剣聖が無双する話

山塚三

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 城下町から少し離れた山のふもとに、剣聖の故郷の村がある。



 ある日のこと。村はずれの寺に赤ん坊が、一振りの刀と共に捨てられていた。

 赤ん坊はその日の内に近くの剣術道場に引き取られる事となった。折良く寺に来ていた道場主の目に止まったのである。

 道場主は城の剣術指南役を勤めたこともあるが、今は老齢で職を退いていた。


 赤ん坊が幼児となる頃には、剣術の真似事をするようになった。特にきっかけがあったわけでもなく、自然に棒を振り回すようになっていた。

 道場主や門下生は面白がって幼児に剣を教えた。特別学習が早いという事は無かったが、幼児は楽しそうに剣を振るった。為に、教える側も所謂いわゆる剣術の指導ではなく、ただ剣を使ってたわむれた。


 もう少し時が経つと、幼児は門下生の一人として剣術を学んだ。周りの者は幼児の才能に期待したが、残念ながら応えることは出来なかった。剣の扱いは上手かったが、形稽古や歩法、それに伴う体捌きが絶望的に不得手であった。

 だが周りの大人や門下生達は優しく、それはそれとして受け入れた。何より一緒に剣を交えるのが楽しかったのである。



 数年後、道場主が病死した。稽古中に突然倒れ伏し、その三日後には帰らぬ人となった。

 道場は閉鎖され、門人たちはそれぞれの道へ散らばっていった。

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