片隅世界

水星 佑香

開幕


「助けて!!誰か……!!」

女の子の悲鳴だ、なんだ、ここは。

いつの間に、夜になったのだろう。さっきまで、学校にいたのに。


「秀君!!」

聞き覚えのある声だ。クラスで浮いている女子、一度話したことがある。女子にしては少し低めで、凛とした声。気にしていたあの子だ。


「助けて……」

「待って、私を……」


ゴトン、と暗闇で音が響く。

それと同時にその声は聞こえなくなった。


暗闇の中に光が差し込む。

照らし出された、声の主。

「・・・仲山なかやま?」

見間違えるはずがない、そこに倒れていたのは仲山 まひるだった。

仰向けになって口から血を流して、目を見開いて、その目は涙で濡れていた。

ぴくりとも動かない。


お願いだ。夢だと言ってくれ。

彼女に近づく、生きているのか確認したかった。


白い肌、赤茶色の髪、確かに僕の・・・僕の好きだった人だ。


「仲山?……なんか言えよ。からかってんの?」


手首に触れた。さっきまで生きていた筈なのに、既に冷たくなっていた。


「見捨てるつもりはなかったんだ。」

その声は虚しく反響する。

足元の赤色はゆっくりと広がっていた。


________________________


明るい。自分の部屋だ。

「夢……だよな」

夢であったことに安堵した。

仲山 まひるがなぜ夢に現れたのか不思議に思う。会ったとしたら2年前の成人式だったと思う。

あまり昔と変わらなかったが、彼女を見ると自分も変わって、大人になったんだなと思った。


声をかけたが多くは話すこともなく、何もなく終わった。


彼女は今何をしているのだろうか。

まだ、あの時の事を引きずっているとしたら、謝りたかった。でも、自分は弱かった。言い出せなかった。


「まひる。」


ごめんね。

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