第14話 おかわりの予感


ピリオとダンクが離れた後のレストラン、『シーハー』店内に先程の少女が戻ってくる。

それを見た店長はニヤリと笑みを浮かべた。


(どうやらダンクは少年を選んだようだな。

気持ちが沈んでいる今ならば、彼女をウェイターとして雇える…よし)

「お嬢さん、少し話大丈夫かな?」

「……何?」


少女は沈んだ声で店長に顔を向ける。

すっかり意気消沈した少女の顔を見て、店長は内心ほくそ笑んだ。


「先程は素晴らしい大食いでした。しかしチケットを忘れてはいけません」

「…チケット?」

「あれは予選です。

互いに半刻以内に2メールのケーキを平らげた為、予選通過しました」

「…そう」


少女の声は上の空で、ほとんど耳に入ってない様子だった。店長の予想通りの反応だ。


「さて、さしでがましい事ではありますがもしや彼は貴方の知り合いで?」

「…ええ」

「そうですか…これは私の見立てですが、彼は必ずこの店に帰ります。その時までここで働きながら待つというのはどうでしょう?」

「……」


反応が帰って来ない。

その沈黙を迷いから来るモノだと判断した店長は畳み掛けようと声をかける。


「もしここで働けば素晴らしい服(ウェイター服)が着れ」

「遅くなってすまんの、メリー」


不意に第三者の声が割って入る。

二人が見ると、そこには見たこともない服を着た女性が立っていた。


「地獄から抜け出すのに時間がかかった、許せ」

「…大丈夫です、マスター」

「ま、マスター?」


店長は目を丸くして女性をまじまじと見つめる。


(え?この子、ダンクの別れた奥さんの一人娘じゃないの?

私の妄想が間違えていたのか?)


女性も店長に気付き、声をかける。


「む、なんじゃ?

『キモノ』がそんなに珍しいか?

まぁこの国ではそんなに見かけるモノではないか。

ま、いい。

メリー、状況を伝えよ」

「はい、マスター。

現在ダンクはピリオとの主従関係を切りました、これでダンクの魂はいつでも貴方のモノです」

「うむ、よい。

だがダンクの魂を勝手にとろうとするな…あれは悪魔から見ても異質だ」

「…はい」


二人の間で不思議なやり取りがかわされている。店長には何がなんだか分からないが、一つだけ分かる。


「貴方、まさか魔族?」

「 …む、いたのか貴様?

まあいい、私は確かに魔族だ。

それもかなり上位のな」

「ひ!?」


店長は震え上がり、魔族は笑みを浮かべる。


「先程はようも我が傀儡を籠絡しようとしたのう」

「ヒィィ!」


店長はガタガタ震え上がり、その振動でカツラが頭から落ちる。

魔族は尚も店長に近付くが、それを止めたのはメリーだった。


「お待ち下さい。

ダンクはどうやらこの店に戻るようです。

騒ぎを起こすのは…」

「…ふん、下衆め。

生き延びたようだな」


魔族は店長から離れる。

店長は心臓の音が聞こえる事に感謝しながら、その場を去る。

そして魔族は笑みを浮かべる。


「ふふふ、次は私が奴の魂を頂きに行くぞ。

ついて参れ、メリー」

「はい、マスター・ウシロノ様」


恭しく頭を下げる人形を見て、

魔族ウシロノは笑みを浮かべた。

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