人ならざるもの
「会いたい」
「会いたいよ」
「声聞かせてよ」
「抱きしめてよ」
「名前を呼んでよ」
「そばにいるの?」
「嘘じゃない?」
「会話もできないよ?」
「寄りかかれないよ?」
「会いたい…」
話す、一人。
見る、一匹。
傍にいると、伝えられたら。
共に過ごした日々が嘘ではないと伝えられたら。
…いつか、こうなると分かってた。
声も、姿も、全て見えていた。
けれど幼かった。
大人びていく度に、声も、姿も、薄れていった。
分かっていて、何も言わなかった。
離れていくのが怖かった。
臆病なく話しかけてくれる友をなくすのが怖かった。
ずっと傍に居られたらと思っていた。
姿が見えなくても、傍に、ずっと傍に。
だけどそれは友を無くすより辛かった。
傍にいるのに。
泣きじゃくる頬に触れられない。
拭ってやれない。
抱きしめてやれない。
励ましてやれない。
名前を呼んで安心させてあげられない。
衰弱していく。
ただ眺めていることしか出来ない。
どうか、1度でいい。
『傍にいる』
ただそれだけで構わない。
どうか、どうか届いておくれ。
どうか…
泣きじゃくる、顔に埋める両手に手を触れさせる。
『泣かないでくれ』
どうか…
泣き叫ぶ声を聞いていることしか出来ない。
『そんなに悲しまないでくれよ』
どうか…
嘘なんじゃないかと叫ぶ声が痛い。
『…いつも、傍にいる』
どうか…
『笑っておくれよ』
一匹は泣くことも、叫ぶことも、名前を呼ぶことも
出来なくなるほど、薄れていった。
見えるものがいなければ、生きられない。
見えないものは存在できない。
触れる事さえ、消えるものには許されない。
あたたかさもなくなってしまう。
声でさえ。
足がなくなり、手がなくなり、体がなくなり
声がなくなり、そして顔がなくなり、居なくなる。
分かっていたのに。
申し訳ない。
ただ、友と共に過ごしたいだけだったのだ。
生きたかったのだ。
『消えるその日まで、傍にいる』
傷つけた。
『その日まで、一緒に…』
殺しかけている。
『もし叶うならずっと傍に…』
なんと図々しいことか。
思う隣。
『見えなくともいい』
『覚えてくれていれば』
『…私はお前の中にいるぞ』
柔らかなあたたかい風が吹く。
風に揺られる。
蒼く澄み渡る空が迎えに来た。
「……ぁ」
空を見上げた。
眼があった気がした。
強く柔らかな春風が似ている気がした。
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