が合わない。


「将棋盤持ってきたんで、また教えましょうか。」


マザコン男は将棋の有段者だった。

修学旅行で教頭と将棋をして、私が負けた局面からマザコン男が見事に勝利まで持っていったことから関心し、放課後にマザコン男から将棋を教えてもらうのが日課になっていた。


「じゃあ、おねがいしよっかなー。」


「マザコン男、ほんと白石のこと好きだよなー。」


前の席のバスケ男がちゃちゃをいれる。


「いいんだよ!」


マザコン男は照れながら反論する。

かわいいやり取りについ微笑んでしまう。

この空間がとても好きだった。


お昼時間は給食を自席に運び、机を合わせて班を作る。

六人で一班、机を6つ合わせて食べる。

食事中、マザコン男は向かい合わせになった私の方まで足を伸ばしてきて、私の足に足を絡めてくる。


先生に知られるのが怖い私は照れというよりも恐怖心のほうが強かいながらも、悪い気もしなくて身を委る。

平然と昼食を取る私達二人の机の下で、こんなことになっていることを、何人が気づいているのだろう。



昼食を終えて、昼休み。

私は生徒会室に行く準備をして、独り廊下に出ると、本間君が見計らったように追いかけてくる。

タイミングを合わせているのか、いつも教室を一緒に出て廊下を歩くことになる。


そんなことをしているので、後輩からは本間君と付き合っていると勘違いされることが多い。

そしてそれが生徒会人気を呼んでいるらしい。

後輩たちに生徒会は人気で、後輩枠委員を希望する生徒も多い。

引き継ぎが楽になるし、お手伝いも多いと助かるので私もそんな後輩たちを重宝していたし、評判がいいのは悪い気がしなかったので噂については否定しなかった。


廊下を歩いていると、後輩に声をかけられる。


「白石先輩!生徒会ですか?」


「そうだよー。」


「お疲れ様です!本間先輩も、お疲れ様です!」


「ありがとねー。」


「あの、お二人って付き合ってるんですか?」


目をキラキラさせている後輩。


「仲良いだろ?」


そう言うと、本間君は私の腰を引き寄せる。

鍛えられてはいるが体格のいい私よりは細い体の体温が一気に伝わる。


「きゃー!!!応援してます!生徒会、頑張ってください!」


後輩は興奮気味に去っていく。


「本間君、あのねえ。」


「分かってる、分かってる。でも、白石さん誰とも付き合ってないんだし、別にいいでしょ。」


ちょっと威張った、誇らしげな感じでこちらを見る。

別にいいってなんだろう。付き合ってもいいのか、そういう噂にしてもいいっていうことなのか。


「良くはないわよ・・。」


本間君は、たまにこういったことをする。でも、他の子にも同じことをしているのだろう、手慣れすぎている。

そして私はそんな彼をどうしても好きになれなかった。理由は、彼の体が私の男性像から離れているからか、誰にでもよく接するところを私の独占欲が許さないからか。


「そんなちゃらんぽらんな感じでいいの?イケメンが勿体無い。」


ため息混じりに言うと、本間君は私の肩を人差し指でちょん、と触って私の目線を引くと真面目な顔をして見つめてくる。


「もったいない?」


彼は、続くことばにどんなことを期待しているのだろう、そんなことを考える。


「私と噂になってるから可愛い女の子と付き合えないんだよ」


可愛い女の子とは、彼が好きだと公言している先輩のことだ。小さくて白くて、丸くて華奢で、ピアノがうまくて、清楚で愛嬌のある先輩は生徒会の先輩で、私も慕っていた。


「あの人とは、はそりゃあ付き合いたいですよ、でも、違うタイプもいいんです。」


違うタイプとは。

わざわざ問いはしない。


「その違うタイプにもったいないって言ってるの。」


「白石さんは、どんなタイプなんですか」


予想に反して私のことを聞いてきたので驚いてしまう。


「えっ」



「白石さんがそういうタイプなら、じゃあ俺と付き合う?」


端正な顔立ちのイケメンが、そんなことを言うのに、胸が高鳴ならいはずがないが、彼は女性が喜ぶことを心得てやっている。そしてなぜ急に高慢になる。ここで下手に出られたらそれこそかわいくてときめいてしまうが、根拠もなく威勢のいい奴は嫌いだ。こういうところが、本間くんが私にとってその他大勢止まりでいる理由だ。


「なんでそうなる。」


「冗談。」


泣きぼくろを歪ませて、本間君が微笑む。

そんな本間君に、少しだけときめいてしまった自分もいるが、他の女子にもそうしていると思うと、いつものように「冷めて終わる」。



生徒会室に入ると窓に暗幕が貼られていた。これから、明日の全校行事のリハーサルが始まる。


私は行事中、裏方に回るのでリハの様子を端の方で座って問題点を書き出したり、司会進行を考えていた。

照明が落とされ、スポットライトに切り替わると、隣に本間君がやってくる。


床に手をついて足を投げ出して座る私のすぐ横、伸ばした足と足がピタッとくっつくように座ってくる。

おまけに手のひらを私の手の上に乗せている。

手を握られているわけではないが、男子の手の体温に緊張する。


「ち、近いな!手、のってるし!」


動揺して小さく声を出す。


「スポットライトの照射範囲が狭いっすね。これじゃダンスサークル全員に光が当たらないよ。」


体をゆらしてさらにこちらへつめよってくる。わたしの耳元で話す彼にキスされそうで緊張してしまう。これではまるで恋人の内緒話だ。

そんな私を無視して真剣な表情の本間君。


「本間君、ちょっと、聞いてる?」


「なんだよ!」


急に怒り出すのを見て、私は距離を置こうと正座した。


「距離近いし、変な誤解作るようなこと、しないでほしいんだけど。私、目立つしさ。」


本間君は一転してニコニコしている。

対女子モードにスイッチを切り替えたか。


「でも、ドキドキしてますよね?」


暗闇の中、見下したような本間くんの顔が迫る。勝ち誇ったような、自身があるような、そんな表情。自分が格好いいのを理解してやっている。

誰かに見られているかもしれないという不安感とこの状況に心臓が高鳴るが、残念。私はあなたのようなタイプは嫌いだ。


「しません。他の子にもやってるんだから。」


近づく顔を避けながら小声で言う。

ちょっと否定くらいしてくれてもいのではないかと期待していると、ダンスサークルのBGMが鳴り始めると、本間君は私を手招きした。

私は耳を近づける。


「バカだなあ。他の子に暗闇で近づこうなんてしないよ。」


いつもより低い声で耳元でそう囁くと、私の耳たぶに水っぽい音を立ててキスをした。

私は我慢できずに顔を両手で覆って伏せ、いてもいられず外に出る。

学生史上、不覚にも最も胸が高鳴った瞬間だった。

初めて、同い年の男子から男性を感じた。首から上がゾクゾクして、体が熱くなった。


落ち着きを取り戻して、本間君の目の前で取り乱した行動をしてしまった羞恥と遂に屈してしまったという悔しさを抱えながら生徒会室に戻ると、リハは終わっていた。

昼休みも終わるので、片付けを手伝って打ち合わせを済ませて、教室に戻る。

本間君はすでに着席していて、いつも通りの様子だ。

彼のなんともない様子を見て、自分だけドキドキしてしまったことが悔しい。


「なんかぼーっとしてますね。」


マザコン男が話しかけてくる。


「うん・・。」


言い出そうかどうか悩む。


「その、元気が無さそうなのを見ると、気になるというか。」


マザコン男はホント私のことが好きなのだろう。分かりやすくて、可愛らしい。


「ちゅってされた。耳に。」


「は!?」


取り乱すマザコン男。体を前のめりにして近づいてくる。

言葉に反応したのか、バスケ男も振り返った。


「ちょ、ちょっとまって、誰に何されたって!?」


「・・・本間君。」


本人の耳に届かないように、控えめに話す。


「へえー、さすが、モテんな、お前。」


バスケ男は心底感心している。


「何、好きとか言われたの?」


「ううん、耳打ちで話ししてたら、されただけ。」


マザコン男が興奮している。


「本間君は流石だなあ〜だれにでもできるんだからさ。」


バスケ男の言葉に胸がチクチクした。

やっぱり、誰にでもやっているのか。


「そういえば、西澤も、手かなんかにキスされたって言ってたなあ。」


マザコン男が思い出したように言う。また西澤ちゃんか。

私の胸の痛みには、いつも西澤ちゃんが関係する。可愛い子だから、こういった話には欠かせないのだろうか。

その話を聞いてか、私の胸の高鳴りは一気に冷め、嫌悪感すら感じていた。

本当に誰にでも、そういう事やるんだね、本間君。




放課後、明日の朝の行事のため楽器を運ぶ。照明のセッティングや、体育館内の掃除もしなければならない。

顧問の先生と打ち合わせをし、体育館へ向かっていると、楽器を運ぶ本間君に遭遇した。


「反対側持とうか?」


重そうなので声をかける。まあ彼の筋肉を持ってすれば、こんなもの楽勝なのだろうが。


「いえ、大丈夫です!」


断られたので、横について一緒に歩く。特にお互いから話すこともなくただ歩く。私は完全に冷めていたので、本間君に優しくする気も、気を使うつもりも無かった。そうするに値しないと、自分の中では決めていた。

というか、誰にでもああいったことをする彼に対して私が勝手に怒っていた。


「もうすぐ卒業ですね。」


本間君が楽器を持ち直しながら言う。


「そうだね。」


「また、生徒会とかやるんスか。」


本間君は私が皆と違う学校に進学することを知らない。

が、そこは秘密にしているので口を噤んだ。


「やりたくなったらね。でも、生徒会長になれるか分かんないし。」


「はは、また生徒会長ですか。図書委員長とかでもいいんじゃないですか。」


「気に入らない人が生徒会長だったら従うの嫌でしょ。だから、やるなら生徒会長なの。」


「なるほど。」


すれ違う後輩たちにあいさつをする。キラキラした目で私達を見るが、私達にはそんな理想的な関係は無いよと言いたい。


「俺、白石さんの、そういうトコ好きっす。」


本間君の方を見ると、こちらを見ていた目と一瞬目が合う。

けれども、私は冷静だった。


「そういうさあ、誰にでも好き好き言うの、やめたほうがいいよ。彼女になる子、辛いだろうし。」


「はは、こわっ。」


本間君はそう言うと、足早に体育館へ入って行った。


誰にでも優しいのは罪だ。

全ての人に好かれて生きて行くことはできない。

優しさは時に無責任になる。


優しさは、悲しみの先にある。

悲しさを知っている数ほど、誰かに優しくできる。


それからも、本間君の距離の近い様子は変わりなかったし、後輩にないコトを言いふらすのも変わりなかった。


しかし彼は、高校生になっても浮ついた話は出なかったようだった。

告白されることは多かっただろうが、付き合うことはしなかったらしい。

今思うと、彼も当時の私のように、付き合うということまで踏み出せなかっただけだったのかもしれない。

その領域に触れたくなくて、皆に優しくすることで特別な感情を抱くことを避けていたのかもしれない。

そう考えると、世の中寂しくないなと思った。

成人前なのに馬鹿みたいに考えて責任を感じる人間は自分一人ではない、と思える。彼も、そんな人間の一人だったのだろうか。今は、特定の一人を愛しているだろうか。



気づくと、私は眠っていたようで、寝台で目を覚ました。

あたりを見回しても何ら変わりないただの部屋。

湖から脱したのは、憂いが晴れたからなのだろうか、それとも。



私は起き上がり、部屋を出た。

すると、相楽もちょうど沐浴へ向かうところだったようで、目があった。


「おはよ。」


「おっす。」


嫉妬心に駆られて私の耳元で嫌味を言った彼。

習い事まで同じにしようと追いかけてきた彼。

バスケ男のように、打ち解けあえる相手ではないし、マザコン男のように可愛くこともできない。IT君のように不思議な子で括ることもできないし本間くんのように異性を感じさせるわけでもない。

そんな相楽と、どうやっていけというのだろうか。








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