八時間後――光の中
「さぁ、出発だ」
傍らの相棒に声をかける。深い眠りによく似た
防魔防刃コートを羽織る。夏には暑いが命には代えられないので文句は言わない。
コートの上には『粉砕する者』用のホルスターを通し、固定。
手を伸ばし、『粉砕する者』を手に取る、軽く二、三回振って調子を確認。内部機構も問題なし、各種魔法を展開する為の宝珠が僅かに光り、それに応じるかのように刀身に刻まれた各種魔法陣も僅かに光を放つ。
背中に回し、固定。超重量が頼もしい。
予備兵装として爆発系の魔法を封じ込めた
そして最後に切り札を手に取る。
それは、僕の血と戦闘の傷痕に汚れた小さな演算機。
捨てよう捨てようと思っても、いつまでたっても捨てられなかった僕の失敗の象徴。
それが今、ラッセルから受け取った情報と、僕が必死でかき集めた情報から作り出した『切り札』をインストールされ、画面から静かな光を放っている。
懐に入れる。鉄板と防火繊維、防刃繊維の三重構造で護られた小さな物入れに滑り込ませ、蓋を閉じようとして、僕の手が止まった。
この感情を、何と表現していいのか、残念ながら今の僕にはわからない。それくらい色んな感情がごちゃごちゃして、かき乱し、蠢き、暴れている。それでも頭だけは冷えているのが不思議な位だ。
「………………」
そっと、目を閉じていた。
一つだけは言える。
カミサマの加護なんか欠片も信じちゃいない割に、何故か僕は祈ることが多い。
この小さな祈りを現実にする為、瞳を開け、蓋を閉じる。
――準備完了。
傍らではイリスも準備を行っている。
術式に反応しやすい特殊繊維で織られたワンピースに着替えた彼女が、腰の杖に手を伸ばす。
杖を一度伸ばして動作確認、手元にあるスライドがブローバックし、魔宝石をスペル・チャンバーに送り込む。イリスが少しだけ魔力を送り込むと、サリエルが一度だけ光を放ち、すぐに戻る。
その様子に満足げに頷いてサリエルを収納、腰のハードポイントへ、予備の珠晶石や緊急用の魔法薬の位置と状態を指先で一つ一つ撫でる様に確認する。
最後に、肩から斜めにかけたベルトと、その先の『Eパッド』へと指が伸びる。充電はフル、『
最後に、自身の状態を確認。天使の輪が輝きを増し、背中の翼が、彼女の小さな体とは不釣り合いなほど大きく広がる。
彼女の周囲に小さな魔方陣が大量に出現。その結果に満足したイリスが一つ頷き、動作確認を終えた順に光の花びらを散らして消えていく。
僕の視線に気づいたのか、相棒がウインクを送ってくる。少し指先が震えているけど、今はそれすら頼もしい。
――準備完了。
最後の最後に、自分用の机の中から幾つかのアンプルを取り出すと、それを懐……切り札の横にしまい込んだ。
「なぁに、それ?」
傍らの相棒が問い掛ける。
「もう一つの切り札……と言うのも変だね、今回は本当に全てを出して戦う必要があるからね、その準備だよ」
僕が答える。
正直、一瞬前までもって行こうか行くまいか本当に悩んだけど、やっぱり持っていくことにする。
今までは、こんな物を使うなんて考えられなかったけど、状況は変わった。出し惜しみのできる相手じゃないし、今の相棒にだったらコレを見られても何て事は無い。
そして、どちらともなく第一歩。
「ねぇ……イリス」
事務所から出て、車に向かう僅かな間。
隣を歩く相棒に声をかける。
「なぁに?」
イリスが顔だけこちらに向ける。どんな結果になっても後悔しないよう、間を置いて、確か伝えて無かった筈の言葉を紡ぐ。
「………………………………ごめんね」
「ばぁか……いーんだよ」
くるりと体を回し、腰の後ろで両手を組んで、天使人の少女は花がほころぶような笑顔をくれた。
……さぁ、行こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます