最近の我らの星活報告

城屋

第一部:ジャンクポット編

第一章:甘い言葉を吐く美少女は大体詐欺師

第1話 ジャンクを掘る太郎

金持ちは全てを支配することができる。

今となってはもう『お金が全てではない』は、貧乏人の寝言ですら聞けなくなった言葉だ。


金で買えないものがあったのは、経済の未発達な場所での話。資本主義となったこの世界においては、むしろ金で買えないものが金で買えるものへと置換されているのだから。


他の星との流通が活発化してから、一体どれほどの時間が経っただろう。少なくとも、青森林太あおもりりんたの記憶の最初の時点ではこうだった。


林太がいる場所は、ジャンクポットと呼ばれている。経済が急激に発展した結果生まれた、歪みの終着点だ。

大量消費を繰り返される日用品の残骸や、いらなくなった家電製品などが大量に投棄される。法の整備が遅れているので、残念なことに不法投棄ではない。あまりにも投棄されるゴミが多すぎて、取り締まろうとすればするほどに政府が疲弊してしまう。


ただし、悪いことばかりとも言えない。ジャンクポットにいるのは、成長する経済に取り残されてしまった者たち。ゴミの中から使えるものを引っ張り出し、日々を凌ぐ。もしも明日からジャンクポットにゴミが流れ着かなくなったら、それの方が余程困る。既にゴミは生活の一部だ。


「……ん。よし。ヒューズをゲット」


比較的状態のいいトースターを分解し、中から部品を取り出した林太は、身を翻してゴミの山から下りた。

林太の計算通り、彼がついさっきいた場所に、数トンの重量はあるであろうゴミの雨が降り注ぐ。のヤツらがまたゴミをジャンクポットに落としているのだろう。


見上げてみれば、灰色の空から開いた青い穴からゴミが垂れ流しになっているのがよく見える。


このジャンクポットは、地球の首都の下にある。意図的に開けられた穴か、事故で開いた穴なのかはわからないが、上の人間はそこからゴミを捨てているというわけだ。


「なんか使えるのないかなー」


しかし、これは物心が付いたころからの話なので、腹も立たない。漫画なども落ちてくることがあるから退屈もしない。若干不潔だということ以外は、特に不満のない毎日だ。


家族もいる。雨も降らない。かなり手間はかかるが風呂にも入れる。おそらく、こんな日々がいつまでも続いて、普通に老いて死ぬのだろう。


そう思っていた林太は――


「おーい。そこに誰かいるのかー?」

「お?」


ゴミの中に埋まっている運命を見つけた。


一本の腕がゴミの山から突き出ていて、周りを探るように蠢いている。何かの拍子に、可哀想な誰かが嵌ってしまったのだろう。

ここで仏心を出して、助け出そうとしてもいいことは何もない。更に上から降ってくるかもしれないゴミに、押しつぶされての二次災害に巻き込まれかねないからだ。


だが、林太は助けることにした。しばらくゴミは振ってきそうにないとタカを括って。

テコの原理や、今までのゴミあさりの経験を総動員してテキパキとゴミを排除していく。

しばらくすると、なんとか頭らしきものが見えてきた。フードのようなものですっぽり覆われているので髪型すらわからないが、隙間から瞳は見える。どうも女性のようだ。


「大丈夫か?」

「ああー……大丈夫じゃない。二日酔いで頭もガンガンするし……」


確かに少し酒臭い。だが、どうも林太とそう歳は離れていない少女のように見える。フードの隙間からチラリと見える姿は、どことなくあどけない。


「ゴミの山に埋まってるんだぞ。頭以外にも痛いと思うけど」

「あー? そうかも。そうか。なんか変だと思ったら埋め立てられてんのか」

「何を他人事みたいに」


雑談しながらも手は休めない。しばらくすると


「あ。これならもう自力で出れそうかも」


と、少女はゴミをかき分けて自力で這い出した。

全身を眺められるようになると、いかにもみすぼらしい。どうも、頭から膝下までを隠すぼろきれ以外は何も着ていないようだ。ゴミに揉まれたせいでところどころ破けている。少し刺激が強い。


「いやー、助かった助かった。ありがとさん。ところでお前、誰?」

「こっちの台詞だ」


林太はぴしゃりと跳ねのける。

どうも少女の声色と顔に見覚えがない。ジャンクポット近郊の住人ではないようだ。


「私か? 私はな。とある酒場で限度額無制限のポーカーやってて、有り金全部スッちまって、借金地獄を一晩で作りあげた上に、身ぐるみを剥がされてここにブチ落とされたギャンブラーだ」

「落とされたって……」


ここから『あの穴』までは、おおよそ三〇〇〇mほどの距離がある。そこから落とされたらまず無事では済まないだろう。

しかし彼女はどうも、足が折れているなどの目立った傷はない。


「いやー。火星の開発産業に投資して一発当ててたから、全身を宝石や金で埋め尽くしてたんだけど。見事に全部没収されちゃったなー」


それが本当なら見事すぎる転落人生だ。


「……お前、マジであの高さから落ちてきたのか?」

「うん」

「無傷っぽいけど」

「頑丈なんだ。産まれつき」

「……まあいいや。ジャンクポットにようこそ。俺は青森林太」

「テスカ。本名は滅茶苦茶長いんで、ファーストネームだけにしとく」

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