第16話 荒脛巾神の娘


大浦城の街は、徳山館の街と比べると一目瞭然、断然こっちの方が栄えていた 。


「 では、まずここで馬を手に入れる 。 そこで、旅芸人に化けて城に入る 。 津軽殿とは、そこまで仲が良い訳ではないからな 。 そこで、南部領の通行証をもらう 。 」


1567年 。 つまり今なんだが、津軽為信はこの年、養父の跡を継いで、大浦城の城主になっている 。 家としては、南部家にあたり、ここら一帯を支配している者だ 。


「 李広、その馬はどこで... 」


その時、馬が数頭、侍を乗せて走ってきた 。


「 皆の者っ ! よぉく聞けぇぃっ ! 我らが大浦領に、密偵が入ったとの情報があるっ ! 敵はどうやら蠣崎領から来たようだ ! 見つけた者には、100貫を褒美にとらす ! 」


街の真ん中でそう叫んでから、また別の広場に走って言った 。


「 李広さん、もしかしたら密偵って私達の事なんですかね ? 」


雪乃が李広に声を潜めてきいた 。


俺達がスパイ ? 確かに、今からする事はにたものがあるが、バレるはずがない 。


しばらく、俺達はその場で相談した 。 今思えば迂闊だったかもしれない 。


「 ...おいっ ! そこの者達 ! 見かけぬ顔だな ? 何処から参った ! 」


帰って来た侍に 、声をかけられてしまった 。


「 いえ、拙者たちは... 」


李広が説明しようとした時、


「 お侍さん ! こいつらです ! あっしが船に乗っ取る時に、はっきり南部様の土地を、秘密で通るって ! 」


よく見れば、船で見かけた顔の若い男が、侍に言っている 。


「 貴様らかっ ! 者どもっ ! 捕らえぃっ ! 」


隊長格の男が、声をかけると一斉に襲いかかって来た 。


その時、


「 ...こっち 」


俺は誰かに、路地裏に引っ張られた 。 ケルベロスの紐も持っていたので、ケルベロスも一緒だ 。


「 お侍様っ ! 一人足りないです ! もう一人、若い男が 。 」


くそっ ! 後のみんなは、捕まってしまったらしいな 。 リリヤやカツェが、力を使えば軽く抜け出せるのでは、ないか ?


「 直也よ、リリヤはこう言っている 。 こっちは気にせず、物資調達を頼む 。 僕たちは、城内から為信を探る、と 。 」


なるほど 。 内情把握ね 。 俺、ハブられたな 。


「 ...後の人は、無理だった 。 」


いけない 。 助けてくれた奴に礼すら言ってなかった 。


「 いいんだ 。 それよりありがとうな 。 」


俺は相手が、子供だからか、親しげに口をきいてしまった 。


「 ...お礼なんていい 。 お前には手伝ってもらうことがある 。 」


そう言って、俺の左手をグイグイ引っ張って行く 。 こいつ ! 子供のくせに強い !


当然、ケルベロスも首を引っ張られる形で、ついてくる 。


そして、一軒の古家についた 。


ケルベロスは、へたり込んでいる 。 首絞められたらこうなるわな 。


「 ...ここ、私の仮の家 。 私も、京行く 。 」


なんでこいつ、俺達が京に行くこと知ってるんだ ?


「 ...私、荒脛巾神アラハバキの娘 。 天照大御神に、お父さんの代わりにお仕えしている 。 天照様、外界の連中に捕まった 。 一緒に助ける仲間、探す為に国帰る途中、お前に会った 。 お前なら天照様、助けれるかもしれない 。 」


天照 ? あの天照か ?

アラハバキ...東北の神話で見たきもするが... 。忘れてしまった 。


「 天照を助ける為に、京に行くんだな ? でも、俺は仲間と合流しないといけないし、馬や物資も調達しないといけないんだ 。 」


アラハバキの娘だけだと、呼びにくいな 。


「 それと、アラハバキの娘だけだと呼びにくい 。 他に名前ないのか ? 」


すると女の子は、


「 バキ 。 馬必要ない 。 私なら雲のれる 。 時間に限りあるけど、みんなのれるよ 。 」


雲乗れるとか、チートですか ? 日本の神様、恐ろしや 。


「 お前、雲乗れるのか ? 」


この時、ようやくケルベロスは、落ち着きを取り戻した 。


「 乗れる 。早くしないと、天照様、連れて行かれる 。 」


...俺って、モテたいとは思ったし、今でも思ってるけど、過去に来てからは、女の子に尻にひかれっぱなしだな... 。


とりあえず、この子を連れて行くとしたら、馬は大丈夫だな 。 でも、帝と関係あるのかな ?一応、天照は皇室の祖先って位置付けだが 。


「 天照ってのは、帝に関係あるのか ? 」


バキはすぐに


「 ある 。 帝は禁内にいる 。 もちろんそこに、天照様もいた 。 今は連れて行かれたし、帝も一緒だ 。 」


それなら、連れっていった方が得だな 。 めんどくさい事に、巻き込まれ始めた俺は、得意の下衆さで、意味なければどこかで巻こう、と心の底で思っていた 。


役に立ちそうだし、目的地同じだから、良いけどな 。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る