1-9 レベル1の白昼夢

 高杉陽太たかすぎようたは都合のいい夢を見ていた。

 最期に二人で出かけた姿の星宮灯里ほしみやあかりが陽太を見ていた。

「やればできんじゃん」

 星宮は満足そうに笑っていた。

 陽太の真上に星宮の顔がある。その向こうにはいくつもの星が輝いている。

美鈴みすずに言われて思い出したんだ」

 独り言のように陽太は言葉を吐き出す。星宮はじっと耳を傾けた。

「俺は弱虫で泣き虫だった。本当は星宮が学校に来なくて、怖かったんだ。俺も同じだって、何回も、何回も死んで、最後には・・・次に頑張ればいいって思いながら、満足して死んでいく。そんな今日が、いつか来る気がして、もう星宮にも会えない気がして怖かったんだ」

 星宮は、知ってた、と笑ってくれた。

 微笑みがくれた優しさがぎゅうっと陽太の胸を締め付ける。

「でも、俺は泣いてすべてを諦めるような男じゃない。何回でも繰り返せるからって、惰性に生きるようなことは出来ないんだ。何回でも死ねるなら、何回でも生き抜いてやる。そう思ったんだ」

 だから、戦った。

 星宮がいない明日のために、星宮がいるはずだった今日のために。

「がんばったね」

 子供をあやすように、星宮はそっと陽太の頭を撫でた。

 その手のひらのぬくもりに抱かれて、陽太は静かに泣いた。

 自分勝手な夢だった。

 もう会えるはずのない星宮が、そっと陽太の頬に唇を触れさせた。

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