第4話 走れメロス

私は、走った



待ち合わせの時間は、過ぎていた…




あの時計台の下に、あの人は居る!



きっと まだ間に合う!





私の彼氏は、時計台に縛り付けられている



私は、彼氏のために、走った




きっと私が遅れたせいで、女王様に、ムチで なぐられたり、ロウソクを、たらされたり、ご褒美… いや、拷問を受けているに違いない!




待ってて!




私を信じて!




もうすぐ あなたのもとにたどり着くから!





私は、走った!



もうすぐ!



もうすぐだから!



…もうすぐ!









あの人は、スーツを着て、一人で時計台の下にいた…





「お待たせ!待たせちゃって、ごめんなさい!」






「…あ、どうも、始めまして」




彼は、仕事帰りらしい。


そして、私の想像と、違って 好青年だった!





「はるなちゃん…ですか?」



「はい、はるな です! どうも、始めまして。よろしくお願い… 」



「ちょ、ちょっと待って下さい!」




彼は急に携帯を取りだした




「…あ、もしもし。はるなちゃんで予約したものですが…、写真と別人なんですが。…えっ! 同じ人!どこがですか!

それと、この人、男でしょ!

…すいません、チェンジで お願いします」





チェ…、チェンジ!!?







その時だった!



お店から、電話がきた!



「もしもし、はるなちゃん? そこのお客さん チェンジだってさ…。うん… それで、急で悪いんだけど、隣の街に、フリーで入った お客さんのこと、待たせてんのよ…。

だから、その お客さんに入って!。すぐに隣街まで走って! …急いで! 走って!!」




走って!





「わ…、分かりました!」





私は、また走り出した







私は、走る!



ヒールは折れ、バッグからローションを落としても…



かつらが ずれ、ヒゲが うっすら伸びてきても…





私は、走る!




今日で、五人目!



チェンジ 五回目!



そして、電車で行く距離を五回 走った。





私は、走った



『走るオカマ』という、都市伝説にされても…



私は、走った




いつも お店から、こう言われる





「急いで!走って!」







…走って!

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