超人による異世界生活記

両生金魚

異世界転移は力と共に

 ふと、目が覚めた。辺りからは木の葉の擦れる音や、草が揺れる音、鳥の鳴き声、遠くの獣の鳴き声や、虫達が蠢く音……って、何だ?

 おかしい、うるさいくらいすべての音がはっきりと聞き分けられる。


 ガバっと起きると、辺りは木々が生い茂った森の中。ふと空を見上げると、見たこともない鳥が飛んで行く――って、何だ?鳥の羽の1枚1枚、嘴の先まではっきり見える。


「一体、何がどうなってるんだ!?」

 

 よく見ると、生い茂った木々はどれも見覚えがないし、生えている草もよくよく見ると見たことがないものだ。昆虫も細部が違い……って、おかしい。そんなに細かく観察したことなんて殆ど無いのに、草も、木も、鳥も虫も見てきた事、知ったことが全部事細かに思い出せる。


 頭が混乱するまま、立ち上がり辺りを見渡す。が、見渡しても見えるのは見たこともないような木ばかり。……参ったな、森の奥なのか道も見えない……。少し、木にでも登ってみるか。


 手頃な高い木を見つけて、枝に手をかけて力を入れると、ボキッ!とすごい音と共に枝がへし折れて、その勢いのまま体制を崩す。と言うか危なっ!?


「うおわっ!?」


 思わず声が出て、足を地面に打ち付けて踏ん張ると、これまたすごいスピードが出て今度は下の土がひび割れて体が跳ねた。何だ!?一体どうなったんだ俺の体!?頭が混乱するけど、とりあえず力が強くなったみたい?混乱する思考をすぐに落ち着かせて慎重に木に足を引っ掛けて登ると、するすると。自分の体がまるで無いみたいな軽さで木の上まで辿り着く。


「……本当に、何処だ、ここ……?」


 見渡してみると一面の森、見たこともない木々が生い茂って、知らない香りが当たりから漂う。静かだと思っていた森は、一つ一つ音を拾ってみるととても賑やかだ。

 とりあえず、何処に行くにしても適当は拙いだろうし……集中して辺りを見渡す。と、不自然に一直線に木々が薄いように見える所があった。


「道……かな?」

 

 するする下りて、とりあえず薄そうな方面へ行って見る。すると、幅4m位の、とりあえず木や草が生えてなくてある程度踏み固められた道が見えた。ほんの僅かな残り香は、馬の匂いや人の匂い、金属の匂いなどの痕跡を示してくれた。


「とりあえず……この道に沿って歩いてみるか。」


 持っているものは身につけている学ラン一つ、着の身着のまま何も持たずにこんな所にやって来てしまった。試しにほっぺを抓ってみても痛いだけ、夢じゃ無さそうだし、できる事をやろう。そう思ってとぼとぼと歩き出す。



 歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。――以下同じ。

 ひたすらに、歩く。目に飛び込んでくるのは木と草と鳥と虫と獣、その組み合わせが変わるだけで延々と森が続く。どれだけ長いんだこの道は……。日も傾く位に歩いたけど、全く疲れない。ただ、疲れないだけだから途方もなく暇なのだ。


「何処か休める所で寝るかなあ……」


 そうぼやいていると、ふと音と匂いが近づいてきた。そちらを見やると……熊!?大きさ2m位の熊って、どう対処しろと!?とりあえず、背を見せないようにジリジリと下がるが……そんな対処法をあざ笑うかのようにこっちへ走ってきた!?


「こ、こんな所で人生終わりとかふざけんな!?」


 後ろを向いて、せめて少しでも抵抗しようと足に力を入れた瞬間、ズンッ!と音を立てて足の周辺が陥没した。

「どわっ!?」と思わずすっ転ぶと熊が迫って腕を振り上げてきた。――まずい、殺られる!?


 腕がゆっくりと迫ってくる――熊の表情や殺気、体の動きがはっきり見える……ん?遅い――

 すっと、上半身を後ろに倒すとするりと避けられた。そのまま2回、3回と腕が振るわれるが――遅い。

 手を伸ばして、試しに腕を掴んでみた。あ、毛皮がもふっとしてるな。そんな場違いなことを考えていると、熊が激昂したのか体ごと突進してきた。

 頭にすっと手を伸ばして抑えると、何も出来ずに藻掻いている。


「…………あれ?」


 薄々と気がついてたけど、体のスペックが物凄いことになっているらしい。熊に楽々勝てるくらいに。とりあえず突っかかってくるのが邪魔だから、突き飛ばすと数メートル吹っ飛んで、そのままよろよろと逃げていった。

 ……どうやら、獣に襲われて死ぬ心配は無さそうだ。


 日も暮れてきたし、とりあえず寝よう。適当な木の下に行って横になる。幹は硬いし地面は変な感触だし、随分と寝にくいけど……1日の精神的な疲れもあってか、少しすると寝てしまった。明日は人のいる場所に行けるといいけど……と思いつつ


 次の日。腹はあんまり減らないし、疲れても居ないんだけど、やっぱり心の方は何処か不安がある。

 今日こそは誰かに出会えるといいんだけど……と、またとぼとぼと歩き続ける。


 暫く歩き続けて、ふと耳にがたごとした音、重そうな大量の足音、聞いたことの無い言語や……すすり泣く声が聞こえた。次第に、今まで嗅いだことのない臭い匂いも漂ってきて、いよいよもって嫌な予感がする。

 少し森に紛れて、様子をうかがう。すると、今まで見たこともない、でも人型の生き物が、金属であろう鎧をつけて、槍やら剣やらを持っていた。そして、その後ろには、4足歩行のデカイ生き物、それに引かれている檻、そしてその中には……人の女性。


 ミシッ


 ふと手をかけていた木の幹を見ると、知らずに握り潰していた。

 助けるか?助けられるか?自問自答する。危ないかもしれない、でも、ここで見捨てたら、一生後悔する気がする。そして……不安に思う心とは別に、奇妙な確信があった。あいつらには、決して負けないと。


 心の底、奇妙な感情と共に一歩道へ踏み出す。

 よく分からない連中が、訝しげにこっちを見たが、顔を歪めるとこっちへ向かってきた。脅威にならないとでも思っているのだろうか?


「○○○○○○○○○○○!」


 後ろの檻から、叫び声が聞こえてくる。逃げろって言うのかな?そう考えていると、目の前のやつが、ニタニタ笑いながら武器を振り上げてきた。


「行くぞっ!」


 まずは吹き飛ばすために全力の回し蹴りを叩き込むっ!以前の自分だったらまるで知覚すら出来ないであろう速度で脚を振りぬき――目の前のやつが、両断された。


「……は?」


 思わずやった自分でも呆気にとられた。人よりはるかに頑丈そうな肉体が、上下に両断されるって――いや、俺の体どうなったのホント!?

 って、呆気にとられてる場合じゃない!人質取られる前にぶっ飛ばさないと!自分も含めて皆が呆気にとられてる今がチャンス!


 左前方に見える奴へ踏み込み、今度は多分貫かない程度の力に加減して吹き飛ばす!それでも他のを巻き込んで10mは吹き飛んだか。そのまま踏み込み、右に居た奴を掌底、そして更に檻の側のやつを蹴り飛ばす!


「お前ら、まだやるかっ!」


 言葉は通じないだろうが、威圧にはなるはず。だけど、相手も混乱しているのか、激昂して1体が向かってきた。

 ……ああもう!仕方ない!一罰百戒!

 

 走ってきたところに合わせてカウンターでアッパーを叩き込む。すると、ぐしゃぁと嫌な音を立てて首から上が文字通り吹き飛んだ。血を吹き出しながら倒れる人型を尻目にキッと連中を睨みつけると、怯えた気配とともに残りの奴らが1歩下がった。


「まだやるか!」


 そう叫んで足元を砕くと、そのまま奴らはジリジリと下がって――逃げ出していった。


「はあ、終わったか……。」


 とりあえず、人のほうに被害が出て無いみたいで何より。あ、でかい4足歩行の化け物が怯えてる……。とりあえず近づいて、頭を抑えて伏せをさせる。それから木製の檻をへし折ると……すっごい怯えられた。

 ……うん、凄い怖いよね、これ。血が振りかかってるし……。ま、まあとりあえずロープを取って……って、力づくじゃ拙いって!


 更に怯えられたので、慌てて外に出て倒れてる奴からナイフを拝借。死ねば仏って言うし、一応拝んで軽く弔って……と。

 ナイフはギザギザで、切るってより痛めつける用途に使いそうに見える。まあ刃物なので一応切れるだろう。これを使って……と。


 全員無事に開放し終わると向こうから話しかけてきたけどやっぱり分からない。とりあえず、名前は伝えておこう。自分を指さして。


「龍也。」


 そう一言。表情を見ると、伝わったみたい。金髪の、同じくらいの背の綺麗な子が口を開きかけ――


 ぐうううぅぅぅぅ。


 盛大に腹が鳴った。


「……。」


 なんとも言えない沈黙の後、「ぷっ」と、次々に吹き出して笑っている女性たち。

 ……何だか情けない所を見せたけど、結果オーライ、って奴だろうか……?


 こうして、俺の初の異世界交流は、何とも情けない形で幕を開けたのだ。






 

 

 



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