第三章 【死神】②
「ただいま」
「ん? 帰ったのか」
リビングの扉を開けると、ソファーに寝転がってテレビを見ているたまが唸り声を上げた。
「何見てるの?」
「ふむ。アニメーションというやつかの」
ソファーの横に立ち画面を見ると、数年前に深夜帯でやっていたアニメの再放送をやっていた。病で寝ている少女が、泣き喚いている少年に別れの言葉を告げている。少年はみっともなく嫌だと泣き喚いているが、少女は優しく穏やかな笑顔だ。内容は知らないが、この少女は重い病気なのかもしれない。少年が、少女がいないと嫌だと叫んでいるのがとても印象に残った。
「途中から見ているのじゃが、結構泣ける話だったぞ。妾はアニメーションを見たのは初めてだったのだが、こういう良い作品もあるんじゃの」
低くささやくような声で言うたまの頬を、一滴の涙が零れていった。
「だが、やはり最後は辛いのぅ……」
たまは徐にリモコンを持つ。アニメを最後まで見ることなくチャンネルを変えると、ちょうど夕方のニュース番組がやっていた。
「……んー」
ぐてーとソファーの上で伸びるたま。
その仕草が猫っぽくって、みっともないよ、という言葉が喉の辺りで止まる。
微笑ましい光景を見て、小さく苦笑してから僕は部屋に戻った。
私服に着替えてリビングに戻ると、たまがテレビ画面に入ろうとしていた。否、画面に張り付き、食い入るようにテレビを観ていた。
その光景にびっくりして、僕は彼女の背後まで近寄り声をかける。
「どうしたの、たま」
反応がない。
たまがテレビを食い入るようにして観ているため、僕は画面が観られず、内容が分からない。音声からしてニュース番組だろうか。
画面を見るのを諦めて、耳を澄ます。
『――で、三人目の被害者は、部活帰りの男子高校生で――』『――命に別状はなく――』『――外傷がないものの――』『――近くに被害者以外の足跡があったことから、警察は何者かに襲われたものとして、調査――』『――一人で出歩かないように注意しましょう』
連続昏倒事件。
ここ五日ほど、この街を騒がしている事件だ。
事件、というにはいささか陰惨さは伺えないが、それでも三人もの男女が何者かに襲われて、路上や公園に倒れていた。それは主に夜から夜中の時間帯に起こっているらしい。
被害者の容体は詳しくわかってはいないが、三人とも酷く体力を消耗していたそうだ。どうしてなのかはまだわかっておらず、被害者の容体は徐々に回復に向かっている、と今朝のニュースでもやっていた。
小さい片隅の町で起きた、そこまで大きくない事件。それでもマスコミはやってくるが、大体はニュースの数分で終わってしまう。世間を騒がせるほどの大きな事件ではないらしい。
僕はソファーの横に立つと、たまに声をかけた。
「たま、テレビには入れないよ?」
「ッ! さ、さすがの妾もそれぐらいわかっておる! 機械の中になどはいれぬことぐらいな!」
それはよかった、と僕は安堵する。
てっきりたまは、感極まってテレビの中に入ろうと考えていたのかと思ったが、それはさすがに僕の勘違いだったらしい。いくら世間に対して無知そうな彼女でも、その分別はつくのだろう。
馬鹿にしているわけではない。
「馬鹿にしているじゃろ?」
「い、いやそんなこと、なななないから!」
「妾はあまり世間を知らぬ。けれどな、さすがにテレビぐらいは知っておるぞ! あやつのかってくる書物に載っていたからのぅ。どこからか電波とかいうものを飛ばして、この画面に映像を流すんじゃろ。わかっておる! 実際に見たのは初めてだけどな!」
コンビニも実際に行ったのは初めてじゃが、名前ぐらいは知っておったぞ! ほんとうだからな! と自信満々に続けるので、優しく微笑んでおくことにする。
「あ」
たまが小さな声を上げた。
「どうしたの?」
答えることなく、彼女はテレビの画面に顔を戻す。
いつの間にかさっきの話題は終わり別の話題がやっていた。
たまがため息をつく。
「ふむ、終わってしまったか。空也、これ、戻せないのか?」
「戻す? 何を?」
「この映像をだ。あやつが言っておったぞ、映像は巻いて戻すことができるとな!」
あやつ、とは一体誰なのだろうか。
「いや、無理だよ。これは録画じゃないから、巻き戻しはできないんだ」
「そうか。ならいい」
テレビに背を向けると、たまはソファーにぽふんっと腰をおとす。
僕は向かいのソファーにすわるとテレビに目を向ける。
いったい、彼女はどうしてさっきのニュースをガン見していたのだろうか。鬼気迫っていると言うほどではないが、大きく目を見開いていたのでやけに気になってしまう。
迷った末、ボーとテレビを眺めているたまに声をかける。
「たま、何か気になることがあった?」
視線がこちらを向いた。
ジッと、黒い瞳が見つめてくるので、思わず吸い込まれそうになるのに耐えられなくなり、目を逸らしてしまう。
「いや、別に何でもないぞ。少し気になっただけで……。今の妾には関係のないことじゃ」
「でも、さっきテレビを見ていたたまは、とても怖かったよ?」
「怖い? ほう、妾が、か?」
少し怒気がこもった声に、慌てて弁解する。
「い、いや、いつもは全然怖くないんだけどね、なんか、さっきのたまの顔、危機が迫っているというか、いやそこまでじゃないんだけど、すこしなんか、驚いているような顔をしていたから、どうしてそんなにもさっきのニュースが気になっているのか、なんか気になっただけで」
ああ、うまく言葉にできない自分がじれったい。
恐る恐るたまを見ると、彼女は怒っているわけでも笑っているわけでもなく、無表情だった。
「なんかが多いと、うざいな」
「ごめん」
「あと、そのすぐ謝る癖をやめるろ。妾は怒っておらぬし、男のくせにめそめそしているのを見ると、いらいらするんじゃ」
「う、ごめん、あ、ご」
はぁ――とため息が響く。
無表情のまま、たまは僕を見続ける。視線を逸らそうとしたが、余りにも真剣な瞳に、僕は俯けずに黒を見返すことしかできない。
謝る癖。確かに、直した方がいいと自分で思っても、幼い頃から染みついてしまった癖はなかなか治らないらしい。思わぬ優しい行為でも、思わず謝ってしまう。本当は、ありがとう、と感謝したほうが空いても嬉しいだろうに。
「……空也」
「な、なに」
「お主は、幽霊が視えるのじゃろ?」
「うん」
「その幽霊はどうやって成仏すると思う?」
「え?」
考えたこともなかった。
幼い頃から周囲に幽霊がいるのが当たり前で、だけど相いれない存在であったものだから、その幽霊がどこから生まれ、どこに消えていくかなんて、考えるだけ無駄だと思っていた。
「わからぬだろうな。幽霊が視えて、その性別や年齢はある程度判別できても、所詮それは赤の他人じゃ。幽霊は……ただの魂は、数日経てば勝手に成仏するからの。前に話した『精霊』と『死霊』を覚えておるか?」
「うん。一応」
「あやつらには自我がある。何故自我があるのか。それは、単にこの世に色濃く未練を残しているからだ。逆に自我がない魂には未練はほとんどないのじゃろうな」
「未練……」
死にたくない。なんてことは誰もが考えていることなのかもしれない。実際に、僕自身もそう思う。死にたくって死ぬ人なんて、ほとんどいないのだから。誰もが生きたいと願っているはずだ。
もしかしたら、こちらと相いれないと思っていたのは僕だけで、僕が『幽霊』だと思っていた者たちの中に、『精霊』がいたのかもしれない。確認をしようとしたところで、意識を向けていなかったことについて、知ることは無意味なのだけど。
「妾は『幽霊』が視える。『霊魂』が視える。だけど、それはお主みたいにたまたま見える体質で産まれてきたわけではない。妾が『霊魂』が見えるのは、それは決められたことなのじゃ」
そう言う彼女はどこか儚げで、それ以上言わなくってもいいよという言葉が喉の途中で引っかかってしまう。続きを聞きたい自分がいるからだ。
「妾の一族は古くから続く家系だ。古くから、『神』と呼ばれる者を祭っておる。『生き神』と言えばわかりやすいか。生まれつき、一族の血をもっとも色濃く継ぐものが『神』と崇め奉られているのじゃ。妾は違うが……今は、お姉様が『神』と呼ばれている。その『神』の仕事は何と呼ばれているかわかるか?」
わからない。知っているはずがない。
僕はここに越してきたばかりで、彼女と出会ってまだ二週間しか経っていないのだ。
いや、そんなこと関係なくわからない。聞いたこともないのだから。
「【魂見】じゃ。霊『魂』を『見』るものという意味じゃの。【魂見】の仕事は、『精霊』を成仏させること。それから、人に害なす『死霊』を無理やり成仏させることだな」
「無理やり?」
「空也は、あの世を信じているか?」
「それは……」
信じている。
それは僕が幽霊を見えるからかもしれないが、死んだ後のことを考えるとどうしようもなく億劫になるときに、あの世があることを想像するだけで少し気分が和らぐのだ。
だから、
「信じている、よ」
「そうか。あの世は確かにある。良き魂は天国に召され、悪しき魂は地獄に落とされる。そういうところじゃ」
「地獄って」い
もし本当に存在するとしたら、きっと僕をいじめてきたあいつらは、地獄に落とされるに違いない。そんなことを考える自分に吐き気がしてきた。
地獄と呼ばれるからには、それはとても酷いところなのだろう。そんなところに誰も行きたいはずがない。
「『霊魂』はもちろんのこと、良い魂は天国に行くことができる。でもな、『死霊』は悪しき魂だから地獄に落とされてしまう。悪しき魂は意外と多い。だから地獄に行く魂は意外と多いのじゃ。そして地獄に行った魂の中で選ばれたものは、許しを得るためにこの世に戻ってくる」
「なんでっ」
思わず叫んでしまった。
悪いことをしたから落とされた魂、それをどうしてこの世に戻すのだろうか。
「疑問じゃろ? 妾もそうじゃ。いつも不思議に思う。でもな、それは『魂見』といえども分からぬことじゃ。お姉様にだったら分かるかもしれぬが、妾には到底理解できん。地獄に行った魂は戻ってくるべきではない」
たまは口を尖らせていた。
僕から目を逸らすことなく、彼女は言葉を続ける。
「許しを得るために戻ってきた魂は、【死神】と呼ばれておる。死の神だなんて、ふざけているにもほどがあるだろ? あやつらは、この世に戻ってきては【魂見】みたいに、良き魂を成仏させて……悪しき魂を消し去るのじゃ」
「消し去る?」
「そうじゃ。成仏させるんじゃない。消す。この世から、消滅させるんじゃ。もちろん生まれ変わることなんてありはしない。悪しき魂の中には、元は良いものもいるのに、そやつらまですべて一切残らず消し尽くす。お姉さまはいつも言っていた。【死神】はもっとも黒い魂が選ばれる。つまり、最も重い罪を犯した悪魔のような魂が選ばれるわけだな。地獄に行った魂は、地獄で苦しみを得たのちに天国に召される。だけどな、そこで苦しみを得てもなお悪しき心を持ち続けた魂は、次に【死神】としてこの世に戻されて、魂を借り尽くすんじゃ」
意味が分からぬじゃろ? とたまが聞く。
そうだと僕は思った。
「【死神】はノルマを達成すれば、悪しき心を持っていたとしても天国に行くことができる生まれ変われることができる。生まれ変わった後に、どうなるかは知らない。善い行いをすることを祈るしかないだろう」
たまが前のめりになる。それにより長い黒髪が前にはらりと広がり彼女の方目を隠してしまう。彼女の言葉は止まることなく続いていく。
「本題はここからだ。【死神】の中には厄介なことに、【人間】の体を乗っ取ることができるのもいるのじゃ。まあ、それも死に際の人間か、死んで間もない人間の体しか乗っ取れないが、人間の体を乗っ取り、この世を生き続ける【死神】もいる。勿論それは許されることではないからな、他の【死神】から狙われる運命になってしまう。だからほとんどの【死神】は人間の体を乗っ取ったりしない。それでもやはりいるのじゃ。少なからず、人間の体を乗っ取る【死神】がな……」
どうして今この話をするのだろうか。
そう思いながらも、僕の口は勝手に言葉を紡ぎ出す。
「たまは、会ったことあるの?」
「残念ながらな。妾はまだ【魂見】の修行の身じゃ。会ったことなどない。【死神】自体な。でもお姉さまはあったことあると言っていたな。詳しくは忘れたが、そういえばその時不思議なことを言っていた」
「不思議なこと……」
「死にたくない死にたくないと願っている意志の強い人間の体を乗っ取った時、【死神】はその意思に飲み込まれてしまい、普通の人間だと思って生きるらしい」
たまは記憶を掘り起こすかのように思案しながら囁く。
「【死神】が人間の体を乗っ取った際、生きている人間の魂の一部を食べなければならないらしい。だけど意識を乗っ取られた【死神】は無意識化で人間の魂を食べてしまう。しかもその【死神】を乗っ取った人間の記憶は少し曖昧になってしまうが、魂を食べれば食べるほど記憶が元に戻るとも言っておったな」
「……それって、【死神】の意識ってどこに行くの?」
「奥底に眠ることになる」
「でも魂を食べるということは、刈っているって意味とは違うの?」
「……妾も詳しくは分からないが、それは違うと思うぞ」
「ということは、人間の意識に飲み込まれた【死神】はノルマを達成できずにずっとこの世にとどまっているということ?」
「そうなるだろうな。だか、地獄の輩共も【死神】を管理しているはずじゃ。人間の意思に飲み込まれたところで、その【死神】は何十年もしないうちに捕まるだろう」
その前に【魂見】に捕まるかもな。
それなら大丈夫か、と僕は安堵するが、同時に疑問が沸いてくる
どうしてたまは、今【死神】のことを僕に話したのだろうか。
今まで自分の話なんてしようとしなかったのに。
さっきテレビ画面に張り付いて観ていたのも気になる。
あのニュースに何か気になることでもあったのだろうか。
「さっきのニュース」
低く静かな声でたまがゆっくりと言う。
僕は言葉の続きを待った。
「【死神】の仕業じゃないか、とそう思ったのじゃが」
「え、なんで!」
「……似ているからじゃ。昔あった事件に」
「事件……?」
「これは十年前のことじゃ。母上から聞いた話なのだが、ある村で次々に村人が昏倒するという事件が起こった」
それは十六人の犠牲を出したという。数日間毎日村人の誰かが酷く体力を消耗した状態で倒れていた。子供からお年寄りまで、年齢も性別も様々だったらしい。真夏の小さな村で起こったものだったものだから、最初熱中症だと疑われていたが、疑問に思った近くの町に住処にしている【魂見】がその村を訪れ、一日調べて【死神】がいることが分かったという。その【死神】は人間に意識を飲み込まれていたが、人間はもともと死んでいたのだ。【魂見】はすぐに対処をしたという。
「対処とは、成仏させた、と考えればいい。【魂見】は魂を操ってあの世に送ることしかできぬからの」
少なくとも妾の一族は、とたまが無感情で言った。
僕は何を言えばいいのか解らず、無言で答える。
【死神】は死ぬ間際と死んだ人間の体を乗っ取ることができるらしい。
それってつまり、人間の体を弄んでいるってことにならないのだろうか?
幼い頃から幽霊が見える僕は、あまり死について考えないようにしていた。死について考えれば考えるほど、どうしようもなく届かない手が虚しくなるから。
死んだあと、どうなるかは誰も分からない。
今ここにいる僕の存在がどうなっているかも分からないし、どうして心臓が動いているのか、そもそもどうして人間は心臓で生きているのか、どうして意識があるのだろうが、今いるこの存在が、死んだ後どうなるのか。怖いのか 痛みは感じるのか? そんなこと、死んだこともない僕には到底理解できないことで、この世に生きている生き物には分からないことで――。
あの世なんて言われても、ぼんやりと思うことしかできはしない。
たまになら分かるのだろうか。
たまの姉ならもしかしたら。
【魂見】は死後の世界を視ることができるのだろうか。
ふとそう思ったが、聞くことはしなかった。
無表情で感情を浮かべないように努めているたまが、どうしようもなく儚く思えて――
きっと彼女にもわからないことなのかもしれないと思い――
どうしようもなく届かないものに手を伸ばすことはしたくなくって――
思わず右手を差し出してたまの頬に触れようとしていた腕を、慌てて引っ込めて握り拳を作ることしかできなかった。
「空也」
名前を呼ばれる。いやに感情のこもらない声だ。
「今回のこの事件、妾の憶測でしかないが【死神】が関わっているのではないかと思っている」
「うん」
「調べてみたいけど妾は外には出られない」
「僕が誘拐しちゃったからね」
「……そうじゃの。だけど、やっぱり外に出たい」
「え」
「明日、学校から空也が帰ってきたら、少し散歩しないか?」
「どこに?」
「この町を適当にぶらぶらとするんじゃ」
「……大丈夫なの?」
「ああ。実は昨日、美奈子が妾に麦わら帽子を買ってきてくれたんじゃ。髪の毛を麦わら帽子で隠し、男物の服でも着ればどうにかなると思う」
「それじゃあ、僕が昔来ていた服が少しあるはずだからそれを着る?」
「ぬ。臭くないか、それ」
「……暫く来てないし、洗濯してあるから大丈夫だと思うけど」
「冗談じゃ。そんなに本気で言わなくってもよいぞ」
「……用意しておくからね」
「そろそろ美奈子が帰ってくる時間じゃな。どれ、夕飯の支度でも手伝うかの」
「い、いやいやいや、たま何を言っているの?」
「ぬ? お手伝いするだけだぞ」
不思議そうに首を傾げるたまに、僕は何とかやめさせようと頭を瞬間的にフル回転させる。
「そういえば、今から面白いバラエティーが始まるよ!」
「ぬぅ……。それ先週見たが、よくわからなかったぞ。何じゃったか。むさくるしい男がいきなり熱湯に飛び込んだり、ぬるぬるしたところで転げまわっていたり、気持ち悪くって笑えなかったのぅ。楽しむ番組なのはなんとなく想像できたが、あれは止めた方がよいぞ。見ているこっちは楽しくなかったし吐きそうじゃったからの」
……確かにそうなのかもしれない。お笑いは好きだが、リアクション系はあまり好きではない。何というか、どうしてあんなことをしたりされたりして笑っていられるのか、僕には理解できないから。
僕は番組表を眺めると、ちょうど子供向けのアニメが始まる時間だった。僕も幼い頃よく見ていたもので、これならたまも楽しめるだろうとチャンネルを変えた。
「ただいまー」
玄関の扉が開く音がしたかと思うと、美奈子さんの声が聞こえてくる。
それに反応してたまが嬉しそうに玄関に向かって行った。僕は慌てて後について行く。
玄関で脱いだ靴を揃えている美奈子さんに近づいたたまは、元気に言うのだった。
「夕餉の準備、手伝うぞ!」
「まあ、ありがとう、たまちゃん。助かるわぁ」
無邪気に言うたまに、柔和な笑みで答える美奈子さん。
どうにか阻止しようと思っていたけど、もう僕に止めるのは無理みたいだ。ため息をつく。
二人に近づくと、苦笑した。
「おかえり、美奈子さん」
「ただいま、空也君。夕飯までちょっと待っていてね」
スリッパに履き替えた美奈子さんがリビングに消えて行く。続いて消えて行くたまの楽しそうな姿を見て、僕は馬鹿らしくなりもう一度ため息をついた。
「今夜のご飯、いつになったら食べられるかな」
たまは結構物を落とすからなー。不器用って程じゃなく、ただ慣れてないからだろうけど。
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