ビッグデータ探偵

なかの

第1話 予測される世界

「先生!先生!!聞いてますか?」

彼女の声はいつも大きい。


「聞いてる。聞いてる。でなんだっけ??」

僕は問い返す。


「ほらぁ、やっぱりなにも聞いてないじゃないですか!!」

先生はいつもそうなんだから、とプンプン怒っている彼女。


「僕は君の先生じゃないよ。今はここのマネージャだろう。」

「ああ、部長でしたね!」

「いまどき部長という言い方もない気がするけど」

と、僕が正す。

そう僕はこの研究機関の部長だった。


僕らは犯罪捜査を特別にサポートする研究機関

「特別犯罪研究室」のメンバーだ。


僕は、大学の研究員。

ここに派遣されてきている。


彼女は元うちの大学の生徒。

文系だったと思う。

僕の授業を受けたことがあったらしい。


そして、いまは警察官だった。


僕らの立ち位置は、警察の手が及ばない犯罪の解決の手伝いをするというものだ。

最先端のコンピュータ技術を使って、犯罪を新しい角度から調査するというところだ。


僕のもともとのテーマは『ヒューマンコンピュータインタラクション』簡単に言うと、人とコンピュータをつなぐ研究だ。


この分野は幅広いんだけど、わかりやすい例でいうとこんなものがある。


人の歩き方をコンピュータで動画解析することによって、人物を特定するとか。


そういう技術を警察の調査などに使って、精度を高める、というのが、この研究室の目的だ。


「先生さっきの話ですけど」

「うん」

と彼女が話を戻す。


「この写真を見て、犯人は、彼女の場所を特定して、つきまとっていたらしいんです。」

「うん、なんの変哲もない自撮り写真だね」

と、ただの自撮りの写真を取り出した。

そこには彼女以外何も写っていない。

手がかりになる情報は何もないということだった。


「ああ、これは簡単だよ」

と、僕は言った。


「え?簡単?全然簡単じゃないですよ!」

と、彼女が猛抗議する。


「目だよ」と僕は答えた。


「目!?何が目なんですか?目が可愛いとかですか?確かにこの子目が可愛いですけど、私だって負けてな・・・」

「話が脱線してるね」

と僕は笑った。

確かに彼女もかなり可愛い。

目に自信があったとは知らなかったけど。


「よく見てご覧。その目に特定の場所を示す、特徴が写り込んでいるんだよ」

と僕が言う。


「え?うそだぁ、こんなの小さくて見えないですよ!!」

「そのサイズだったらね?元データあるかい?」

「はい、あります、こちらです。」

と画像データを開いた。


「はい、拡大するよ!」

と、僕はその画像をどんどん大きくしていって、瞳だけ写した。

「ほらね!これなら君でもわかるだろ?」

と僕は言った。


「え?ええええぇぇぇぇえ!」

瞳の中って、こんなに写真に映ってるんですか!

と彼女は叫んでいた。

大きく写した瞳の中にくっきりと、写っていたのだ。

犯人がこれをみて彼女を見つけただろうという目的地のヒントが。


「ほら、簡単だっただろう?じゃ、現場に向かおうか」

僕たちは、瞳が写した場所に向かっていった。

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