7:パーティ
パーティに出るため、ドレスに着替えた美衣歌はアルフォンと会場へ入場した。
アルフォンの腕に手をかけ、優雅とは程遠い、腰が引けた足取りで会場の中央へ向かう。
パーティの出席者たちは中央を広く空け、二人を見守った。アルフォンの伴侶の座を狙っていた一部の令嬢を除いては。
会場の奥に用意された一段高い席で国王とフィリアルが座している。
二人へ挨拶をすると、ぽっかりと空いた空間で、アルフォンと向き合った。
手を重ね合わせ、アルフォンの手が美衣歌の腰に、美衣歌の手はアルフォンの肩に置いた。
ぐいっと腰を引き寄せられ、身体がくっつく。隙間を開けてくれないと、踊っている間に何度も足を踏んでしまう。
美衣歌の運動能力のなさじゃ、確実に相手の足を踏む自信がある。
離れていれば足の間に隙間ができて、踏むことがなくなるかもしれないのに。
「え、あの」
掌が入る隙間をつくろうと後ろへ腰を引くと、わずかに空間ができる。すぐにアルフォンに引き寄せられ、ぴったりとくっついた。
「静かに」
主役の準備ができると合奏団が、音楽を奏で始める。
音楽に合わせて、アルフォンが動きだし、美衣歌はアルフォンの先導に合わせて動き始めた。
最初は、ゆっくりと。
スカートが軽く揺れる優しいダンス。
筋肉痛な足に負担がかからない。これなら最後まで踊れそう。
安堵したのもつかの間、音楽のテンポが変わった。
速くなった演奏に合わせて、ダンスが変わる。
ぐんとスピードが上がり、痛めた足がそれについていけなくなって、足が追いつけない。
苦労していると、アルフォンと繋いでいる手が上へあげられた。
速さにのり勢いがついた体はくるりと回転する。
周りの景色も回り、参加者の視線が美衣歌に向いているのを見てしまった。
彼らの顔は笑みを見せていた。
踊れていない美衣歌を
元の場所へ戻ってくると、恥ずかしくて下を向いてしまう。
美衣歌の拙い踊りが可笑しいと失笑している。
「下を向くな。転ぶぞ」
「でも」
「いいから上げろ」
顔をあげるとアルフォンと目が合って、柔らかく微笑んだ。
それでいい、と言われたような気がした。
婚約した二人へ祝いの一曲が終わり、二曲目の演奏が奏でられる。
男女のペアが何組かが加わる。
「行くぞ」
一曲踊って息が上がってしまい、浅い呼吸を繰り返す美衣歌の手を引いた。
二曲目からダンスに入った男女が、中央から二人が抜けていく姿を曲に合わせて踊りながら不思議そうな目で追いかけた。
主役は長くても三曲は踊り続けている。どれだけ、二人が仲睦まじいかを周囲に見せる意味もある。
一曲目は主役が、二曲目は主役と合わせて踊ることが許されている数組が、三曲目は加わりたくてうずうずしている招待客らが。中央は曲ごとに踊る組が増えていく。
一曲目でやめてしまうと、ほかの女性たちが入り込める余地がまだあると捉えられてしまう。
二人のダンスを唇を引き締め、鋭い視線を向けていた未婚の女性たちの眼が変わった。
中央から出ていく二人を通すために、招待客が左右に分かれ、道を作る。その間をアルフォンに引かれて美衣歌が通る。二人の後を数名の女性たちが、ゆっくりとついていった。
壁際に簡素なテーブルがいくつか用意されているが、その周囲に椅子は一脚もおいてなかった。
ダンスを踊ることと交流を深めることを目的とし、椅子に座ってゆっくりする者は誰もいない。
テーブルには花瓶が置いてあるが、周囲に誰もいない。
「足は大丈夫なのか?」
美衣歌の背中を壁につけて、アルフォンはその前に立った。
パーティに出る前、アルフォンに足が筋肉痛であまり踊ることができないと告げていた。
「もう一曲踊るといわれたら難しいです」
足の具合をスカートの中で確かめてみた。安静にしていないと悪化しそうだ。
アルフォンが美衣歌に近づいてきた。
「あの?」
美衣歌を腕の中に囲いこむ。
「おとなしくして」
突然のことに、美衣歌が抵抗するとアルフォンが耳元で囁いた。
アルフォンが屈んで、肩越しに三人の令嬢が近づいてくるのが見えた。
綺麗に結い上げた髪に、この日のために仕立てられたドレスが映える。
三人共美衣歌より年上の印象を受けた。
「アルフォン殿下……踊りになりませんの?」
そのうちの一人が、声をかけてくる。
「踊らない。彼女が足を痛めて、介抱している。わからない?」
冷たい返しに令嬢がひるむ。
「わたくしたちと踊っていただけませんか? 殿下と踊りたいと思っておりましたの」
ひるみながらも一人、果敢に挑んでくる。彼女は編みこんだ髪を横にたらして、
アルフォンは令嬢へ見向きせず、美衣歌に顔を寄せてくる。
令嬢たちが息を飲んだ。
美衣歌が頬を染めて、目を閉じたのが令嬢たちに見えた。
額に触れる
触れるか触れないかの距離で数秒間とまる。
令嬢たちからはアルフォンが美衣歌へ口づけをしたように見えたに違いない。
「今日は彼女以外とダンスはしないと決めている」
美衣歌から顔が離れて、安堵するまもなく今度は抱きしめられる。
婚約者への溺愛ぶりに動揺した令嬢が、頬を染めた美衣歌をきつく睨んできた。
一人から二人、三人となり、美衣歌を六つの眼で脅してくる。
視線が、いつまで殿下を独り占めしていると語っている。
「あ、の」
令嬢たちとダンスを、とアルフォンへ進めようと声をあげようとした。
令嬢たちの近くで佇むケイルスの姿を見つけた。
アルフォンのそばから離れない令嬢の近くで、美衣歌をじっと見ている。
美衣歌と目が合うと、意味深な笑みを見せられた。
その笑顔に悲鳴が出そうになる。
――ほら、言ったでしょ? また会ったね。
数日前の夜の出来事を思い出し、冷や汗が出る。
アルフォンと離れたら、ケイルスが近寄ってくる。
嫌でたまらなくなり、アルフォンの胸に顔を押し付けた。
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