第16話 それぞれの出会い
ピリオが洞窟の中へ足を踏み入れた頃、ダンクは何をしていたかというと……枝に絡まっていた。
「うぅ、まさか風が止んで降りれると思ったら木の枝に刺さるなんて……頭空っぽじゃなけりゃ酷い目にあってたから、まだ良いほうか」
ダンクは現在、人型ではなく包帯の姿で枝に絡まれていた。
何とか出ようと抵抗したら更に絡まり、今では枝に絡まった白い布切れ状態になっている。
「さて、どうしようか?
手も足も使えないし、魔術も木から流れる微量な魔力が邪魔して使えないし……ん?」
ぶつぶつと呟きながら対策を考えていると、何かが松明を持って近付いてくるのが見えた。
(人か?
助かった……と言いたいけど、この状態で話しかけても絶対逃げるよなぁ…)
先程『見えた』と表現したがダンクに目はない。
ただ、自身にかけた『視界情報伝達結界』の内側に入ったからダンクの魂内に情報が伝わったのだ。
そして肝心の情報は松明を持って近付いてくる…というよりは何かから一生懸命逃げているようだ。
「何だ?
何から逃げて…?」
ヴォオオオオオオオ!!!
ビリビリと大木が震える程の大声が森に響く。
それが何かが逃げる理由だと気付いたとき、それも悲鳴を上げ、ダンクが引っ掛かる大木の真下を通る。
…白い魔導服を着た女の子だ。
松明ではなく魔術で杖に灯りを点して森の中を走り抜けている。
「キャアアアア!」
そしてその少し後ろを、3メール(こちらの世界では3メートル)の巨大な熊が四つ足で走り抜ける。
「な、何だあのデカ熊!?」
ダンクが思わず叫んだのと大熊が大木に突撃したのは同時だった。 その一撃で大木がへし折られ、大木はあっさり横に倒れる。
その直ぐ前にはへたりと座り込んだ女の子が震えながら熊を見つめていた。
「あ、あわわ…」
熊は少女が逃げる意志を失ったと理解したのか、ゆっくりと歩いていく。
少女は震え思わず呟く。
「だ……誰か、助けて……」
女の子は死を覚悟した…その時。
目の前が白い光に包まれる。
女の子は思わず目を瞑った。
それとほぼ同時に、男性の声が女の子の耳に入る。
「失せな、熊公。
てめえじゃ俺には勝てねえよ」
(え?
今の声は一体…?)
女の子は恐る恐る目を開ける。
そこに熊の姿は無く、代わりに紫色のオーブを着た顔面包帯の男性が立っていた。
…いや、顔だけではなく手足も包帯で覆っている。まるで肌の代わりに包帯を使用しているような奇妙感を感じた。
そして同時に命が助かったという安堵感が自身の体に満ちていく。
「…逃げてくれた、か。
嬢ちゃん、もう大丈夫だ」
「あ……あ、な、た…は?」
「俺か?俺の名はダーーーー」
しかし、そこで安堵に満たされた少女の意識は途切れた。
▼△▼△▼
自然に作られた洞窟内はとても寒く地面もでこぼこして歩きづらい。
この洞窟に入り込んでしまった少年、ピリオは魔法の杖にかけた灯りの魔法の光を頼りに洞窟内を歩いていた。
「…く、暗いなぁ。
灯りの魔法は最大にしてるのに、5メール(こちらの世界では5メートル)先が見えない。
…これはダンクより出口を探した方がいいかな?」
ピリオは辺りを見渡すが、洞窟内は幾つもの道が入り組んでおり自分が何処から侵入したのか全く分からない。
「…あ、あはは…。
これは遭難、しちゃったかな?」
「そうなんですよ」
不意に、後ろから男性の声が聞こえてくる。
ピリオは驚きの余り転んでしまった。
「うわ!?
だ、だだだ誰!?」
「ほぅ…我が障気が支配する暗黒の世界に土足で侵入しながら、尚俺に立ち向かえる奴が居たとはな、感心したぞ」
ピリオは急いで地面に落ちた杖を拾い、灯りの魔術をかけ直す。
そして声のする方へ光を向ける。
そこには全身を包帯で巻き付けた不気味な男性が立っていた。
何故かかっこよく無さそうなへんなポーズを取っている。
「!」
「いいだろう愚民よ!本来なら一瞬で『
我が名は…」
「ダンクでしょ!」
「ムムっ?」
男性が名乗ろうとした瞬間、ピリオが叫び男性が固まる。
しかしピリオは暗闇の中で一人歩き続けた事の寂しさから、思わず包帯姿の男性に抱き締めてしまう。
「ムグッ!?」
「よかった、ダンクが見つかって本っっっ当に良かった!
もうこのまま何も出来なかったらどうしようかと思ってたんだ!」
「だ、ダンク?
…残念だが我は」
「いやー本当良かった!
こんな暗い場所に一人きりなんて辛いだけだもん!
出会う事ができて本当に良かった!」
「……そうですよね、こんな場所、辛いだけですよね……」
「?
どうしたの?」
「……気にするな。
だが安心しろ若者よ!
絶対完全無敵なる我が居る限り、貴様の命は証明されるだろう!」
「おー!」
ピリオと包帯男、二人はしばらく暗い洞窟内で楽しそうに話しあっていた。
その頃のダンクは、熊の毛皮を着た男性達に槍を向けられていた。
ダンクは両手を上げながら叫ぶ。
「何だ何だ!?
お前達何で俺に槍を向けるんだよ?
早くその子を助けなきゃ!」
男達の足元には、気を失った白魔導師服の少女が倒れている。
だが誰も少女を助けようとしない。
カンテラに照らされた男達の顔は皆髭を生やしていたが、その顔は憎悪で満ちていた。
男達はすぐ近くにいるのに大声で叫ぶ。
「黙れ余所者め!
よくもそこのイケメンを助けたな!」
「そうだ、良くもイケメンを助けたなコノヤロー!」
「イケメンを助けるなバカヤロー!」
「……イケメン?
この子、女の子みたいな男なのか?」
「違う!生け贄のメンバー、略してイケメンだ!
今時はぐろおばるな名前にしないと若者ついてこれねえからな!」
「女っぽい顔した男なんて今時いねえべ!」
「……」
ダンクは一瞬、自分と共に旅する少年を思いだし、とりあえず忘れる事にした。
「そうだな、普通居るわけないよな…」
「なんで自分に言い聞かせるような台詞だべ?」
「ま、それは置いてよ。
お前達は何者だ?何故彼女を生け贄呼ばわりする?」
「あひゃひゃ、てめえみたいな余所者に教える理由は無いわ!
そのツラ良く見せろ!」
男達はケタケタ笑いながらカンテラをダンクに向ける。
包帯で出来た顔が灯りで照される。
そしてそれを見た男達は震えた声て呟く。
「……なんてこった」
「ま、まさかこんな所で会えるなんて」
「お、おでれーた、おでれーた」
大の男達が感心した表情でダンクの顔を見つめてくる。
ダンクは機嫌の悪い声で怒鳴り返した。
「な、何だじろじろみて。
包帯で出来た顔がそんなに珍しいのか?」
ダンクが睨み返すと、急に男達は土下座し始めた。
「な!?」
「こ、これはとんだ失礼をしました…!許して下さい、
スーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王様!!」
「申し訳ありませんでした!
スーパーハイパーマスターウルトラアームストロングネオパーフェクト暗黒大魔王様!! 」
「…は?」
いきなり出てきた変な名前に凍りつくダンク。
だがダンクはまだ知らなかった。
この長かったらしい名前の正体が、
現在ピリオが出会った男の名前で有る事を。
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