15 メーリスとの再会

★★★

蓮雄がナン達と出会った頃。

ヘルは次々と、いや一瞬で敵を殺していった。それを空中で見守るゼロ。

今にも『王装』をやめさせたいのだが、自分が言ったとしてもやめることはないだろう。力を最小限に抑えてはいるが、それでも代償は大きい。

『王装』。それは人の領域を超えた力。特定の条件を満たした者にしか与えられない、神のような力。だが、その力を『神』と呼ばずに『王』と呼ぶのは、別に『神』とかよく使われるから、という理由ではない。この力は『神』と呼ぶにはふさわしくない力なのだ。この、人の領域を超えた力。こんな『神』のような力に、なんの代償がないわけがない。その代償は『命』だ。この『王装』を1回使う度に『命』の1年分、つまり寿命が1年縮むというわけだ。だから、ずっと使っていれば1回使うだけで済んで『命』は削られないのか、という疑問もあることはあるのだが、それは不可能だ。『王装』というのは、人の領域を超えた力。そんな力を常に使うことなど不可能。それこそ、すぐに死んでしまう。人には体力というものがあるのだから。

だから、ゼロはあまりヘルに使って欲しくなかった。だが、ヘルは使ってしまう。

こんな雑魚ども相手に普通は使わないのだが、その数の多さに使わざるおえなかった、とヘルは思っている。

目で追えないスピードで殺していくヘルは、少し違和感をおぼえていた。いや、毎度のことなのだがやはり『王装』は居心地が悪い。それに、なんだ自分の中の何かが削られていく感じがするのも、この違和感にはいっていた。

確かに『王装』強い。今でも、敵は手足も出ずに立ちすくんでいる。逃げ出す者もいるが、別にヘルはそいつらを殺す理由などない。別にこいつらが殲滅対象ではないし、それに――命を狙ってるのは私ではなくアイツだから――。

ヘルはこれ以上、山に向かわせないように敵を殺していく。普通に逃げ出すのは別に構わないが、山の方に向かう奴らは殺す。たとえ自分の足がなくなったとしても、山の方には行かせない。


★★★

〈異賊暴〉第1使徒〈神炎〉船甲板。木で作った大きな十字架にくくりつけられた者達がいた。そこに、第1使徒〈神炎〉隊長メーリス・アルボートと〈鷹蛇狼〉代表(トップという意味ではない)メイビィ・レッカもいた。

もうそろそろ本格的に始めよう、と思っていた。

「へぇ……この子がレオンの記憶を取り戻しちゃった、悲劇の原因さんねぇ……」

「地球で昔から伝わる『術』というものを得意としているらしいよ」

「ふーん……ま、そんなこといいけど、この子何に使うつもりなの?」

会話は聞こえている。だが、口と目を隠されているので喋ろうにも喋れないし、誰かも見えない。『恐怖』しか感じられなかった。

「んー……僕は他人の『恋』をぶち壊すのが好きなんだよねぇ……」

「恋……?この子は誰に恋してるんだ?」

「さぁ……まぁもうすぐに僕に強制的に恋させてあげるけどね……」

「ユー恐ろしいわ……私も寝取られちゃう……」

もちろん冗談に決まっている。

すると、レッカはその女に向かって歩き出した。

「あ、そうそう。そういえばその子の名前は?」

「都茂龍架という名前らしいよ」

「そう……どこかで聞いた気が……」

メーリスはそこで考えるのをやめた。やめた、というより違う方に気がとられたからだ。

レッカがいきなり、都茂龍架の服を破ったのだ。……どうやら犯しちゃうらしい。

都茂龍架は声ならない悲鳴を上げた。服は破ったが、さすがに下着までは破っていない。そこまでボリュームのない胸だが、楽しめない、という程でもない。

「……じゃ私は挨拶してくるわ」

「了解」

「……ヤ★★ンめ……」

メーリスは最後になんか変なこと言って、甲板から飛び降りた。レッカは気にしなかった。

「じゃあ始めようか――」

都茂龍架はさらなる恐怖に襲われた。

その刹那、レッカが龍架の胸を両手で思っきし掴んだ。

そして、首元まで顔を近づける。

鼻息が首に当たり気持ち悪い。

レッカはそのまま舌を出して首元から耳元まで舐めた。

龍架の目から涙が出てくる。

胸を揉んでいた手の片手を離して、そのまま人差し指でヘソの辺りまでなぞる。

くくりつけられたまま、龍架は必死に抵抗した。だが、そんなの通用するはずもなく。

そのヘソまでなぞったその手は、龍架のズボンの中に侵入しようとしていた。

一旦止めて、ニヤリと笑ってスボンの中、すなわちパンツの中に手を突っ込んだ。

「んんんんんんんんんんんんんんんんんん!」

龍架が悲鳴を上げる。

――いや!やめて!やめて!

レッカは、首元を舐め、胸を揉み、パンツの中に手を入れる。それを同時に行っていた。

誰なのかわからない相手に犯されている。恐怖でしかない。

――このままじゃ、こいつの言いなりになってしまう……!

つまり、落ちてしまう、ということだ。それだけは嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!

そして、一旦止まった。

レッカは一旦すべてをやめて、落ち着かせる。そして、耳元で

「もうすぐで僕のものにしてあげるからね――」

そう言って龍架の口を縛っていた縄を外して、龍架が何かを話す前にその唇を唇で塞いだ。

口の中に舌を入れ、絡め合う。

そして、胸を揉んで、下半身を楽しむ。

小刻みに動く下半身。

龍架も感じられずにはいられなくなった。

どんどんと激しくなっていく。

龍架の意識が変わっていく。

――こんなの初めて……だけど!私はあきらめない!

だが、龍架は踏ん張った。

しかし、それはすぐさま打ち消される。

胸を揉む手が止み、下半身に加わった。

2本(10本の)手が龍架の下半身を襲う。

龍架は本当に感じられずにはいられなくなった。

――このままでは……!

だが、次の瞬間、下半身で革命的なことが起きて、龍架の頭は真っ白になった。


甲板から飛び降りたメーリスは魔法を使って、ゆっくりと降下していった。メーリスは空を飛べる訳では無い。

「どこのエ★漫画かしら……」

女の自分にとってアレはちょっと……。

まぁそんなことはどうでもいいとして。

メーリスはある3人に目を向けた。レオンとナンだ。だが、もう1人見慣れない怪物がいた。その者は『狼』のように獲物を本当の意味で捕食している。

そして、もう2人にも目を向ける。ニューヘル女王だ。もう1人のジジィはどうでもいいわ。うん、どうでもいい。

やはりあれは『王装』……ニューヘル女王使えたのね……。

それは異世界の人間の領域を超えた力。やはり強い。

まぁそんなことはいいんだけど……。

再びレオン達の方に向く。

そして、魔法を放った。


蓮雄達3人は追い込まれてなどいなかった。逆に、敵達を追い詰めている方だ。だが、敵の数が予想を上回るほどに多いい。それと、カッコ付けもしたくて、今3人は背中を合わせている。これかっこよくない?

そう、カッコ付けだ。何か?え?悪い?

「昔もこんなことあったなー」

「それはてめぇーが馬鹿やってたからだろ……俺は完璧に巻き添えだ……」

てかねーよ。昔こんなことなった記憶ねーよ。なるわけねーだろ。いつなんだよ。

「昔もよく、こんなことして遊んでたなー」

「どうでもいいから目の前の敵に集中しやがれ」

「嵐にー?」

「は?」

「嵐に★やがれー?」

「うん俺は今から標的を変えるわ」

「そういうこと言うなよー」

「お前がふざけなければいいことだろうが!……てかマジでさっさとこいつらころ――」

ドン!ドン!ドン!ドン!

蓮雄の言葉を遮り、上からいかりが落ちてきた。間違えた……いかりね錨。碇シ★ジ落ちてきたら怖いから。覚醒しちゃうから。

その錨は蓮雄達を攻撃しず、蓮雄達の周りに落ちた。それが敵達の上に落ちて、潰し殺してしまう。いや、しまうじゃなくて、してくれた、というべきか……。

錨には鎖がついており、それは上に続いていた(落ちてきた、という時点で上なのは確実なのだが)。

見ると、そこに1人の女が浮いていた。いや、ゆっくりと降りてきている。

その女の周りに4つの魔法陣があり、そこから錨の鎖がでてきていた。つまり、この錨を落としたのはこの女、というわけだ。

その女には見覚えがあった。蓮雄もナンも。

その女は、


【メーリス……アルボート……!】


見事に蓮雄とナンの声が重なる。

メーリス・アルボート。レオンとナンと同じ、昔の仲間。だが、今のメーリスの目は仲間ではなく、敵という目をしていた。

「やぁ久しぶり……バグ・レオンとナン・ポレルート」

2人は言葉を失っていた。

メーリスが2人をフルネームで呼んだのには意味は無い。うん、意味はない。

「あれ?無反応ー?久しぶりだというのに寂しいわねー」

「……なぜ、お前がここにいる?」

「さぁ?だいたいユー達なら想像つくと思うけど?」

一瞬、その想像がついてしまった。だがしかし、そんなはずはない。俺達仲間の因縁の敵の仲間になるはずが――

「そうよ。私が〈異賊暴オーガ〉第1使徒〈神炎ウリエル〉隊長……メーリス・アルボートよ」

【な……!】

その言葉には2人が驚いた。

そんな……バカな……!

「何ー?衝撃的すぎたかしら?」

「……嘘だよな……?」

「レオン――」

「嘘だよな!?」

蓮雄はナンの言葉を遮って2度メーリスに問いかけた。

嘘だと言って欲しい。いや、嘘だ。こんなのありえるわけがない。

だが、

「嘘じゃないわ……私は本当に〈異賊暴〉第1使徒〈神炎

〉隊長、メーリス・アルボートよ」

「……な、なんでだよ……なんでだよ!〈異賊暴〉は俺達の……俺達の恩師を奪った奴らなんだぞ!?」

「あら、その恩師の名前も覚えてないユーに言われたくはないのだけれど」

「!?」

そんな……なんでそのことを知っている?俺の記憶のことを、なぜメーリスは知っている?なぜだ?

「……なんでかって?そりゃあ決まってるじゃない……私が強いからよ」

『強いからよ』のフレーズがなぜか、頭の中で何度も繰り返される。

それに、その回答の意味がわからない。強いからわかる?何を言っているんだこいつは。

「それだけじゃー入る理由にはならねーなー」

「あら?誰だっけ?」

「ナン・ポレルートじゃボケェ!さっきお前俺の名前呼んでただろー!」

「あぁごめんなさい……」

「いや、真面目に謝ってんじゃねーよー!」

バカはバカ。それは絶対に覆らない。ワァオ。

「……おいメーリス!何があったんだよ!」

「別にユー達に話す義務なんてないんだけど」

それを言われてしまったらもう終わりだ。

と、そこでメーリスが空中で停止する。もちろん、羽根などついていない。なのに、なぜかメーリスは浮いていた。

「義務はなくても俺達は仲間だー。話してはくれんのかー?」

「だからあなた誰よ!?」

「ナン・ポレルートって言ってんだろー!何!?狙ってんのー!?そのボケ狙ってんのー!?」

「ナン・ポレルート……誰それ……そんな人いたかしら」

「もうお前いい加減にしろよー!?」

どうやら、蓮雄の周りというか、蓮雄の昔の仲間にはバカしかいないらしい。

そんなボケている間、蓮雄は頭の中で整理していた。

一方、紀亜はというと迫り来る敵達を食っていた。

「……な、なんで……」

「ユーもしつこいわね。理由なんてどうでもいいのよ。今言えるのは、私はユーの首を狙ってる、それだけよ」

「おいなんでだー?別にレオンは悪いことしてねーだろー?」

「あら?ユーも知ってる通り、レオンは取り戻してはならないものを取り戻してしまった。ただ、それだけよ……ユーも同じ理由でレオンに会いに来てるはずだけど?」

「……だからなんだー。レオンが記憶を取り戻して都合が悪いのはおたくらだけだろー。俺にとっちゃー親友が俺のことを思い出してくれて嬉しいもんさー」

ナンが蓮雄を見て笑う。

蓮雄はこんがらがる頭の中、その笑顔の意味だけはわかった。


「だからもう失いさせはしない……

ダチが死にそうなら助ける。

ダチが困っていたら助ける。

ダチが笑ったら自分も幸せ。

ダチが泣いたら自分も悲しい。

ダチがいるから自分も生きれる。

ダチを殺そうとするヤツらを殺す。

それが……親友ってもんじゃねーのかー?」


最後のは置いていて。

「何が親友だ……親友なんてあてにならないわ……親友なんて信じたらいけない……そうよ……少しは黙ったらどうかしら……女王を……女王を見殺しにした分際がぁぁぁぁぁぁぁ!」

瞬間、メーリスの周りに魔法陣が10個ぐらい現れる。そして、そこから錨が落ちてくる。

ナンは放心状態の蓮雄を担いでジャンプしてよける。

見事、とは言わないがなんとかよけれる。

が、その錨がナンに向かって動いた。

どうやらこの錨は、ただ落ちるだけでなく動くらしい。とても厄介な魔法だ。

その錨はナンに当たり、ナンは遠くまで吹き飛ばされた。その時少量の血を吐く。

その際、ナンは蓮雄をかばって投げ捨てた。だから、よけれなかったのだ。

蓮雄は投げられる寸前、ナンの言葉によって正気を取り戻していた。

そのため、蓮雄は投げられて着地できた。

蓮雄に迫り来る錨。

「あぁそうだなナン……親友を痛みつけられて黙ってる俺じゃねぇ……!」

その錨を剣で受け止める。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

すべての錨が蓮雄に向かう。

蓮雄はそれを剣1つで受け止めようとする。

そこに、もう一つ剣が加わった。

それはナンだった。

2人で錨を受ける。


「たとえ敵となった仲間だろうと!」

「道を踏み外したら!」

【全力で引き戻してやらぁ!】


カキーン、

と錨が消えた。


【だから俺は、今すぐてめぇーを救いに行ってやる!】

「へぇ……」


蓮雄とナンが背中を合わせて、剣をメーリスに向ける。

メーリスはフフッと笑った。

「じゃあ待ってるわ……もうすぐ素敵なパーティーが始まるわ……」

そう言ってゆっくりと上昇していった。

――やはり面白い。

メーリスはニヤリと笑った。

――その時、メーリスが涙を流していたのには、誰も気づかなかった。

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