第2話 鏡さんとの出会い
タイムカードを差し込む姿が魅力的な女性は居るだろうか?きっと僕が知る限りでは、彼女しか知らない。商売柄、この職場では圧倒的に女性の方が多かった。僕がこの職場で働き始めたのは、19歳になったばかりの冬の季節だった。
中学を卒業してから、バイトばかりの日々に明け暮れていた。無理を言って、暮らしていた家を飛び出した。六畳一間の風呂無しアパートで生活を始めたのは16歳。その頃の僕は、生きるのに必死だったと思う。世間知らずの少年が世の中へ飛び込むということは、こんなにも大変なんだと思い知らされた。
大体が16歳の少年に世間の目は冷たかった。就職なんて出来るはずもなかったし、僕は半年ぐらいで人生の挫折を頭から叩き込まれた。それでも僕は、僕の暮らしを守ろうと必死に働いた。寝る間も惜しんで、とにかくがむしゃらに仕事をした。この頃、大人としての自覚さえ芽生えていた。早熟だったに違いない。同い年の奴らより、僕は世間の厳しさと辛さを経験したからだ。
棲家を出てから三年が過ぎた頃、夕刊を配り終わり、僕は伊勢佐木町の商店街で一服をしていた。タバコ屋の前に設置された灰皿からシケモクを拾って吸う。一人暮らしを始めた一年目に覚えた煙草ーーもちろん煙草を買うのも勿体無かったので、こんな風に他人が吸ったシケモクを吸うしかなかった。
「おい、ボウズ!!」
短いシケモクを吸っていると、オールバックの男が声をかけてきた。黒いスーツに金のネックレス。頬には目尻から口元まで有刺鉄線みたいな傷跡がついていた。瞳の奥には、三日月みたいな鋭い威圧感が漂っている。僕は瞬間的に、一般人と違う人間だと思った。要するに向こう側を得意とする人間だ。
「なんですか?」と声を返すが、その声に恐れと震えが混ざっていた。
19歳にもなれば、向こう側の人間なんだと気づいていた。下手に関われば、きっと後悔するだろう。だけど不思議と、その男からはそこまでの気持ちにはならなかった。何故なら、僕はこの男と出会うことで人生を変えてしまうのだから。そして長い付き合いにもなるのだった。男の名前は、
僕の人生でメリーさんを知るまで、彼のことは名前意外、それ以上のことを知ることはなかった。
そして僕がこの仕事を始めるきっかけとなった、鏡さんとの出会いでもあった。
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