(現代アクション)凄腕コンサルタントは突き破る
のーはうず
第1話
自動販売機の明かりを頼りに仕立てのいい細身のスーツを着た男が工事現場の仮囲いの前で建築確認表示板をみていた。3階建ての鉄骨コンクリートの新築工事現場。
工程表上では内装下地、外装下地、外部建材取り付けが完了し、これから色々な業者がこれから出入りしもっとも忙しくなっているはずのスケジュールであるが、中からは工事の音がしない。防護壁の出入り口付近には土に汚れた車の轍が残っている。
雨だったのは3日前だ。
ここ数日車の出入りはほとんどされていないようだ、この3日間掃除もされずに残っているということは、人の出入りもなかったのだろう。
男はスマホを取り出し建築確認表示板を撮影すると、いずこかへ送信した。
ジャケットの内ポケットからプレゼンをするときに使用するか細い指示棒をとりだすと伸ばす。1m程になった指示棒に糸状のストラップをむすびつけ防護壁に立てかけると、そのわずかな足がかりで3mほどの防護壁を軽々とのりこえた。音もなく、壁の向こう側に着地するとストラップで指示棒を勢いよく跳ね上げて手元に戻し胸元に仕舞う。少し乱れた髪型を整えるとネクタイを締め直した。
建物には足場が組まれそれを囲うように防音シートで包まれている。建物にはいるための唯一の出入り口近辺から、わずかに明かりが漏れているのを確認すると、そこからは遠ざかるように暗闇に消えた。建物の側壁にまわりこみ防音シートつぎあわせのわずかな隙間に手を差し込むと、するするとシートの外側から外壁足場の上まで登りきる。
防音シートの内側にはいりこむみ息を潜める。
2階の部屋から明かりが漏れている。身だしなみ用の小さな鏡をさしこみ部屋を覗き込むとチンピラが1名ソファーでだらしない格好でハンディタイプのゲームをしているのが見えた。その奥には中年男性が縛られたまま床に投げ出されている。
防音シートを結びつけていたロープを解き、ロープとシートを一枚確保すると、足場をとめていた金具をいくつかはずして1階の入り口方向に投げつける。
『ガンッ!ガシャン!ガラガラ!!!』
派手な音があがる。
見張りが窓から半身をのりだして足場のほうに出てきた。
上からロープをかけたシートを落とし、チンピラにかぶせるとロープを引き絞る。一瞬でモゴモゴと暴れる人間巾着のできあがりだ。蹴りをいれて、おとなしくさせたあと入念に縛り上げると、倒れていた男性に駆け寄る。
「杉並インフラ建設の大葉社長ですね?」
倒れていた男性におこすと声を掛ける。
男性は頷く。
「プリンシパル、大葉代表確保しました。」
イヤフォンマイクを指でおさえて短く一言だけ発すると、男性を縛っていたロープを素早く外す。
「さあ、行きましょう。役員会でみなさんがおまちです。」
ふらつく社長に肩をかすと、トラップが仕掛けられているかもしれない通常の出入り口ではなく侵入口と同じ窓から外に出た。手際よく新たに防音シートを外しロープを足場に結いつけるとブランコのように反動をつけて、スイングしながらロープ降下をする。大人を抱えたまま綺麗な着地を決める。
飛び降りるときに引きつっていた社長の表情も安堵に変わる。
無理もない2日間も監禁されていたのだ。
「安心してください、もう大丈夫ですよ。」
そう声をかけてから、妙な音と気配に二人は振り返った。
気取った笑みを浮かべていた男の口元も、あんぐりと開かれた。
覆いかぶさるように倒れ迫る壁のような足場。
(しまった!留め金はずしたんだった・・・。)
寸暇の思考の間もないまま轟音とともに崩れる足場。
たちあがる煙のなかから、唖然と立ち尽くす2人。
シートを外して脱出したときの隙間に収まり奇跡的に無傷であった。
じつは、まだうっかりが多い新米の経営コンサルタントなのである。
(現代アクション)凄腕コンサルタントは突き破る のーはうず @kuippa
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