猟犬《ハウンド》

猟犬たちの夜

――ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。


 その日、バラハキアの夜は熱帯夜だった。

 体中にまとわりつく様な熱気と湿気は、この国の夏特有の物なんだけど、それでも今日は特別蒸し暑い。


 立っているだけで意識がはっきりとしなくなり、空気が薄くなった様にすら感じる。起きている筈なのに夢の中に居るかのような、そんな夜だった。

 ぬるま湯の底に沈んでしまったような街の、ビルとビルの間の闇の中から、僕の耳に水音が響いてきた。


――ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。


 水音の先は、真夏だと言うのにロングコートにフードを被った人間が居た。地面に屈んで、まるで祈るような体制で、それに頭を突っ込んでいる。


――ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。


 水音の正体は、真っ赤で粘つく血液。おぞましい程の血液がアスファルトの地面に広がり、鼻を突く鉄の匂いがここまで広がってくる。


――ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。


 頭を突っ込まれているそれが、ぴくぴくと動く。

 それは、人間の形をしていた。だけど、中身が空っぽだった。

 中身は全部、屈んだ人間の口の中に移動している。うわ……こっちは逆に吐きたくなってきた。


「真夏の夜の食人鬼……か、全く、笑えないね」


 声をかける。物凄くロクでも無い物を目の当たりにした事と、真夏の夜の不快感が僕の声に影を刺す。


「殺人、死体損壊、あとこれ……死体遺棄も入るのかな? まぁ僕も法律には詳しくないけど現行犯って事だけは確かだし、関係無いね」


 コートが死体の腸から顔を上げ、こちらに視線を向ける。真っ赤になった口元が見えたけど、目深にかぶったフードからはそれ以上の表情も特徴も見えない。

 粘つく血液がその細い顎のラインをなぞって滴り落ちた。


「さて、じゃあ始めようか? 君が巷を騒がせている連続殺人犯だよね? まぁ、違ったとしても犯罪者であるのは変わらないし、乗りかかった船って言葉もある」


 警察に恩を売っておきたい、という汚い本音は隠しておく。一期一会の犯罪者にくらいかっこつけても罰は当たらないだろう。


「…………?」


 フードの何者か首を傾げる。こっちの言葉を理解しているのかいないのかまでは解らない、まぁ知る必要も無いだろうけどね。


「あんまり抵抗しないでくれると助かるね、僕もあんまり労働したくないから、さ」


 言うと同時に踏み込み、完全な直立から予備動作一切無しの急加速。単純で地味な癖にやたら難しいけど、初対面の相手にならかなり効果的な奇襲になる僕の得意技の一つだ。

 一般的な犯罪者……ただのネジの外れた人間相手だったらこの踏み込みから組み伏せで押さえられる。しかし、現実はそんなに甘くも無い。


 凄まじい光景だった。僕の踏み込みを感知したソイツは、その場で瞬間的に飛び上がったのである。

 跳躍した姿勢そのまま、宙返りを披露している真っ最中の何者かと、フード越しに視線が噛みあう。上下逆さまのその視線は、絡ませるだけで解るくらいの狂気の色があった。友達にはなれそうにないし、できれば知り合いにもなりたくない手合いのアレである。


 フードの人物の足元がぶれる、宙返りの体制からこちらに向けて伸びて来た紫電の様な蹴りの一閃が襲いかかってきた!


「危ないなぁ、もう」


 余裕で回――


「痛っ!」


 相手の蹴りは空を切った筈なのに、僕の肩口に焼けつくような痛みが走る。

 自分の肩から頬にかけて出血の熱。傷痕は斬撃、どうやら単純な打撃格闘では無く仕掛けがあるらしい。完全に僕の油断だ、アイツに見られたら爆笑されるだろう。

 それにしても、運が悪いと言えば悪い。今僕は背中に鉄の塊を背負っている筈なのに、しっかり本体の僕に直撃している。


「さて、やっぱり楽な仕事にはならないか」


 無傷で済まないなら素手では戦わない、という自分の中の鉄則に則り、凶器を準備する。

 斜め掛けに背負った剣の柄に手をかける。

 止め具を外すと同時に体を大きく捻り、剣先で大きな円を描く様に下から上に向けて刃を振り抜く一閃。

 しかし、それも相手の目の前で火花を散らし、両断するには至らない。それも、空中で動きが取れない隙を狙ったのに……だ。


「全くもう、猿か君は?」


 少し離れた場所、僕と対面するように着地した相手と対峙する。相手が片足を上げる。そのブーツの先に煌めく刃。どこにでもある仕込み刃である。

 どうやら両足に仕込んであるらしく、先程は二つを交叉させて僕の斬撃を防いで見せたってことだろう。


「まぁ、それだけじゃ無いんだけどね……まったく、どんな身体能力だい? 斬撃に行った僕の剣を踏み台に跳んで逃げるってのは。一応こっちも殺す気で武器を振ってるんだけどね?」


 目の前の何者かはやっぱり応えない。

 激しい動きにフードがずれて、その顔が露わになっていた。

 その下から出て来た顔は、思っていた以上に可愛らしい少女の物だった。とはいえ、どれほど可愛らしい顔つきをしていたとしても、べったりと付着した血液と焦点の合わない双眸、その下の濃い隈に打ち消され、まるで幽鬼のような不気味さ湛えている。少なくとも、デートにだけは誘いたくない。


 その顔を睨みつけながら逆手に持った重機関銃内蔵大剣『粉砕する者パルヴァライザー』を構えなおす。


 刀身の長さ千六百ミリ、刃の幅二百五十ミリ、一番厚い部分で刃の厚み約五十ミリ、機関銃を内蔵している関係で刃のそりは無し。


 その名の通り、十二、七ミリ口径の重機関銃を内蔵、連射速度は毎分四百五十から五百五十、機関部と柄まで含めた総全長は僕の身長を頭一つ分超える千九百ミリ超、そもそも唯の人間が振るう事を前提にされていない狂気の産物が、月光を受けて、敵対者の血を吸うべく鈍い光を放つ。


 精神集中を開始、いつもの通り、自分の体に『自動回復リジェ・ネイル』を発動、肩口の傷が塞がる。

 更に、常時発動している『筋力上昇ドウプ・イグ』と『感覚強化セシ・ウープ』に異常が無い事を確認。


 さて、さっさと仕事を行うとしよう。


「はっ!」


 『粉砕する者』を背中に担ぐようにして踏み込む、相手は身構える様な事はせず、体をゆらゆらと揺らして立つだけ。

 一閃、背中に担いだ刃を斜めに振り下ろす。相手は半歩下がって回避行動。切っ先が地面を抉る、瞬間的に刃を返し、斜めに袈裟切りにした刃を振り上げ追撃、手首の関節と腕の筋肉が悲鳴、無視、こちらも回避される。

 少女の足が伸び、飛びあがりながら顔面狙いの上段蹴りが来る。振り上げた剣が重い、バックステップは不可能、顔を後ろにそらす、伸びる刃。空振り、右足に続いて左足の二段蹴り、しかしそれも空を切る。回転する少女の体と両足、独楽の様に少女の体が周り、僕の顔面と頸動脈の在った位置を旋風の様な刃が通り過ぎる。鼻を骨まで断たれ出血、治癒術式が修復開始。


 本当、どんな芸当だろう、物理法則に反抗して更に少女が更に空中で縦に身を捻る。僕の脳天目指して刃が飛来、斬撃は出来なくとも敵の動きをそらすために振り上げた剣を横薙ぎに振るう。


 空中の筈の敵が剣に当たる前に大きく飛び上がる、先程の空中での動きといい、どこにも当たって無い筈の剣には重量感、何らかの仕掛けがある事だけは理解。

 とにかく、少女が地面に着く前にバックステップで間合いを調節して向かい合う。

 剣を構えなおして牽制、少女はやはり焦点の合っていない目でゆらゆらと上半身を揺らしている。

 今度は語らず、踏み込む。今度は先程の逆、剣を僕の体に隠し、刃を引きずるようにして接近した後、下からの切り上げを行う。


 目標は素早く回避、横に回り込もうとする。予想済み、そのまま真下に打ち下ろし、目標の上部に『粉砕する者』の峰を叩きつける。目標は両手を交叉して防御、問題無い。『粉砕する者』の超重量と魔法強化された僕の筋力が合わさり、腕ごと頭蓋を叩き割る……には残念ながら至らなかったが、少女の両腕の骨を完全粉砕した事を手ごたえから確信する。だが少女は怯みもせず、折れた両腕で無理やり『粉砕する者』を払いのけて、肩口から僕に体当たりを食らわせてきた! くそっ! これだからネジの飛んじゃった敵はヤなんだよ!


「この……っ!」


 獲物の重量分反応が遅れ、逃げられない。


「シィッ!!」


 殆ど反射で迎撃。とっさに『粉砕する者』から離した左腕の拳が少女の顔面に突き刺さる。


 握った拳に十分な手ごたえを感じる。体術もクソも無い、本当に反射で放っただけの拳だげど、それでも戦闘態勢の前衛魔法戦士の拳が直撃すれば、唯じゃ済まない。

 僕の拳が直撃した頬骨が粉砕し、クレーター状に陥没。同時に鼻がひしゃげ、前歯が吹き飛ぶ。左の眼球は眼孔の中で潰れ、血の涙が噴出した。


 残酷なようだけど仕方ない。残念ながら、無傷で拘束できるほど、僕は優しくも強くも無い。


 だけどここまでやっても少女の勢いが止まらないっ! 

 僕の胸元に衝撃。少女に体重が無いため、体当たり自体のダメージはなんてことなかったけど、同時に腹部に激痛。口の中に鉄の味。慣れたくないけど慣れちゃった、体からの危険視号が脳に響く。


 とっさに下がろうと足が動く、下がれない。

 顔を下げると、鋭い爪のはえた昆虫の様な二本の腕が脇腹を掴み、短剣の様な爪が数本、腹部にささっているのが見えた。

 視界で確認した現実に追いつくように、臓腑からせりあがった血液が口から洩れる。


「ぐ……はっ!」


 腕の先は少女のコートの中、背中へと繋がっていた。成程、あのコートの意味と先程の不可解な空中機動の真相を理解する。先ほどの跳躍はこの腕で剣を受け止めて行ったものであり、コートはこの腕を隠すための物なのだろう。


 至近距離で少女の顔と睨みあう。

 まだ無事な右の濁った瞳が僕をとらえる。

 ってうっわ! 気持ち悪い! いきなりこの娘の口か牙の生えそろった円形の口を持つ異形の触手がずるりと伸びてきた!

 まずいよアレ。どう見たって僕の顔を正面から食いちぎる気だよ! 

 唇から声とも呼吸ともつかないものを洩らしながらも体を捻る、昆虫の様な腕は刃の生えそろった爪を内臓に突き立て、こちらを放さない。


 この間合いでは『粉砕する者』は斬撃武器として十全の威力を発揮できない。ここは強化魔法にかけるしかない。

 右足を上げる。爪と爪の間を無理やり押しのけて少女の腹に靴底を当てた。皮肉なことに、崩れかけたバランスは異形の腕が支えてくれている。


「悪いけど……君は僕のタイプじゃないんでね! ハグは御免だから離れてくれるかなっ!」


 強化された筋力を総動員して、力で少女の体を吹き飛ばす。腹に刺さっていた爪が去り際に皮膚と内臓を引き裂き、視界が血の色に染まる。

 しかしその甲斐あって、気色悪い触手に噛みつかれる前に間合いを離すことに成功。吹き飛ばされてなお受け身を取り、僕に追いすがろうとする少女を牽制する為、『粉砕する者』の切っ先を少女に向け、重機関銃としての狂気を解放。


 夜を引き裂く火薬の悲鳴が響く、竜の鱗を貫通するための超大型銃弾が唸りを上げて少女に殺到。僅か一秒にも満たないトリガーでも少女の体を引き裂くには十分だ。

 体の数か所に弾丸を受け、全身を食いちぎられた少女が吹き飛ぶ。結果として、最初以上に間合いを離すことに成功した。


 立ち上がった少女がゆらゆらと体を揺らし、こちらを見据えている。

 隠す必要が無い、もしくは人間の腕の代理だろうか? もう背中から生えた異形の腕を隠そうともせず、コートを翻して僕に向けていた。

 コートの中から見える痩せぎすの上半身は、おおよそ服と呼べるものを纏っていない。だけど、骨も内臓も構わず食いちぎった痛々しい弾痕と、少女本人の異常さから、残念なことに少しも嬉しく無い。


 向こうがこっちにすぐにとびかかってこないのは、こっちとしても助かるね。

 この僅かな時間で、僕の腹部の傷を術式が修復。だがソレと同時に向こうの異形も修復されていくのが見える。弾痕が寄り合わされる筋肉にふさがれ、ひしゃげた鼻がもとに戻る。血の涙を流すだけだった筈の左目が瞬きし、まっすぐに僕を見据えていた。回復早いなぁ……僕じゃああはいかないよ。

 と、言うより根本的におかしい。術式を使った様子も無いのに、魔導士の僕の数倍という異常な回復力。そして蠢く人外の体……。


 …………。


 心の中に、思い出したくない光景が一瞬浮かぶ。目の前に存在するそれに、見覚えがありすぎた。

 最初とは違う吐き気がこみ上げてきた、不快感に耐える僕の眉が歪む。こんなに蒸し暑いのに、背筋が冷汗で気持ち悪い。


「お前は……まさかとは思うんだけど……」


 確かめようと呟くも、答えなんかある訳ない。目の前の少女からはそんな理性を感じる事は不可能だし。

 このタイムロスの間に、向こうが体の修復を完了。こっちはまだ完全回復には遠いけど、まぁ問題は無いだろう、次は無い。


 足元に力をこめ、一歩を踏み出す――


「はい邪魔ーっ!」


 うわわわわわわっ!

 前に割り込みが来て、即座に足の力を抜く。マズい、ここで止まれなきゃ僕まで黒焦げにされる!

 突然闖入した声と一緒に、上空から魔力放出の光が迸る。

 少女が上を見る、先程の様に直感で動かず、視覚で確認しようとしてしまう、それが彼女の命運を奪い去った。

 轟音、爆発。

 情報からの奇襲、目標として定めた座標に術者の設定した規模の爆発を起こす魔法術式『魔導爆薬トゥリ・ニトゥロ』が発動、目標点は少女の居る場所。


 それはすなわち、一瞬で少女が暴炎に巻き込まれた事を意味する。重機関銃の掃射に耐えきった腕も千切れ飛び、四本とも無くなる。

 顔の各パーツも今度こそ完全に修復不能な程に消し飛び、人体の焦げる嫌な匂いが路地裏に充満。

 それでも少女が動く。当然だ、これほどの異形はこの程度では死なない。体が再生するまえに止めを刺す。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっッッ!!!」


 踏み込み、振りかぶって『粉砕する者』で一撃。全体重、全筋力を刃に込めた袈裟斬りが、僕の咆哮と共に無抵抗な少女の肉体に叩きこまれた。

 少女の肩口に爪を掛けた刃はそのまま肋骨と肺、心臓を纏めて引き裂きながら斜めに直進。勢いを全く殺さず脇腹を抜けて足元のアスファルトまで到達し、深々と突き刺さる。上半身が斬撃の勢いそのままに血しぶきを上げながら回転して飛んでいき、壁に激突してから血の跡を引いて落ちる。

 下半身が倒れた。これでもう相手に戦闘能力は無いだろう。


 とりあえず一安心し、『粉砕する者』の切っ先を地面に突き立てる、『粉砕する者』の長い刃は、地面に刺すだけでも一苦労だ。


「少し遅いんじゃないかい?」


 視線を上に上げ、開口一番文句を言う。別段苦戦してた訳じゃないけど、同額の給料をもらう以上、さぼられているのは何か癪に障った。


「何よ、援護してあげたでしょ? それにケイがあんなに手こずるとは思って無かったの、個人的にはケイが一人でどうにかしてくれて、わたしは楽ができると思ってたのにな~」


 声は空中、ビルとビルの間の空から、タッチパネル式の通信用端末を手に持った人影が降りてくるのが見える。

 首筋にかかる綺麗な金髪に、ともすれば男の子にも見えてしまいそうな、中性的な可愛らしさを持った童顔にくりくりとした大きな青い目、凹凸に乏しい小柄な体を、胸元に入った大きなラインを横線とする、大きな十字をデザインした半袖にミニスカートのワンピースで覆っている。

 スカートから伸びる足は黒のストッキングと、その先に真っ白な靴。ストッキングからは白い下着がちらりと透けて見えたが、この相棒は自分の下着を隠すと言う習慣が無いので、見慣れてしまってもはや何とも思えない。

 上空からこちらに降りてくるその背には、大きくて真っ白な一対の翼が風を受けている。薄暗い路地裏なので、目を凝らせば頭の上に光の輪もうっすらと確認できた。

 生物学的に言えば天使人に属する少女、社会的に言えば僕の仕事の相棒であるイリスが僕の前に降り立った。

 イリスは上半身だけになってもピクピク動いている少女を一瞥してから、僕の方に視線を移した。


「で、この子が例の連続殺人犯って事で良いの?」


「さぁね、それを判断するのは警察のする事さ」


 呼吸が落ちついた所で粉砕する者を引きぬく。もう臨戦態勢である必要は無いので、動きやすさを重視して柄を上にして斜めに背負う形で固定。

 僕が剣を収めたのを見て、イリスもまた、通信端末を操作、起動していた『電子魔道書スペルブック・アプリケーション』の起動を終了し、ポケットにしまい込む。


「それを言っちゃうと元も子も無いでしょ、ちょっとは面白味を持ちなよ」


「おや? 援護が遅れるくらい人の戦闘を見物してたならもう面白味は要らないと思ったんだけどね?」


 僕の嫌味に対して、イリスは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 その可愛らしい顔や仕草は成程、天使が神の芸術品である事を確信させる可憐さだけど……


「ふふん、言ってくれるじゃん? まぁそりゃあね? すぐに拘束できるはずが、油断して反撃貰って戦闘開始! なんていうケイさんの大失敗は面白かったけど」


 この通り、こいつの笑顔の中身はどっちかというと悪魔のそれである。

 世の男性諸君よ、騙されちゃいけないぞ? 本当にきれいな花と食虫植物の見分けがつかない奴は、生きながら消化液の餌食なのだ!


「でもさぁ、余計な戦闘を入れて相棒を心配させた分、リップサービスで埋め合わせ

するのは当然のアフターサービスじゃないかなぁ?」


 嘘つけ、絶対『心配』じゃなくて『面倒』だろそれ!


「おやおや、またまた変な事を。役立たずの魔法使いに対するアフターサービスは僕の職務に入って無いよ、嘘だと思うなら今度顧客向けのパンフレットを確認してみると良い」


「そんなの読まなくても頭に入ってるよーだ。なんたって何処かの前衛魔術師が仕事しないから『職務に入っていない』パンフレットの作成、やらされたからねー」


「おっと、どうやら君の脳味噌は永遠に休暇を取ってるみたいだね。君がパンフレットを作る羽目になったのは、僕が仕事をしなかった訳じゃなくて、事務所の立ち上げのときに、君が見事なまでに全然仕事をしやがらなかったからその罰だよ」


 嫌味の応酬をしながらも、携帯端末を起動。タッチパネルを操作して連絡先へと通話回線を繋ぐ。

 単調なコール音を聞きながらも、真っ二つになった人影に視線を向ける。

 もはや動く事すらなくなった、狂ったヒトガタだった物がそこにある。

 一つだけ、確認しておきたいことができちゃったな。

僕はベルトから予備の武器として携帯しているナイフを抜いて人型に向かった、先程口ではああ言った物の、確かめない訳にもいかないだろう。

 バラハキアの夜は鬱陶しい。気温も、湿度も、仕事内容も、全てが最悪。いつも通りで吐き気がする魔術師の仕事内容に吐き気すら覚えつつ、僕は仕事の話を始めた。

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