第1話
「先輩!こないだ言ってたじゃないですか?東京には仙人がいるって!」
急に何をいいだすんだ、という表情でみつめかえされた。
「あぁ、こないだの飲みの席での話な?あの病院の理事長適当な話しばっかりするから真にうけんなよ。何?おまえまさか鵜呑みにしてんの?」
先輩は呆れた顔で、首をよこに振る。
私、
その関係で、法人の決算などに不正がないか、経理担当や経営者と丁々発止のやりとりをしなければならないのだが、素直すぎる私は、ときたま若手をからかってやろうという老獪な経営者からよくわからない意趣返しをされることがあった。
数字に隠れた粉飾なら、ささいな矛盾にも一瞬で気がつけるのに、なんで言葉にされるとこんなにもわかり難くなるのだろうか。
いや、しかし、あの潤んだ瞳で顔を真赤にして、真剣に語ってた理事長の姿。
東京に隠れ住んでいる仙人達について熱弁していた。
先輩は冗談だというが、いや、しかし確かに仙人が隠れ住むなら、木を隠すなら森の喩えよろしく、この大量の人で溢れかえる東京に隠れるのは理にかなっているじゃない。
監査中だった某法人の決算書を閉じると、ネットの検索画面で東京の人口密度を探す。
なるほど、23区では一キロ平米あたり約14,389人もいるのか。なに、人口密度だけだと世界一ではないの?そう、高層化や集積化がされてないからなのね。
地震の多い国だから耐震基準上、建物の容積率が低く抑えられている。そういえばニューヨーク・マンハッタン島の人口密度は東京の2.5倍あるとニューヨーク本社の人から聞いたことがある。
マンハッタン島は千代田区、中央区、港区、新宿区とほぼ同面積なのだが、都心4区が一ヘクタールあたり92人なのにマンハッタンは250人もいる。
でも、東京について外国の人が驚くのはどこまでも都市が途切れないその広汎性にある。東京だけで1,351万人もの人口がいるのだ。この人口の多さで、なにせ東京だけの経済規模で世界の18位以内にはいってしまう。国のランキングに混じって一地方がだ。
理事長は言っていた、
「昔はな世間では理解できないようなスキルとか持ってるやつを仙術とかっていったんだよ。」
「仙人はその技術を王とかに利用されるのを恐れてたから隠れ住んだんだな。」
「千人に1人程度の才能があるから仙人、なんっつってな!はっはっは」
これを聞いたとき私の目からはウロコがおちた。
なるほど、そうだ、仙人の出現率を千人に独り程度の能力をもった人物と定義するならば、その仙人は東京には1万3千人もいるはずなのだ。仮に、1万人に1人しか現れない外れ値の能力を持つ人間も東京には少なくとも1,000人いる。簡単すぎてベイズ推定をするまでもない。
東京に仙人はいる!
そうだ仙人に会いに行こう!
スクッとコブシを握りしめて立ち上がり、見えないなにかを意思固く見据える姿を見て先輩は両肘をついたまま両手で頭を抱える。
「理事長、酔っぱらってただけだろ・・・」
先輩は小さ声でつぶやくと首をふるのだった。
「最初は凄腕ルーキーが来たと思ったんだけどな・・・。」
(現代ドラマ)東京仙人ズ のーはうず @kuippa
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