アニューマル・ワールド

「うちは有華。女豹や。……そろそろ寒くなってきたから、焚き火でも焚こうか。」

日がくれてきた空を見て、有華が歩き出した。

あたしも必死に足が速い有華を追う。

有華が教えてくれた話によると、この世界はアニューマル・ワールドというらしい。住んでいるのは、獣と人間の混合生物、動物人間。動物人間といっても、ほとんど人間みたいなものだと思う。


「えっ、女豹でも、寒くなったりするの?」

「うちら動物人間には、きちんと人間としての特徴も備わってる。普通に裸を見られると恥ずかしいし、寒くなったりもするんや。」

「へぇ〜。」

普通の人間と同じ感じなのかもしれない。

そう思ったのもつかの間、すぐにその考えは吹き飛ばされる事になった。


草原をなん10分くらいか進むと、急に有華が立ち止まった。

「有華、どうし…「シッ。」

唇に指を押し当てられて、すぐに黙る。

有華はこれまでにない真剣な表情をしていて、その目はギラギラと光っていた。

まるで…………獲物を狩る時の獣の眼みたい。

「ここで気配殺してて。」

そう言うと、有華は音を殺して草原を掻き分けて歩いて行った。

何してるんだろう?あたしは気にな流けど、動くなと言われたから動かない。

でも、次第に見てみたいという感情が大きくなっていった。

見たい、見たい。でも見ちゃダメ。

見ちゃだめだけど…………

やっぱり見たい!

ガサッ。

草を掻き分けたときあたしの視界に入ってきたのは、大きな角の生えた女性(女鹿)に噛み付く有華だった。

「有華!!!何してるの?!!!!!」

「っ!」

あたしが大声をあげたのにびっくりしたのか、有華が一瞬戸惑った顔をする。

その瞬間、有華は女鹿の蹄に蹴り飛ばされた。

女鹿は必死になって逃げて行った。

「くそっ。」

有華が悪態をついて起き上がった時にはもう、女鹿はいなくなってて砂埃しか残っていない。

あたしは今見た光景が忘れられないまま、気づくと有華から離れようとしてた。


「邪魔するなって言うたやろ。」

有華の真っ赤な瞳で目を合わせられて、逸らせなくなる。

さっきは綺麗だと思ったその瞳も、今はもう恐怖にしか思えなかった。

有華の口の端からは女鹿の血が流れている。その血を手の甲で拭って、有華はあたしに近づいてきた。あたしはそろそろと有華から後退していった。

近くにいたら危ない。本能がそう告げていた。


「あんたもうちを捨てるんやな。」 ふと有華にそう言われて、あたしはフッと気付いた。

もう、有華の瞳がギラギラしてない。

その代わり、ずっとつり上がってた眉が悲しそうに下がっていた。初めて見た苦しそうな顔に、あたしはなぜか胸を突かれるような感覚がした。

これは…………母性か?

「確かに、あたしは有華が怖いよ。」 震える声であたしは口を開いた。

「でも……有華は悪い人じゃないよね。」 まるで自分に言い聞かせるかのように、あたしはつぶやいた。

有華が悪い人なわけがない。悪い人だったら、ヌーに蹴られた(?)あたしを拾って守るなんて言ってくれるわけがないだろう。

だから、

「もし有華が絶対にあたしに噛み付いたりしないって約束してくれるなら………一緒にいて欲しい。……守って欲しい。」

こんなの自分勝手な言葉かもしれない。相手の事怖いと言っておきながら守って欲しいだなんて。

でも、、、あたしは有華を嫌いじゃない。むしろ、初めて会った動物人間の有華が好きなのだ。

「一緒にいたいよ。」




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