14 俺は本物だ!――いや、お前は偽物だ!

★★★

蓮雄はもうそろそろアレを使わないといけないのか、と思っていた。

さすがに『治癒魔法』の連続はきつく、剣の速さも少し落ちてきた。だが、まだ山のふもとだ。どうやらこいつらはこれ以上進めないらしい。というか、本気で俺の首を取るらしい。だが、そんなことはさせない。

――俺は自分しか信じない。

――俺は俺だけのことしか考えない。

それは、今までの経験上で導き出された答えだ。

――他人を信用すると、恩師を失う。

――他人のことを考えて行動すると、恩師を失う。

だから俺は自分を信じる。たとえ俺が責められたとしても、守るものがある限り自分しか信用しない。だから俺は向かわなければならない。だから、

「そこをどきやがれぇぇぇぇぇぇぇ!」

蓮雄はそう叫んだ。叫んだから通してくれるわけではない。蓮雄は剣の速さを取り戻し、連続で『治癒魔法』を発動する。

あんな嘘厨二野郎に任せておけない。

俺があいつを守る。

いや、守れるのは俺しかいない。

もう失いたくない。だからそこをどきやがれクソ野郎ども。

てめぇーらにかまっている暇はない。

てめぇーら如きを殺しても価値はない。

ほんと、マジどいてくれ。

何度も言うが、もう大切な人を失いたくはない。2度とだ。

だから、だから……

「頼むからそこを……通せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

いやマジ通してください。

瞬間、蓮雄の剣を魔法陣が通過する。

そして、一瞬後には蓮雄の剣が長く大きな剣に変わっていた。

赤と灰色の剣が、赤い炎と灰色の炎に包まれた大きな太刀に変わった。長さは約25m。かなりの長さだ。

蓮雄はその太刀を大きく振り回す。

敵が2つに斬られていき、周りの木々も切られて倒れていく。

たとえ道が塞がれようとも、俺は何度でも斬り開く……!

そして、大切な人を守り通す。

それが、昔俺が心に決めたことだ。

何度も何度も大きく振り回すが、敵は怯むことなくどんどん押し寄せてくる。本当に無限に敵が溢れてくる。

だが、蓮雄も諦めず何度も振る。

たとえ無限に敵がこようとも知ることじゃない。いや、どうでもいいことだ。

前に進みながら振る。敵は下がっていくが、数は増える一方だ。

そしてついに、この『魔法』の効果がきれた。

赤い炎と灰色の炎に包まれた大きな太刀は、赤と灰色の普通の剣に変わっていた。

だが、蓮雄は攻撃をやめることはない。どんどん敵に向かっていく。

「どけ……!どけ……!どけ……!」と心の中で、1体死ぬ事に叫んでいった。

だが、次の瞬間、上から何かが落ちてきたかと思うと、敵達の真上に着地して、何人かを殺した。

蓮雄の攻撃が止まった。敵の攻撃も止まった。

全員が上から落ちてきた2人に目を向ける。

「ナン……?」

「やぁ久しぶり……偽物のバグ・レオンー」

その男は銃口をこちらに向けたまま、そう言った。

この男は確かにナン・ポレルートだ。見間違えることは無い。あのサングラスにマフラーで口元を隠していてあの銃を持っているのは、ナン・ポレルート以外ありえない。

ただ、隣のネコ耳女は知らない。あんなやついただろうか?

「ナン様ー?こっちが本物のバグ・レオンとかいう男だと思うのは、私だけルル?」

「うんーそれはお前だけだー……こいつは偽物のバグ・レオンだよー」

2人の会話が理解できなかった。

俺が偽物のバグ・レオン?は?いや、俺は本物のバグ・レオンだ。

「おいナン何を言って――」

バン!

と蓮雄の声を遮るように、ナンは引き金を引いた。その銃弾は、蓮雄の肩を貫通していった。

1歩後ろに退る。いや、自主的にではなく、反動的に。

肩の傷口を押さえる。

「うるさいなー。偽物のバグ・レオンは黙って死んでー」

「……おいてめぇー何言ってやがる……!?」

「お前こそ何言ってんだー?偽物なんだろー?」

「何が偽物だ!俺は本物だ……!……てめぇーが連中に何吹き込まれたか知らねーが、目を覚ましやがれ」

「ごめんー何言ってるのか意味不明ー」

「おいおい……久しぶりの再会がこれかよ……」

「しらばっくれてんじゃねーぞー」

「ほんとてめぇーどうしたんだよ?なんだよ偽物のバグ・レオンって」

「それが、お前のことだよー。偽物のバグ・レオンー」

「だから、俺は本物のバグ・レオンだ。てかてめぇーこそ偽物のナン・ポレルートじゃねーのか?あん?」

「喧嘩売ってんのかあんー?」

「先に売ってきたのはてめぇーだろうがあん?」

「いいや、偽物が先に言ってきたんですあん?」

「あん?」

「あん?」

【あん♡】

「いや、いい加減戦闘しろルル!偽物とか本物とかどうでもいいからさっさと終わらせてよルル」

と、紀亜が呆れたように言うと2人は静かににらみ合った。

「ふん……俺が本物ということを説明してやらぁ!」

「上等だゴルァー!」

蓮雄(?)は剣をナン(?)に向け、ナン(?)は蓮雄(?)に銃口を向けた。

先に動いたのは蓮雄だ。

剣を構えてナンに向かって走る。

ナンは銃を5発撃った。

蓮雄はそれを、細い剣を盾にして自分を守った。

蓮雄の剣が堅いのか、ナンの銃弾がやわいのか、傷が少しついただけだった。

そのまま突っ込んでいく蓮雄。

蓮雄がすぐ目の前で剣を振り上げたとき。ナンは、銃から剣を出し、それを受け止める。

「相変わらず剣は離さないんだな」

「偽物が……」

剣を押して一旦離れる。

そして、ナンと蓮雄が剣を向かい合わせる。

両方同時に動いた。

カキーン!

と、金属が強くぶつかる音が何度も聞こえる。

どちらも、互角……というわけでもない。

蓮雄は少し、いや、かなり劣っていた。

銃を磨き上げているナンに、剣術で互角以下。

蓮雄は焦っていた。その為か、剣が少し鈍っている。

ナンは少し楽そうだった。手を抜いている感じにも思える。

それが、蓮雄をさらに苦しめた。

なぜこいつに負けている……!?

そんなに……そんなに俺は弱いのか……!?

屈辱だった。なぜ剣術で勝てない?昔は俺の方が上だったのに……!

はっきり言って、蓮雄はナンに劣っていた。

蓮雄は前に進むどころか、圧されて後ろに下がっている。

違う……!俺は弱くなんかない!こんなクソ野郎に……

「負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

――カキーン。

蓮雄の動きが止まった。いや、動けなかったのだ。

蓮雄の首には剣先が突きつけられている。

蓮雄の手には剣が握られていなかった。

その剣は周りで傍観していた者の頭に突き刺さり、その者は死んでいた。……ダサくね……?

蓮雄は負けた。もう殺される。

そして、ニヤリとナンが笑うと剣を大きく振り上げた。

そして、ナンは剣を振り下ろした。

ナンは本当の親友を殺した――のではなかった。

ナンが斬ったのは、蓮雄の後ろにいた敵の1人だった。

体を真っ二つに斬られて倒れていく。まぁ死んだだろう。

蓮雄は目を見開いた。てっきり、自分が殺されると思ったのだ。

「バカだなー俺が親友を見分けられないやつじゃねーよー」

そこには、先程までとは違う、ナン・ポレルートがそこにはいた。

「ナン……」

「それ以上言うなー。俺はあんな連中の手下に惑わされるわけないだろー」

そう。ナンは薄々勘づいていた。もう、〈異賊暴〉の船が見えた時点で『バグ・レオンを殺す』とわかっていた。だから、わざと仲間のフリをして蓮雄を助けに来たのだ。

「紀亜ー食事の時間だぞー」

「えーさっき食べたルル……。まぁでも、腹の中に貯めておくのも悪くないルル!」

そう言いながら突っ込んでいって、食べまくる。本当に肉を喰いちぎって捕食する。

「ナン……あの子は……?」

「あー紀亜のことー?……実はね、あのネコ耳女本物の『狼』だよー」

「本物の……?」

「まるっきり本物ってわけじゃないんだけどねー……紀亜は人しか食べられないんだよねー」

「は……?」

「つまり、紀亜の食事は『人』。紀亜のエネルギーは『人』の血や肉なんだー」

「お前……なんでそんな奴……」

「約束しちゃったからねー」

「約束?」

「……とにかく今は、こいつらを殺すのが優先だぜー」

ナンはその約束について喋る気はないようだ。別にそれ以上詮索するつもりはない。話したくないのならそれでいい。それよりも、早くヘルのところに行くのが優先だ。

蓮雄は剣を構える。

ナンは剣をしまい、銃にした。そして、もう一丁銃を取り出す。

いつの間にか2丁でできるようになったようだ。会わない間に成長はするもんなんだな、と蓮雄はその時思った。ただ、その成長の中には蓮雄は入っていない。蓮雄は昔と変わらない。昔と変わらず、己しか信用しない。集団行動においてはただの邪魔者だが、単独行動ぼっちにおいてはそれが必要不可欠だ。

蓮雄は不気味に笑った。

ナンは気にしない。昔からこういう奴だから。変わっていない、と言えば嘘になる。確かにこういう時に不気味に笑うのは変わらないが、それ以上に大きく変わったところがあった。それは、『剣術』だ。昔より、はるかに弱すぎる。さっき、久しぶりだから本気出してやったろう、と本気でかかったのだが蓮雄は相当弱かった。手を抜いているわけでもなかった。確かに蓮雄は本気だった。ナンは途中で手を抜いて戦って、あと1歩のところで殺してしまうほどになっていた。なぜなのかわからない。だが、確実的に昔よりはるかに弱い。この会わない間に何があったのか……ナンはそう考えていたが、途中でやめて目の前の敵に集中する。

だがやはり、さっき手を抜いていたという可能性があったので、

「じゃあレオンの本気の『剣術』を見せてもらおうかー」

「あぁ……」

そのまま蓮雄も突っ込んでいった。だが、先程と剣術が変わっていない。どうやら、本当に昔と変わってしまったみたいだ。

ナンは途中でやめて、周りの敵達を連射する。

3人はどんどんと数を減らしていった。

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