幕間
幕間 サンドマン
「うぉーい、大将」
扉の開閉音とともに野太い声が耳朶を打つ。
シートに背中を委ねたまま、シドは目を開けた。
シートをくるりと回すと、二メートルに届く巨体に黒いタンクトップとジーンズ姿の天然アフロのマシューが青いコンテナを担いで戸口に立っている。
「なんだよ、また一人だけコーヒータイムしてたのかよ」
室内に残る香りに気がついて、マシューは顔をしかめた。
「今日の業務は終わったからな。どうかしたか?」
「ああ、これなんだけどさ」
手にした白い紙をひらひら振って見せる。
「なんだそれ」
「請求書。さっきの定期便で届いた。いまどき紙の請求書なんて使ってんの、ミオぐらいだと思ってたんだがな」
マシューが机の上にポイと放った封筒をつまみあげ、ひっくり返す。見覚えのないロゴの印象が押してある。
「ミオの請求書とは違うようだな。このマークは見たことがない」
「だよなあ。しかもこんな名前のやつ、この界隈にはいねえっての」
宛名の欄を見れば、確かに妙に長ったらしい名前が連ねてある。
「アール、す、すすら……なんて読むんだ、これ」
横から覗き込んでいたマシューが指差す。シドもまゆを寄せた。
「聞いたことがないな。うちに出入りする運び屋でもなさそうだし」
「じゃあ配達ミスかよ。あービビった。てっきり大将がなんか変なもん頼んだのかと思ったぜ。配送料にしちゃべらぼうな金額が書いてあるしよ」
マシューの指した金額欄には、ミオの特急料金の軽く二十倍はする数字が踊っていた。
「次の便で送り返しておくよ」
「じゃ、頼むわ」
「で、その担いでるのは? 今回の物資は船外調査用の備品だっただろう?」
書類を机に放ってシドは聞いた。
「ああ、その中に大将宛の荷物があったんで持ってきた。えらく重かったけど、なんか頼んだのか?」
担いでいたコンテナを机の上にどっかと降ろす。送り主のタグを確認して、シドは口元をゆるめた。
「ああこれ、シェヒェルの特産酒だ。この間欲しがってただろ?」
コンテナの封を開ける。ぽん、と音がして梱包材を取り切ると、中の木箱を開けた。ぎっしり詰まったクッション材と固定金具の隙間から、金色のボール上のものが頭を出している。
「シェヒェルのって……まさか、あれか? 十年に一度しか実をつけないチェリーで作った」
「ちょっと甘めだが、美味いぞ」
「やったっ、大将太っ腹っ。さっそく冷やしとこうぜ。今日のアペリティフは決まりだなっ」
「キッチンの冷蔵庫はもう入らないぞ?」
「あー。そうだった。三週間分、詰め込んだばっかりだからな。仕方ねえ、地下の保冷庫に入れてくらぁ」
コンテナを担ぎ上げ、大男が去ってしまうと、シドは先程の請求書を取り上げた。
――今回の礼はしておくか。
書類をきっちりと折りたたんでポケットにしまうと、彼も居室を出ていった。
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