オリジン・サード

noina17

――ルクゥル=エアヴェイル――

第1章――マナ・レテジア――

1話 ―遅刻―

「やばい」


ルクゥル=エアヴェイルは全力で街中を駆けながらも、ついその心の内が口に出てしまう。


田舎のトーリオの村を出てほぼ1日、途中の町で一泊してここレテジアの首都であるレテジアに着いたのが1時間前。

この時点ではかなり時間には余裕があった。


だが、レテジアに着いてまず街の大きさに圧倒されてしまった。

途中に通った町もトーリオに比べれば大きかったが、国一番の街レテジアはルクゥルの想像を遥かにこえていたのだ。


街並み、行き交う人々、数多く並ぶ店、そのすべてを自らの故郷と比べてしまう。

そんな感じで、見るものの1つ1つに目を奪われていたら、1時間などあっという間に過ぎてしまった。


「入学初日に遅刻とか……やばい!」


ルクゥルは今日、人がマナの扱いを学ぶ学園――マナ・レテジア――のレテジア本校に入学する。


入学式では選定の儀と呼ばれる入学する者のマナの適性に応じたランク分けが行われる。

これは今後の学園生活、ひいては人生を大きく左右するものだ。


レテジアは学園で集めた学生の中からマナの扱いに長けた優秀な者を卒業後、軍人として迎え入れるためだ。


田舎を出るとき、剣の修行をしてくれていた師匠――じーちゃん――に


「お前には素質も実力も十分にある」


と言われていた。

じーちゃんは元軍人であり、そんなじーちゃんからのお墨付きはルクゥルの中で大きな自信となっていた。


だが、遅刻して選定の儀を行えなかったら全ては台無しである。

最悪、入学できないんじゃないだろうか、なんてことまで頭によぎる。


そんな事を考えている間に学園の大きな門が見えてくる。

[入学おめでとう]と書かれた垂れ幕。

そして、その大きな門の後ろに広がる光景にルクゥルはしばし絶句してしまう。


あまりの敷地の広さに、1つ1つの校舎の大きさに、どこまでも続きそうな整備された道に、ルクゥルは頭を抱えたくなる。


「これ、広すぎるだろ。直接入学式のある会場に行けば間に合うかもとか、甘かった……」


学園に来た生徒はまず所定の場所に集まり、時間になると入学式の会場に案内される。


そう聞いていたために、ルクゥルはまだ入学式に間に合うかもしれないと淡い期待を抱いていた、が


「とりあえず……どこに向かばっ!?」


途方に暮れていたルクゥルの目に飛び込んできたのは


「これは、花びら?」


淡いピンクの花弁が一片……いや、門の影に隠れて見えなかったが無数の花弁がある一点を中心にまるで、生き物のように舞っていた。

そしてその一点に佇む少女もルクゥルは捉える。


花びらと同じ淡いピンクの髪……


ルクゥルは先ほどまでの焦りを忘れて目の前の幻想的な光景――少女――にしばし見とれてしまう。


「あの…」

「へっ?!」


突然少女に話し掛けられてついすっとんきょうな声を出してしまう。


「新入生の…方ですよね?」

「えっ? はっ、はい。そうです」

「こんなところにいて…いいんですか?」

「 あぁあっ! やばい!!」

「入学式なら…この道の先の…赤い校舎です」


少女が枝分かれした道の1つを指差す。


「あっ、ありがとうございます」


ルクゥルは礼を言うとその道へと駆けていく。

そして、そんな少年から花弁が一片、舞う。

その花弁は地面に落ちることなく少女の手へと収まる。


しばしの沈黙…そして


「最後の1人…大した力は…ないですね。今年は5人…ですか…」


少女は誰にでもなく力なく呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る