第14話 閑話休題 ゲーム会 side白石
これは、相楽との仲が良かった頃の話。
放課後の件が起きる前。
相楽と意気投合してから、私の交友関係はさらに広がった。
男子とは小さい頃から打ち解けるタイプだったから、もともと友達は多かったが、相楽が普段つるんでいる、ちょっとおとなしいタイプの男子とはあまり面識がなかった。
だから、相楽と仲が良くなってから、相楽の友達とも仲良くなり、交友の輪がさらに広がった。
その友達と、休み時間はゲームの話を良くしていた。
もともと私はゲームが好きで、ゲーム機同士で通信すると得られるレアなアイテムや、大人数でやるパーティーゲームにも興味があったから、ゲーム好きの友達と話ができて楽しかった。
ゲームが流行りだしたのとそんなことも相まって私の友達と、その男子達はゲームの話で盛り上がり、いつしか、誰かの家でゲーム会をすることになった。もちろん、相楽も一緒だ。
賛同してくれる親が少なかったためメンバーも少なめ。
女の子みたいな可愛い男子、マル君と色白で面白い芸人君、そして短気と恐れられる相楽。
男子はみんな小さめだ。
女子は、私と、私の親友だけだった。
家は、マルくんの家になった。
学校から近く、家も大きくて綺麗、ゲームソフトもコントローラーも豊富、というのが決め手だ。
学校で、そのメンバーで固まって、ゲーム会の計画を立てるのが楽しかった。
ゲームだけじゃつまらないから、外に出て何かしよう、とやたら言いたがる相楽。
一方で私の親友はインドアなので、外に行きたくない、と主張する。
相楽の魂胆は読めていて、外に出ればなにかしら楽しいことが見つかるからなんて言いがかりで、私と連れ立って二人きりになろうという考えだろう。
それが兎に角分かりやすくって、俺に賛同しろ、というようなムリヤリな主張が可愛いらしかった。
マル君と芸人君は、相楽の魂胆が読めるからこそ、邪魔してやろう、と思っているようで、相楽の主張をことごとく断っていた。
そんなやりとりが、とても楽しかった。
学校以外で友達、特に異性と会うのは特別な感じがした。
普段は皆同じ制服だからかわりばえしないが、私服となると楽しい。
私はまだ女らしさとか可愛さに気を使うなんて概念は無かったから、動きやすい服装で、カッコイイもの、が定番だった。
当時の私のカッコイイものは、ブランド物のジャージの一揃い。
今考えると恥ずかしいが、当時の私には一張羅だった。安いから、親もよく買ってくれて、同じブランドの違うジャージを着まわしていた。
冬の上着や夏のタオルなんかもスポーツブランドで、相楽はそういうところをよく見ていて、いつのまにかお揃いになっていることが多かったから、今回も合わせてくるんだろうなという期待と、そこまで容認していいのだろうかという気持ちもあった。
ゲーム会当日もちろん、ジャージだった。初下しの、3本線が目立つ、黒いジャージ。
親友は、ジーパンにパーカ。でもチュニックを着て、やはりどこか女の子らしい。
女子二人で待ち合わせしてチャイムをならすと、マル君の兄弟がでてきた。男子三人は家に隠れてるから、探してほしいとの事だった。
いい年してかくれんぼかよ!
二人で突っ込みながら、一緒に探すことにした。私たちが来る前からどこに隠れようかと悩んでいる3人を想像すると可笑しかった。
すると、マル君の兄弟から言われた。
「あ、二人バラバラで探してって。」
広い家だから、分担した方がいいとは思ったが、頭によぎったのは、相楽だ。
なにか悪巧みをしているに違いない。
学校でも、こんなことがあった。
テストを返却されたとき、ムリヤリ紙を奪われた。さんざん追いかけさせられ、疲れたところで取っ組み合いをさせられた。相楽は私によく触れたがったから、取っ組み合いを理由に、触りたかったのだと思う。そんな理由でもないと、触れないから。
取っ組み合いの挙句、なぜか、そのまま床に押し倒された。
相楽は謎の腕立て力で、私ごと床にプレスすることは避けたが、顔が近い体制になった。
相楽もそこまで予期していたわけではなかったらしく、見ていた女子達がキャーキャー言ってるのに驚いて、すぐ体を起こした。
そんな事件になったこともあったが兎に角相楽は私に触れようと日々なにか企んでいた。
私もそれが見え見えだったから回避したり、便乗してみたりして、相楽のコロコロ変わる機嫌を楽しんでいた。
今回もそんなところだろう。
おそらく、どこかに隠れていて、そのまま組み敷かれたりするのだろう。
嫌ではなかったし、その先のことなんて考えもしなかったから、相楽の企みに便乗しようか、回避してやろうか考えながら、家中を探索した。
マル君の家は酒屋さんで、蔵を持っているような豪邸だ。2階までの居室と、離れの客間。そして、蔵。
どこから探そうか。
相楽は最後として、先に二人を探した。
マルくんは、きっと蔵だろう。
芸人君を、とりあえず探した。
すると、親友が2階の風呂場で見つけた。
風呂釜の中でうずくまり、蓋まで被っていたらしい。女子二人に中学生がここまで本気になるなんてと思いながらそのままマル君を探した。
親友はマル君が好きだったから、蔵にいるよ、とアドバイスして、探しに行かせた。
さて、相楽だ。
きっと、客間の押入れか、
マル君の部屋のベッドあたりだろう。
押入れだったら、入り口を開ければ中が見えるから、引っ張り込まれて組み敷かれることも無いだろう。そうだとしても、回避できる。
客間を探したが相楽は見当たらない。
ということは・・・・・。
少し、緊張した。マル君の部屋をあけると、暗いながらも、整理された部屋で、不自然に膨らんでいる布団が見えた。
「相楽〜布団にいるならでてきなさーい。」
布団に近づかないように、声をかける。
あのふとんの膨らみは、ぜったいにいる。
「さーがーらー」
声をかけながら、近くにあった棒で布団を突く。
出てこない。
しょうがない、と思って、
ベッドに腰掛けないようにしながら、布団をまくった。
毛布が出てきた。
まだ出てこない。
このやろう、と思って思いっきりまくってやろうとしたその時、後ろから押された。
不安定な体制だったから、思いっきり顔から布団にダイブする。
感心した。どこに隠れていたのか・・・。
そんな考えもつかの間。
相楽はわたしに馬乗りになっていた。
「ちょ・・・っどいて・・・・」
「スキがありすぎですよ、白石さーん。」
相楽はおどけながら、わたしの額をつつく。
「うーー、布団にいると思って避けてたのにい!相楽、馬鹿だなあって!」
この状態に耐えきれず、顔を真っ赤にして強がってみる。
相楽の体温をお腹のあたりで感じる。
相楽の匂いがする。
すると相楽の顔が、迫って来た。
うそ!?まさか!?
とおもって目をぎゅっとつぶると、相楽が耳に息を吹きかけていった。
「ばーか。」
私は更に真っ赤になっていただろう。
暗くてよかった。
マル君達が上がってきたようで、音がした。
相楽は立ち上がり、先に出ていく。
「おーい、白石、マルの布団で寝てるぞー」
「ちょっと!!」
明るいところに出て相楽を見ると、勝ち誇ったような、嬉しそうな顔をしていた。
口元に指を当てて、秘密な、と口パクした。
ドキドキしたけど、嬉しかった。
ゲーム会は、このとおり、相楽の魂胆にまんまと載せられてスタートした。
パーティーゲームではゲームは4人までだったので、女子二人が交代でコントローラーを握った。相楽は私の隣に腰掛け、勝ったりすると、肘で私をつついた。
私はリアクションとして、最初は表情で応えていたが、あまりにも相楽のボディタッチが多いのと、先程の件もあったからか、感覚が麻痺してきて、私もボディタッチをしていた。
ゲームが、勝ち残り式になった。
私と相楽は勝ち残り、チームでほか二人を負かそう、という状況になっていた。
勝つ度に相楽が腕を回してくる。
といっても、がっちり組まれるのではなくって、トン、と肩を叩くくらい。
私は自分より小さい相楽に腕が組めるのかなんて馬鹿にしていたことがあったから、こうして隣に座って腕を回されることに正直驚いた。
相楽はとても楽しそうだった。
俺たちいいコンビだからな、なんて言って、ゲームを勝ち進んでいった。
時間はあっという間で、
親たちが迎えに来た。
相楽は芸人君の車で帰るらしく、相楽の親御さんの顔を見ることはできなかった。
私は疲れたんだか寂しいんだか、複雑な気持ちで意気消沈していたが、とても楽しい1日だったし、男の子こんなに触れ合うことなんてなかったので、ちょっと大人の階段を登ってしまったような、不思議な日だった。
そして、相楽といると楽しい、と心から思った日だった。
しばらくして、このゲーム会の話は広まった。男子たちは加わりたがり、女子たちは男子目当てで加わりたがった。
私は、先生達がいい顔をしないことが予想できたので、ほとぼりが覚めるまで、ゲーム会を催さなかった。
その後、放課後の件が起こり、相楽と疎遠になって、席替えがされてしばらくたった。
バスケ男とマザコン男が私の生活圏に入ってから、学校生活ではほとんど一緒にいた。
バスケ男とは仲が良かったし、マザコン男はいちおう私に気があるということだったので、私含めて三人と、私の親友でつるんでいた。
マザコン男も、女子に触りたいという欲求があるのか、私に触れることが多かった。
相楽は強がりなかんじで、何かと文句をつけたりしながらだったが、マザコン男は素直で、髪に急に触れてきたかと思えば、
「ごめんなさい、触りたかったんです。」
と手を合わせて頭を下げてくる。
それを見て、バスケ男と周りが、茶化す。
それが定番になっていた。
私もそんなマザコン男が嫌いじゃなかったから、嫌がらなかった。
これが、クラス中に付き合ってると誤解される所以で、相楽を苦しめて彼を不登校まで追い込むことになったのだが。
とはいえ、西澤ちゃんなのか私なのかハッキリしない相楽と、素直になんでも言ってくるマザコン男。
男、として見るなら私の中で軍配は圧倒的にマザコン男だった。
声変わりもしていて、相楽よりも男らしい、といったら相楽に失礼だが、男性を感じさせるようなものが、マザコン男にはあった。もちろん、バスケ男にも。
そんな状況だったから、相楽がちょっかいを出してこなくなっても、寂しさのようなものはなかった。
たまに、西澤ちゃんと相楽が話をしているを見かけることはあっても、何も思わなくなっていた。
ある日、マザコン男がゲーム会をしよう、と投げかけてきた。
私は、少人数だと聞こえが悪いと思って、人数が多ければ良いとした。
すると、バスケ男も加わって、女ジャイアン新波さん、モデル体型古森さんを女性陣に加えて、あと数人、男子を増やすことにした。
バスケ男が男子陣を手配することになり、芸人君と、教授的な出で立ちで秀才の教授君、体が大きくて嫌煙されがちな外山君の名が上がった。
この選択に対してバスケ男に感心した。
普段は特定のグループに入りにくいメンバーを、ゲーム会に呼んで、仲を作ろうとしたのだ。幸い、教授くんも外山君もゲームが好きで、外山くんの家は医師だったこともあって家も広いのだ。
感心して、バスケ男を褒めた。
もちろんこの采配に気付いたのは私だけで、そのことに気付いたことについて、バスケ男は私を褒めた。
ゲーム会の計画を立てるため、休み時間はそのメンバーで集まることが多くなった。
珍しいメンツに、クラス中が注目した。
どうやら、ゲーム会をするらしいよ、という話と、モデル体型古森さんがバスケ男とくっつきたいから、っていうことらしいよ、という噂になった。
古森さんはクラス一の美人だったから、話題がそちらへ向かって安心した。
それに、女ジャイアン新波さんがいたから、それを悪く言ったり、加わりたい、という人もなかった。
相楽にも、この話は聞こえたようだった。
ゲーム会前日、帰りの支度をしていると、相楽が後ろを通った。
「楽しんで」
そう、ぼそっとつぶやいて、去っていく。
相楽なりに、悔しさがあるのだろうと思った。今回の面子では相楽が加わるのは無理だったし、私が相楽を避けてから相楽と私は喧嘩したということになっており、私たち二人を含んでの交友関係は無くなっていた。相楽にとっては、楽しみを全て取り上げられた、というところのはずだ。
今回のゲーム会では、相楽のようなことも起こらないだろう、と安心して行った。
相変わらず、ジャージで。
古森さん、新波さん、親友は、それなりにオシャレをしていた。
男性陣、バスケ男は夕方からバスケの練習ということでジャージ。
教授君と芸人君はおしゃれをしていて、外山、マザコン男はジャージにパーカだった。
バスケ男が仕切っているおかげで、ゲーム会は皆それぞれが楽しんでいるようだった。
教授君は、以前から私と会話をしたかったらしく、隣に座るなりよく話した。
バスケ男はそこまで知っていて、彼を呼んだのだろう。
外山君はとてもゲームがうまくて、誰よりも勝っていた。
古森さんや新波さんとも打ち解けて、すっかり仲良くなっている。そんななごやかな雰囲気が、とても心地よかった。全体を優先して物事を進めるバスケ男は以前にも増して敬意の念が芽生える。こういう男性と、一緒になったら・・・なんてことも考えてしまう。
ずっとおとなしかったマザコン男に動きがあったのは、外が暗くなってからだった。
芸人君と外山くんと連れ立ったきり、帰ってこない。不審に思って私は外山君の部屋まで呼びに行った。
「おーい、そろそろ順番だよー」
部屋を開けると、男子三人が囲んで、グラビアアイドルの雑誌を見ていた。
「君たち、そういうのはみんなが帰ったからやろうね・・・」
私は少し気になって、紙面を覗いてみる。グラビア誌かと思っていた誌面は全裸の女性が映された、ヌード写真集だった。
「こらこら!!」
私は笑いながら雑誌を閉じようとした。
それを、芸人君に止められる。
「ああ、白石、良い所に!マザコン男さ、こういうタイプが好きなんだってさ」
と、誌面の女性を指差す。
直視できなかったが、そこには黒髪ロングの気が強そうなタイプの女性がポーズを決めていた。
「ちょっと!」
マザコン男は慌てて誌面を閉じる。
外山君と芸人君は何を察したか部屋を出ていく。
「置いてかれたし・・」
二人の後を追おうと立ち上がると、戸棚にフィギュアがあるのが目に入った。
「うわー◯◯のフィギュアだー」
アニメのキャラクターの、それもまた全裸だが、だいぶ凹凸がデフォルメされたフィギュアがあった。私も好きなキャラクターだったので、手に取ろうとすると、後ろから手が伸びてきて、そのまま抱きすくめられた。
「!!!」
瞬間、ああ、相楽は身長が届かないから、いつも組みしく形になるのか、座っていれば腕も回せるのかなんて思考がよぎった。
マザコン男の腕は、私の首をすっぽりおおって、顎を私の頭の上にのせた。
「ちょっ・・・・離して」
「相楽・・・。」
マザコン男がつぶやいた。私は固まる。
「相楽とも、こういうこと、した?」
「し、してない!」
「芸人君が、ふたりが抱き合ってたの見たって。」
「抱き合ってない!事故です!」
芸人君、以前のゲーム大会の件を見ていたのか?いや、相楽が言ったのかも・・・だとしたら、相楽、他の人にも言いふらしてる!?
「前も言ったけど俺、白石さんのこと、好きなんです。」
マザコン男の力が強くなる。
ちょっと首が締まって苦しい。
「し、知ってる」
腕を緩めようと、腕を掴むが、ガッチリ抵抗してくる。解けない???相楽ならすぐ振りほどけるのに。
「相楽のこと、どう思ってるんですか。俺より、好きなんですか。」
うわあ・・・まさか今日ここでそんなことを聞かれるとは。
「相楽は、他に好きな人いるし、ただ、仲いいだけ!マザコン男の方が、好きだよ!」
プロレス技をかけられながら、ギブを言う代わりにそんな言葉が出てきた。すると、部屋の扉が開いた。他の皆全員が、私達二人の状況を目撃する。
キャーーーー!!!!
ウワーーーー!!!!
と男女それぞれの悲鳴が聞こえた。
マザコン男は腕を離した。
「みんなに、なんて言おう・・・・」
私がオドオドしていると、マザコン男が紙を渡してきた。
「なに、これ???」
「文通してください」
「え!?」
「教室だと、二人きりで話できないから・・・・」
小さく折りたたまれた紙。
ノートを破った、ぶっきらぼうな物。
でも、相楽みたいに投げつけてきたりしない。言葉付きの、手紙だ。
「あ、ありがとう・・・。」
マザコン男の素直なアプローチと、自分の力が敵わなかった脱力感。この日から、マザコン男は私にとって初恋とも言えるような対象になった。相楽とは、相反して。
相楽はこの件を知らない。
マザコン男が、私と相楽の関係を理解した上で一緒に居たこと、私が相楽を選ばなかったこと。
相楽の知らないところで知らない関係が築かれていること。
相楽は私のことについては過去の一部分のものしか知らないのだ、楽しかったあの時をずっと追いかけている。
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