第8話 娼婦

営業時間は午後6時から開始。部屋数は六部屋で常時6人の娼婦が待機していた。関田さんいわく、この時代に娼婦なんて呼ぶのは古い人間ひとと教えてくれた。今の時代はソープ嬢と世間的に言われている。本来ならトルコ風呂も古い言語だった。この生業なりわいは鏡さんの店を含めて、トルコ風呂は6店舗存在していた。他の風俗店系を合わせると20店舗はくだらない。もちろんトルコ風呂としてはウチが一番の売上だった。



従業員は午後4時には出勤して準備を始める。部屋の下準備に掃除などの雑用であった。下っ端の僕は主に雑用やソープ嬢を部屋に案内する仕事だった。合間に客を呼び寄せて店へ連れ込む。いわゆる呼び込みと言われる大事な役割もあった。関田さんは簡潔に仕事の流れを説明すると、僕に店の制服を支給してくれた。


「サイズはMで大丈夫だろう。部屋を出て右側にお前らのロッカーが有るから使いな」


関田さんに言われたとおり、僕は部屋を出ると右手へ向かって歩いた。廊下は薄暗く奥の蛍光灯が瞬きみたいに点滅していた。天井を見上げると蛍光灯の数は少なく、本来二本取り付けるはずの蛍光灯は一本しか付けていなかった。これでは薄暗いのも当たり前だろう。少し辛気臭い廊下を歩き、僕は右手の扉が外された部屋を見つけた。本当なら扉が付いてたと思われる一番上の枠から、紫色のレースが部屋の入り口を隠していた。何も気にせず、自分の部屋みたいに紫色のレースを捲り上げる


飲食店ののれんを捲り上げた時、店の主人はこんな風に言うだろう。『いらっしゃいませ』。それは店を選んだ人間が想像していた光景。紫色のレースは真ん中で切れ目が入っており、僕はレースを透き通るように部屋へと一歩踏み出した。


「あら!?どなたかしら?僕ちゃん、部屋を間違っていない」


のれんを上げた客に、店の主人はお決まりの言葉を言うわけじゃない。そこが関田さんの指定した部屋じゃないことは一目で分かった。僕は確実に間違ってしまったのだろう。目の前にシースルーの上着を着た女性が化粧台の前に座っていた。僕の新しい生活は刺激ある幕開けで始まるのだった。

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